この腕の中に
甘く震える高い旋律を奏で、絡みつくような生気に陶然とする。自然と引き寄せられ、我が主を腕の中に閉じこめる。
脆く弱い体。その指で何一つ裂くこともできず、その腕で何一つ屠ることもできない。その頭に深い叡智を宿しているとは言い難く、その意思もまた強固とは言えない。むしろ、我が言の葉、まなざし一つで、惑い、揺れる。
なんと卑小な生き物。
だが、この体が宿し紡ぎだす生気に、どうしようもなく魅せられる。
この体を裂き開き、丹念に調べても、どこにあるとは見つけられない。しかし、柔らかな体を撫でさすり、唇を重ね、舌で愛撫すれば、さらに甘やかに高鳴り、我が内をかき乱す。
これが欲しい。もっと欲しい。我が内を満たしてほしい。他の何もわからなくなるほどに。いや、我を失うほどに。これに満たされ、揺蕩いたい。
それは、決して叶わぬ望み。そして、最初に我が拒んだ望み。
我を失くすほどに満たされれば、我は我でなくなる。我が我であるからこそ得られる、この快楽を。
満たされることがないからこその、渇望を。
焦れるあまりに喰らってしまいたくなる衝動と、歯を立てた肌の柔らかさに、どことは知れぬ場所が疼き、優しく触れ、内からだけでなく、外から触れる体でも声でも、我に絡みつかせたくなる欲望がせめぎ合う、この葛藤を。
それらこそを、我は欲する。
腕の中の細い首に吸いつき、柔らかな肌を舐る。命の証たる鼓動の跡を辿り、ん、ん、と甘い声を漏らし、自らしがみついてくる体を、隙間もないように抱きしめる。
そうして、甘やかにかき乱れる生気に惑溺する。
「千世様」
たまらずに名を呼べば、生気がひときわ大きくうねった。
「ん、あ、八島、さ……」
その呼び声が、我を慰撫し、乾きを助長する。何度聞いても、永遠に飽くことはないだろう。
我が望む世界のすべては、この腕の中に。
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