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エヴァーアフター〜僕らの旅は続いていく〜  作者: 令和の猿


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第一話世界樹と小さな妖精①


深い森と山々に囲まれた、小さな村――ミレア村。


長かった冬が、終わろうとしていた。


山々を覆っていた雪は少しずつ解け、森の木々には小さな若葉が芽吹き始めている。


畑では冬を越した土を耕す者がいて、軒先では洗濯物が春風に揺れている。


いつもと変わらない、穏やかな朝だった。


――少なくとも。


「シン! 待ってってばー!」


村の外れから少女の声が響いてくるまでは。


「遅いよ、ノアー!」


シンと呼ばれた少年が立ち止まり、振り返った。


まだ五歳の少年は息を弾ませながらも、元気いっぱいに笑っている。


「もう! いつも勝手に走っていくんだから!」


ようやく追いついたノアは、膝に手をついて息を整えた。


「じゃあ早くついてくればいいじゃん!」


頬を膨らませるノアを見て、近くにいた村人たちから笑い声が上がった。


「二人とも朝から元気ねぇ」


「ほんとに仲良いな、お前ら!」


「えー?」


シンは不思議そうにノアを見た。


「いつも一緒だもんね?」


「そうだね」


二人にとっては、それが当たり前だった。


「ハハハ! お前らを見てると、俺たちまで元気になるぜ!」


「じゃあ、おっちゃんまたね!」


シンはそう言い残すと、再び走り出してしまった。


「あっ! じゃあ私も行くね!」


ノアは村人たちにぺこりと頭を下げると、慌ててシンの後を追いかけた。


村を飛び出した二人は、そのまま森へと続く道を駆けていった。


しばらくして――。


「着いたー!」


そこは、二人がいつも遊び場にしている森の中の小さな広場だった。


「シン、今日は何するの?」


「今日はね……秘密!」


「えー、言ってよー!」


「ついてくれば分かるよ!」


シンはそう言うと、いつもとは違う方向へ歩き出した。



「ねぇ、そっちは行ったらダメって言われてたでしょ?」


「誰にも言わなきゃバレないよ!」


悪びれる様子もなく進んでいくシンを、ノアは少し困った顔で追いかけた。


それからしばらく、二人は森の奥へと歩いた。


進むにつれて、いつも歩いていた道は少しずつ細くなっていく。


やがて踏み慣らされた道はなくなり、周囲を囲む木々も、いつもの遊び場よりずっと深く、薄暗く見えた。


「昨日さ、村のおじちゃんたちが話してたんだ」


前を歩いていたシンが、思い出したように口を開いた。


「あのでっかい木、誰も近くまで行けないんだって!」


「なんで?」


「なんか、魔法がかかってるらしいよ!」


ノアは少し考え込んだ。


「それって……危なくないのかな?」


「大丈夫、平気だよ! 何かあったら僕が守るから!」


シンは自信満々に胸を張った。


「ほんとかなー?」


――ガサッ。


不意に、すぐ近くの茂みが揺れた。


シンは足を止めた。


「……今、何かいた?」


ノアもシンの隣で立ち止まり、揺れた茂みをじっと見つめる。


「うん……何か、音がしたね」


シンは恐る恐る茂みへ近づいていった。


――ガサッ!


