1,000PV到達記念話 すべての始まり
1,000PV到達しました。
ありがとうございました。
お礼小話です。
序章前の話。
分かる方はニヤニヤできるかもです。
ーー星暦1437年 10月5日
某王立図書館にて
「っ、危ない!?」
「…。」
そんな声が響いたのは、セルディオの所属する研究所からほど近い、とある図書館の一画だった。
何冊もの分厚い資料を両手で持ちながら、ふらふらと前に進んでいたセルディオ。
その先には、銀縁の片眼鏡を掛けた、腰まである、白髪が混じった藍髪の老人がいた。
そして、セルディオはーー
転けた。それはもう、見事に。
ズッデーン、とでも効果音が着きそうなほどに。
ただ、忘れてはいけないのはーーセルディオの持っていた、分厚い資料達。
それらは、見事な放物線を描いてーー藍髪の老人に降りかかった。
そして。
「っ、危ない!?」
「…。」
冒頭へと繋がる。
セルディオが、図書館の床に伏せながら見た光景は、そこまでだった。
ゴッ…!
老人がどうなったのか確かめる間もなく、後頭部に強い衝撃を受けたセルディオは、意識を闇に沈めた。
ドサドサドサ…!
セルディオが意識を失って数瞬後。
複数の重いものが墜ちる音が、図書館の中に響いた。
ーー…ん?この資料は……。
小さく呟いた老人は、傷ひとつ負うことなくーー静かにその片眼鏡を光らせた。
…その事態に気付いた者は、どこにもいなかった。
「ーーんっ……。」
後頭部の鈍い痛みで、目が覚めた。
「…知らない天井だ……。って、どこなんだ、ここ。」
「…俺の家だ。」
人の声に、痛む頭を無視して顔を向ける。
ーー気付けなかった…。
物音どころか、気配すらしなかったというのに。
この藍髪の老人は、見た目以上にやり手のようだった。
「…目が覚めたか。」
「……はい。あの…、」
「…シェイラを呼んで来る。安静にしていろ。」
「……。」
一方的なやり取りの後、セルディオが思ったことはひとつ。
(「シェイラ」って、誰のことだ?)
その答えが判るまで、後数分。
「ーーはい。もう大丈夫よ。」
「ありがとう、ございます。…シェイラさん。」
「ふふっ。気にしないで、セルディオ君。うちの夫が勝手に連れて来てしまって、悪かったわねぇ。」
「い、いえ…。」
「シェイラ」の正体は、呆気なく判った。
彼女は、品のいい、落ち着いた色合いの服を着た、穏やかな老婦人だった。
頭に巻かれていた包帯を取り換えた時の、手際の良さから考えると、看護師や医療関係のプロだろう。
そして、なんと。
彼女は、あの藍髪の老人の奥さんだった。
そのことを知ったセルディオの反応は……筆舌に尽くしがたかった、とだけ言っておこう。
「…忘れ物だ。」
「っ!?」
「あら、あなた。確かそれって…。」
「……。」
いきなり現れた藍髪の老人に息を呑むセルディオとは反対に、驚いた様子のないシェイラは、老人が差し出した「物」に驚きの声をあげる。
それを目線で制した老人は、セルディオの目の前に一冊の本を差し出した。
ーー『時守の森についての考察』
[探求者]兼[解析者] ヴェン:著
「…これは?」
見覚えのない題名に首をかしげるセルディオ。
けれども、彼の目は輝いていた。
何故ならーー『時守の森』についての資料だからだ。
一般的に、『非生存域』の資料というものは少ない。(『未探査地域』は論外。)
セルディオが図書館で持っていた分厚い資料ですら、1ページ分あるかどうかと言えば、その情報の少なさがよく分かるだろう。
よって下手すれば、目の前の資料は、セルディオが図書館で持っていた資料よりも情報量が多いことになる。
『時守の森』に、並々ならぬ関心を持っているセルディオからすれば、藍髪の老人の持つ資料は、喉から手が出るほど欲しいものだ。
だが。
「……何故。」
何故、自分がその本を欲しいと思っていることが分かったのか。
多少警戒しながら尋ねられた老人は、その目を細めながら答えた。
「…図書館で持っていた資料から推測しただけだ。」
「………。」
「…それにーー気に入った。」
「は?」
予想外の答えに、思わず声を出したセルディオだったが、藍髪の老人は「…時間だ。」とだけ言って、セルディオに本を渡して部屋から出て行った。
「……。」
「ふふっ。セルディオ君、気を悪くしないであげて。あの人の「気に入った」は、最上級の誉め言葉なのよ。」
「シェイラさん…。」
困ったように笑う老婦人に曖昧に頷いたセルディオは、ぽつりと呟いた。
「……あの人、何者なんだろう…。」
「あら、知らなかったの?」
「っ!…シェイラさん。」
「驚かせたかしら、ごめんなさいね。」
「いえ。でも、「知らなかった」とは…?」
困惑するセルディオに、シェイラはひとつの爆弾を落とした。
ーー「だってあの人、この本をかいた張本人なのよ。」
ーー「……はあああ!?」
セルディオが驚きから立ち直るまでに、それから数分の時間を要した。
一ヶ月後。
「ーーであるから、グラフから見てここはーー」
「…いや、ここが矛盾する。よってーー」
「ああ、成る程。ならばーー」
「……。二人共。仲が良いのは良いことだけど、休憩ぐらいしなさいな。」
セルディオとヴェンの二人は、シェイラが呆れるほどに、仲良くなっていた。
…放っておけば、一日中議論を続けそうだが。
シェイラがクッキーを持って来たことで、一旦議論は中断された。
「時守の森、行って来ようかな…。」
小さく呟かれたセルディオの言葉に、ヴェンが反応した。
「…なら、行く前にアイツにこれを渡せ。」
小さくニヤリと笑ったヴェンに気付いたシェイラは、心の中でセルディオに祈った。「強く生きなさい」、と。
宛先を聞くセルディオに、ヴェンは事も無げに告げた。
「…この街のギルドマスター。」
「は?」
「…昔の仲間だ。」
「……はあああ!?」
ああ、と付け足したその時のヴェンの笑顔は、それはそれは良いものだったらしい。
「…時守の森のある場所に、『時守の森』の真実について知っている奴がいる。」
「……!」
「…ギルドマスターは、そいつの場所を知っているらしい。」
「……!!」
後にシェイラに「悪魔の囁き」と言われたヴェンの言葉に乗せられたセルディオは、ヴェンとシェイラに礼を言うと、足早に去って行った。
ーーその後、残された二人は。
「……あなた。」
呆れたように言うシェイラは、全てを知っている。
だからこそ、ヴェンがしようとしていることを止めないのだ。
「…大丈夫だ。俺はもう『認めた』。」
「……まさか、彼にあの本を…?」
「…ああ。二人も『認める』だろう。」
「そう…。良かったわね。」
「…ああ、やっと…。やっと、お嬢の『お願い』が果たせる。」
ーー全ての始まりは、悪魔の囁きからだった。
そして物語は始まりを告げる。
500ユニーク到達すれば、また何か書くかも知れません。
番外編の話とは被らないようにします。
「こんな展開の話が読みたい」等、リクエストもお待ちしています。
では。
蒼咲猫




