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異世界執事  作者: 伊簑木サイ
そして二人はいつまでも幸せに暮らしましたとさ。

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50/50

この腕の中に

 甘く震える高い旋律を奏で、絡みつくような生気に陶然とする。自然と引き寄せられ、我が主を腕の中に閉じこめる。

 脆く弱い体。その指で何一つ裂くこともできず、その腕で何一つ屠ることもできない。その頭に深い叡智を宿しているとは言い難く、その意思もまた強固とは言えない。むしろ、我が言の葉、まなざし一つで、惑い、揺れる。

 なんと卑小な生き物。

 だが、この体が宿し紡ぎだす生気に、どうしようもなく魅せられる。

 この体を裂き開き、丹念に調べても、どこにあるとは見つけられない。しかし、柔らかな体を撫でさすり、唇を重ね、舌で愛撫すれば、さらに甘やかに高鳴り、我が内をかき乱す。

 これが欲しい。もっと欲しい。我が内を満たしてほしい。他の何もわからなくなるほどに。いや、我を失うほどに。これに満たされ、揺蕩(たゆた)いたい。

 それは、決して叶わぬ望み。そして、最初に我が拒んだ望み。

 我を失くすほどに満たされれば、我は我でなくなる。我が我であるからこそ得られる、この快楽を。

 満たされることがないからこその、渇望を。

 焦れるあまりに喰らってしまいたくなる衝動と、歯を立てた肌の柔らかさに、どことは知れぬ場所が疼き、優しく触れ、内からだけでなく、外から触れる体でも声でも、我に絡みつかせたくなる欲望がせめぎ合う、この葛藤を。

 それらこそを、我は欲する。

 腕の中の細い首に吸いつき、柔らかな肌を舐る。命の証たる鼓動の跡を辿り、ん、ん、と甘い声を漏らし、自らしがみついてくる体を、隙間もないように抱きしめる。

 そうして、甘やかにかき乱れる生気に惑溺する。

「千世様」

 たまらずに名を呼べば、生気がひときわ大きくうねった。

「ん、あ、八島、さ……」

 その呼び声が、我を慰撫し、乾きを助長する。何度聞いても、永遠に飽くことはないだろう。


 我が望む世界のすべては、この腕の中に。

1.続きをムーンに投稿しております。

  18歳以上の方は、よろしければタグ検索でお寄りくだされば嬉しいです。


2.紙の本にまとめました。

  ご案内はこちら

    https://twitter.com/saichanmys/status/1578719453772075008

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