「わっ!」



茂みの中から勢いよく飛び出してきたのは、一匹のリスだった。


驚いたシンはその場に尻餅をつき、リスは二人の横を駆け抜けると、そのまま森の奥へ消えていった。


「……いたた。なんだ、リスかぁ」


そんなシンを見て、ノアはくすくすと笑った。


「シン、驚きすぎだよ」


「あんなの誰でもビックリす……ん?」


言い返そうとしたシンが、ノアの背後へ目を向けた。


「何かあそこにいる」


シンはノアの後ろを指さした。


「私を驚かそうとしてるんでしょ」


「違うよ! 何か光ってる!」


ノアは振り向いた。


「どこー? 何もいないじゃん」


「あそこだよ! あっ、動いた!」


「……あっ! ほんとだ。何か光ってる!」


木の陰から、淡い光がふわりと動いた。


小さな光は二人から逃げるように、森の奥へ飛んでいく。


「ノア! 行くよ!」


シンは勢いよく走り出した。


「もう! またー!?」


ノアも慌ててその後を追う。


二人は木々の間を飛んでいく小さな光を夢中で追いかけた。


どこをどう走ったのか。


いつから道がなくなったのか。


二人には分からなかった。




ただ目の前を飛ぶ光だけを追い続けているうちに、いつしか周囲の森は、それまで歩いていた場所とはどこか違う雰囲気へ変わっていた。


鳥の鳴き声が遠くなり。


木漏れ日は柔らかくなり。


森の奥だというのに、不思議なほど息苦しさを感じない。


けれど、二人はそんな変化に気づく余裕もなく――。


「ハァ、ハァ……もう少し……!」


シンは目の前を飛ぶ光へ手を伸ばした。


そのとき――。


ドサッ!


「シン、大丈夫!?」


「……ったぁ……」


足元の石につまずき、シンは派手に転んでしまった。


膝を擦りむき、うっすらと血が滲んでいる。


「私を置いて先に行くから、罰が当たったんじゃない?」


「そんなこと……」


言い返そうとしたシンの言葉が、途中で止まった。


「……え?」


目の前に、巨大な幹がそびえ立っていた。


シンは痛みも忘れてゆっくりと立ち上がり、その巨木を


見上げる。


見上げても。


見上げても。


その先が見えない。


遥か頭上まで伸びた幹は無数の枝へと分かれ、芽吹いた若葉が空を覆っていた。


風が吹くたびに枝葉が揺れ、ざわざわと波のような音が森に響く。


シンは呆然としたまま、視線を下ろした。


村の大人たちが総出で手を繋いでも囲めるのか分からないほど、幹は太い。


「……大きい……」


その後ろでは、追いついたノアも同じように巨木を見上げていた。


「……すごいね……」


二人はしばらく、目の前にそびえる巨木から目を離すことができなかった。


すると――。


巨木の根元で、何かがふわりと光った。


「あっ、いた!」


「えっ? 何が?」


「さっきの光だよ!」


シンは巨木の根元へゆっくりと近づいていった。



先ほどまで二人から逃げるように飛んでいた光は、今度は動こうとしない。


近づくにつれて、その光の中に小さな人影のようなものが見えてきた。


「ん? 小人?」


それは巨木の根に隠れているつもりなのだろうか。


しかし、小さなお尻だけが根の陰からしっかりとはみ出

している。


背丈は二十センチほど。


背中には、小さな羽まで生えていた。


シンはそっと両手を伸ばし、その小さな身体を捕まえた。


「なんだこいつ。……羽?」


その瞬間、小さな何かがシンの手の中で暴れ出した。


「ひゃああっ! 見つかったー! 離してー!」


「わっ! 喋った!」


シンの目が大きく見開かれる。


「ノアー! こっち来てー!」


「いたの?」


ノアが駆け寄ってきた。


「うん! ほら!」


シンは小さな何かを乗せた両手を、ノアの前へ差し出した。


「こらー! 離してってばー!」


「えっ、この子喋ってる!?」


「うん! すごいよね!」


シンは目を輝かせていた。



「名前はなんて言うの?」


「なんで教えなきゃいけないの!」


「私はノア。こっちはシンだよ。あなたは?」


「……リリィ……」


「リリィっていうんだ!」


シンが嬉しそうに笑った。


「よろしく、リリィ!」


「……シン。……ノア」


リリィは二人の顔を交互に見た。


「…………」


そして、辺りを見回す。


「…………あれ?」


「どうしたの?」


「なんで人間がここにいるのー!?」


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