3-5 運命の待ち合わせ
【今回の見どころ】
待ち合わせは午後一時。一雄は約束の三時間前、有頂天のままデート用の服に身を包んで遊園地へと向かう。
道中、立ち寄ったバイク屋でオヤッサンから手渡された、一輪の美しい赤い薔薇。
「美月さんに渡すまで、絶対に枯らさない」
そう誓って、鏡の前で何度も笑顔の練習を繰り返しながら彼女を待つ一雄。
しかし、約束の時間を過ぎ、二時、三時、そして夕方の五時を迎えても、遊園地の入り口に美月の姿は現れない。
萎れゆく薔薇を抱え、それでも「何か理由があるんだ」と夜空の月を見上げる一雄の裏で、運命の歯車は冷酷に回り切り――。
【作品紹介】
本作は、noteで「運命の人〜ストーリー〜」として執筆している小説を、小説を読もう!用に投稿しました。
一人の男がバイト先のハンバーガーショップの店員(実は地下アイドル『UVA48』のセンター・美月)への純愛を暴走させ、周囲を巻き込む大騒動へと発展していく、切なくも狂気的な音楽連動型・現実世界恋愛小説です。
【公式連動楽曲】
iti視点ソング『運命の人〜暴走〜』の歌詞世界と完全シンクロ!!
一雄の脳内で運命の歯車が激しく回り出す瞬間を、ぜひメロディと共にお楽しみください!
【2作連動の仕掛け】
主人公「宇場一雄」は、別作品『フーデリオン』の主人公と同一人物です。あちらの作品に登場する「喉に傷があるバイク屋のオヤッサン」の正体とは? そして店に飾られた「一輪の赤い薔薇」の真相とは……?
二つの世界線が交錯する時、本当の『運命』が紡がれます。
【連動楽曲】
YouTube・noteにて順次公開!
①iti視点「運命の人〜暴走〜」
②UVA48視点「運命の人〜完全拒絶〜」
激しく狂おしい音楽の予感を胸にお楽しみください。
(リンクは後書きの下にあります)
【3−5 本文】
土曜日。
一雄は、約束の時間より三時間も早く遊園地へ向かった。今日は、バイクではなく電車を使うことにした。
美月と一緒に遊園地を出たあと、帰りの電車でも隣に座っていたい。
そんな未来を、何度も頭の中で思い描いていた。
駅へ向かう前、一雄はひいきにしているバイク屋「モトショップ ウバ」に立ち寄った。店の隅に置かれた、あの一輪の薔薇が目に入った。
工具とオイル缶に囲まれた、小さなガラス瓶。
その中で、赤い薔薇が静かに咲いている。
一雄は、しばらく薔薇を見つめていた。
「オヤッサン」
「なんだ」
「薔薇ってさ。一輪だけでも、プレゼントになるかな」
オヤッサンは、手にしていたウエスを止めた。
「相手によるな」
「美月さんに渡すんだ」
一雄は、照れながら言った。
オヤッサンは、一雄の顔を見た。
それから、店の隅に置かれた薔薇へ視線を移した。
「……一輪で十分だ」
「本当に?」
「多けりゃいいってもんじゃねえ」
オヤッサンはそう言って、奥から赤い薔薇を一輪取り出した。
新聞紙ではなく、薄い白い紙で丁寧に包んである。
「これを持っていけ」
「えっ。いいの?」
「売り物じゃねえ。余ってたやつだ」
一雄は薔薇を受け取った。
赤い花びらは、雨上がりの光を受けて、静かに揺れていた。
「ありがとう、オヤッサン」
「枯らすなよ」
「美月さんに渡すまで、絶対に枯らさない」
一雄は、薔薇を大切そうに胸元へ抱えた。
オヤッサンは、何か言いかけた。
しかし、結局、何も言わなかった。
一雄は駅へ向かった。
手の中には、一輪の薔薇。
頭の中には、美月と過ごす一日の予定。
そのすべてが、すでに始まっているような気がしていた。
帰りは、美月と一緒に電車に乗るかもしれない。
隣の席に座る。
今日の出来事を話す。
駅に着いてからも、もう少しだけ一緒に歩く。
そんな帰り道まで想像していた。
一雄にとって、今日のデートは遊園地だけではなかった。
行きの電車も。
帰りの電車も。
すべてが、美月との思い出になるはずだった。
白いシャツに黒いジャケット。
何度も鏡の前で確認した、デート用の服装だった。
いつもの黒い眼鏡だけは、外さなかった。
これも、itiとしての自分の一部だからだ。
一雄は、電車の中でも何度も時計を確認した。
午前十時。
待ち合わせは、午後一時だった。
まだ、二時間以上ある。
しかし、一雄には、その時間さえ長く感じられた。
「喜んでくれるかな」
一雄は、薔薇を見つめながらつぶやいた。
美月は、どんな顔をするだろう。
