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時鐘のアリア  作者: 蒼咲猫
終章
19/21

第三話 物語の後で ~side セルディオ~

お待たせ致しました。




   ~   ~   ~   ~   ~



「……そして、それから幾つもの季節が巡りーー

 『帰らずの森』は、『時守(ときもり)の森』と呼ばれるようになったのじゃ。」

「……。」

「…これが、『時守の森』の「真実」じゃよ。」


 ……物語が終わったときには、クード殿と出逢ってから、5日の時が経っていた。

 5日目の今日も、既に太陽は西に傾いていて。

 蒼い空は、茜色に染まっていた。


「クード殿、その…。冒険者(クェールシア)の三人は、その後、どうなったのですか…?」

 躊躇(ためら)いながらも尋ねた私に、クード殿は笑って答えた。

「ほっほっほ。

 三人は、その後の5年を探求者(クェールシア)として過ごした後、パーティを解散し、それぞれの道へ進んだのじゃ。」

「引退、ですか…。」

「そうじゃよ。

 一人(ヴェン)は、一族文字(ロアヒルト)の解読に。

 一人(カイル)は、ギルドの特別教官に。

 一人(クイド)は、『時守の森』の近くに(シュロア)(おこ)した。」

「『シュロア』…?もしかして…。」

 聞き覚えのある名前は、ここ数日泊まっている宿のある村の名前で。

 クード殿の話を聞いた今では、その名前は『時の一族の国(アッシュロア)』を意識しているとしか思えない。



 そして、それよりもーー


 『『時森のクード』。今は、そう呼ばれておる。』


 そう言ったクード殿の言葉が、今更浮かんできて。

今は(・・)」という言葉に、疑問を抱いた。



「クード殿。」

「なんじゃ、セルディオ殿。」

「クード殿は…」

 一旦、言葉を切った私が何を言いたいのか。解っているはずのクード殿は、笑みを浮かべたままで。

 しかしーーその表情からは、何も読み取ることが、できなかった。

「どうしたのかね、セルディオ殿。」

「…いえ、なんでもありません。」

 クード殿の表情を見て、喉まででかかっていた言葉を飲み込んだ。

「ほっほっほ。そうかね、そうかね。」

 心底愉しそうに笑うクード殿。

 その声を聞いて、飲み込んだはずの疑問が、頭の中に響いた。


ーー貴方(クード)は、もしかして………。

     『クイド』ではないのですか?





「ーーありがとうございました、クード殿。」

 小屋から出て、お礼をいう私に、相変わらず愉しそうに笑うクード殿。

 この5日間で見慣れたクード殿とも、今日でお別れだ。

「なに、構わんよ。…そうじゃ、セルディオ殿。」

「はい…?」

「ワシからの餞別じゃ。」

「っ!?」

 ひょい、と投げ渡されたのは、白金の表紙に、蒼い金属で装飾の施された、新品にも見える一冊の本。

 表紙に書かれた、見たこともない言葉に、その本が何であるかを悟る。

 はっとして顔をあげた先には。

「クード、殿……?」

 朽ちて崩れかけている、小さな小屋だけがあった。

「え…?」

 さっきまで、確かに存在していたはずのクード殿は、どこにも居なかった。

 それどころか、小屋までもが一気に老朽化して、見る影もなくなっていた。

 唯一確かなことは、右手にある、一冊の本。

 恐らくは一族文字(ロアヒルト)で書かれた、その本だけだった。

 日が暮れてきて、空が朱に染まっていく中。

 その本はーー淡い光を発していた。

ひらりと。

 その本から落ちてきた紙を読んだ私は。

 ーー悪戯っぽく笑う、クード殿の姿を見た気がした。

「…ありがとう、ございました。クード殿。」



『これを読んでいる誰かへ

  嬢ちゃん(かのじょ)と出逢って、もう50年以上の時が過ぎた

 。

 残念だが、「(クイド)」の人生で、この本を渡すに値する

 人物と出逢えることはなかった。

  嬢ちゃんには申し訳ないが、嬢ちゃんと同じように

 時鉱石を使って、「(クイド)」は「ワシ(クード)」になることにし

 た。

 期限は、この本を渡すに値する人物に出逢うまで。

 その時まで、時鉱石の効果が続いていることを願う。


                 クイド



 追伸

  ワシは姿が消えただけで、『時守の森(ここ)』におる。

 心配は無用じゃよ。

  心配をかけたかのぅ、セルディオ殿?

  ほっほっほ。


  今のワシは、時森と同化しておる。

  『時森のクード』の名にふさわしいと思わぬかね。

  では、

  また何時か、時の流れの先で逢おうぞ、セルディオ

 殿。

                 クード    』



  ーーそれ(であい)はきっと、

     『(アッシュ)』が導いてくれた。


  ーー何時か、時の流れの先で。

     そう言った彼ら(アリアたち)の声が聞こえた気がした。




後書き


 これが、私が知り得た『時守の森』の全てだ。

 どうかこの記録が、誰かの記憶の片隅にでも残ってくれることを願う。

 ーーーー

 最後に。

私の人生で、この先何があろうと、『時守の森』について、決して忘れることがないだろう。

 何時か、時の流れの先で。

 彼らと出逢うことを、今から楽しみにしている。



星暦 1437年 11月15日


 王立ミュヘル歴史研究所所属

 歴史研究家・考古学者      セルディオ




 完結しました。

ここまでお付き合いくださり、ありがとうございました。


 誤字脱字、批評や感想などお待ちしています。


 11月下旬頃に、番外編を投稿する予定です。

良ければ、読んでいただければと思います。

番外編のリクエストもお待ちしています。


 では、またどこかで。

            蒼咲猫

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