驚くだろうか。
照れるだろうか。
もしかすると、涙を流すかもしれない。
一雄の頭の中では、すでにデートが始まっていた。
一緒にアトラクションに乗る。
食事をする。
観覧車に乗る。
そして、頂上から見える街の明かりを眺めながら、二人の気持ちを確かめる。
遊園地を出たあと、二人は同じ電車に乗る。
美月は、今日楽しかったですね、と言う。
一雄は、また来ましょうと答える。
そして、次の約束が生まれる。
頭の中では、帰り道まで完璧に決まっていた。
一雄は、何度もその場面を想像した。
正午になった。
遊園地の入口には、次々と人が集まってくる。
家族連れ。
友人同士。
恋人たち。
その中に、美月の姿はまだなかった。
一雄は、入口から少し離れた場所に移動した。
美月が来たとき、すぐに見つけられるようにするためだった。
十二時三十分。
一雄は、また時計を見た。
十二時四十五分。
花束を持つ手に、少し汗がにじんだ。
十二時五十五分。一雄は、鏡代わりにスマートフォンの画面を見た。
髪を整える。
眼鏡の位置を直す。
午後一時。
約束の時間になった。
一雄は、遊園地の入口を見つめた。
美月は来なかった。
一雄は、しばらく動かなかった。
周囲では、楽しそうな声が飛び交っている。
子どもの笑い声。
アトラクションの音。
音楽。
人々の話し声。
そのすべてが、遠くに聞こえた。
「少し遅れているだけだ」
一雄は、そう考えた。
美月は、時間に正確な人だ。
ても、今日は特別な運命の日だ。
きっと今日のための服装や身だしなみに、予想以上の時間がかかっているのだろう。
僕のために一生懸命オシャレする美月。
なんて可愛い人なんだ。
一雄は想像するだけで顔を赤らめていた。
午後一時十分。
まだ来ない。
一雄は、スマートフォンを確認した。
美月からの連絡はなかった。
午後一時二十分。
もう一度、確認した。
やはり、何も届いていない。
一雄は、薔薇を見た。
薔薇は、まだきれいだった。
「きっと、急いでいるんだ」
一雄は、また自分に言い聞かせた。
午後一時三十分。
人の流れは、何度も変わった。
しかし、美月だけは来なかった。
一雄は、待ち合わせ場所を少し広げた。
入口の右側。
チケット売り場の前。
近くのベンチ。
美月が見落としている可能性もある。
一雄は、何度も周囲を見回した。
そのたびに、似た髪型の女性を美月だと思った。
しかし、どの女性も美月ではなかった。
午後二時。
一雄は、ようやくベンチに座った。
花束を膝の上に置く。
「美月さんは、必ず来る」
一雄は、そうつぶやいた。
来ないのではない。
まだ、来ていないだけだ。
午後三時。
空の色が、少しずつ変わり始めた。
一雄のスマートフォンには、何の連絡もなかった。それでも、一雄は帰らなかった。
美月は、僕との約束を忘れるような人ではない。何か事情がある。
きっと、そうだ。
午後五時。
遊園地の明かりが点いた。
周囲の人々は、楽しそうに帰っていく。
一雄は、入口に立ったままだった。
薔薇の茎を包んでいた紙が、少し湿っていた。
それでも、一雄は手放さなかった。
美月に渡すまでは、この薔薇を守らなければならない。
それは、一雄にとって、単なる花ではなかった。
美月との約束そのものだった。
薔薇は、少しずつ元気を失っていた。
一雄は、薔薇を見つめた。
「美月さんは、来なかった」
その言葉を口にした瞬間、胸の奥が少しだけ痛んだ。
しかし、一雄はすぐに首を横に振った。
「きっと何か来られなかった理由があるんだ。」
美月が自分を嫌っている。
そんな可能性は、考えなかった。
考える必要がないと思っていた。
運命は、そんな簡単に終わらない。
一雄は、薔薇を抱えたまま暗くなり始めた夜空を見あげた。
月が顔をのぞかせはじめていた…
【3-6へ続く】
第12話をお読みいただきありがとうございました!
明日の同じ時間に、第13話「3-6 マンションへ」を投稿予定です。お楽しみに!
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【主題歌のお知らせ!!】
主題歌は2つ 別々の視点から作詞しました!
①iti「運命の人〜暴走〜」
②UVA48「運命の人〜完全拒絶〜」
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