3-3 もっと話したい
【今回の見どころ】
「一雄さんと話すの、楽しいです。もっと、ゆっくり話せたらいいんですけどね」
美月が口にしたその言葉に、一雄の頭の中で歓喜の鐘が鳴り響く。
『楽しいと言われた』『もっと話したいと言われた』『次は、二人で会う』
カレンダーの赤ペンの印を増やし、運命の成就を確信する一雄。
しかし、その幸せな妄想の裏側で、美月は部屋の中で静かに引っ越しの段ボールを組み立て、カーテンを閉めていた。
男が何も知らぬまま突き進む純愛の最果て、夜逃げへのカウントダウンが静かに加速する――!
【作品紹介】
本作は、noteで「運命の人〜ストーリー〜」として執筆している小説を、小説を読もう!用に投稿しました。
一人の男がバイト先のハンバーガーショップの店員(実は地下アイドル『UVA48』のセンター・美月)への純愛を暴走させ、周囲を巻き込む大騒動へと発展していく、切なくも狂気的な音楽連動型・現実世界恋愛小説です。
【公式連動楽曲】
iti視点ソング『運命の人〜暴走〜』の歌詞世界と完全シンクロ!!
一雄の脳内で運命の歯車が激しく回り出す瞬間を、ぜひメロディと共にお楽しみください!
【2作連動の仕掛け】
主人公「宇場一雄」は、別作品『フーデリオン』の主人公と同一人物です。あちらの作品に登場する「喉に傷があるバイク屋のオヤッサン」の正体とは? そして店に飾られた「一輪の赤い薔薇」の真相とは……?
二つの世界線が交錯する時、本当の『運命』が紡がれます。
【連動楽曲】
YouTube・noteにて順次公開!
①iti視点「運命の人〜暴走〜」
②UVA48視点「運命の人〜完全拒絶〜」
激しく狂おしい音楽の予感を胸にお楽しみください。
(リンクは後書きの下にあります)
【3−3 本文】
さらに一週間が過ぎた。
一雄は、以前よりも頻繁に店へ行くようになっていた。配達の依頼が入ったときだけではない。
店の近くで待機し、注文が入るのを待つことも増えた。美月に会える可能性があるなら、それだけで十分だった。
その日も、一雄は店の前にバイクを止めていた。
スマートフォンには、女性との会話について調べた記録が残っている。
『相手の話をよく聞く』
『否定しない』
『共通の話題を見つける』
一雄は、その三つを何度も読み返した。
やがて、店のドアが開いた。
美月が、外へ出てきた。
一雄と目が合う。
美月は、少し驚いたような顔をした。
それから、ゆっくりと笑った。
「一雄さん。ここにいたんですね」
「はい。たまたまです」
一雄は答えた。
本当は、三十分前から待っていた。
しかし、それを言う必要はないと思った。
「お仕事ですか?」
「はい。配達の待機中です」
「そうなんですね」
美月は、バイクの横まで歩いてきた。
一雄は、ヘルメットをかぶることも忘れて、美月を見つめた。
「今日は、忙しそうですね」
「少しだけです」
「一雄さんは、いつもこの辺りにいるんですか?」
その質問を聞いた瞬間、一雄の胸が高鳴った。
美月は、自分の行動を気にしている。
自分がいつ、どこにいるのかを知りたいと思っている。
「美月さんに会えるかもしれないので」
一雄は、正直に答えた。
美月の笑顔が、一瞬だけ止まった。
しかし、すぐにいつもの表情へ戻った。
「そうなんですね」
美月は、静かに言った。
一雄には、その言葉が照れ隠しに聞こえた。
「美月さんは、普段お休みの日は何をしているんですか?」
一雄は、スマートフォンで調べた会話のコツを思い出した。
相手のことを聞く。
否定しない。
会話を続ける。
「買い物をしたり、友達と出かけたりします」
「そうですか」
「一雄さんは?」
「僕ですか?」
一雄は、少し驚いた。
美月のほうから、自分のことを聞かれた。
「僕は、音楽を作ったりしています。あとは、配達をしています」
「忙しいんですね」
「でも、美月さんと話せるなら、忙しくても大丈夫です」
一雄は、自然な言葉として言った。
しかし、美月の表情がわずかに固まった。
その変化に、一雄は気づかなかった。
「……ありがとうございます」
美月は、笑顔で答えた。
そして、少し間を置いてから言った。
「一雄さんと話すの、楽しいです」
その言葉を聞いた瞬間、一雄の頭の中で何かが弾けた。
楽しい。
美月さんも、僕と話すことを楽しんでいる。
一雄の中で、その言葉は大きく膨らんでいった。
「僕も、楽しいです」
一雄は、夢中で答えた。
美月は、ほんの少しだけ視線をそらした。
「もっと、ゆっくり話せたらいいんですけどね」
一雄は、息を止めた。
もっと、ゆっくり話したい。
それはつまり、店員と配達員という関係を超えたいということだ。一雄は、そう解釈した。
「いつか、ゆっくり話せますよ」
「……そうですね」
美月は、笑顔でうなずいた。
その日の夜。
一雄は、部屋の壁に貼ったカレンダーを見つめていた。美月と出会ってから、もうすぐ一か月になる。
一雄は、赤いペンでいくつもの印をつけていた。
名前を呼ばれた。
歌に興味を持たれた。
会話を楽しいと言われた。
もっと話したいと言われた。
その下に、最後の項目を書き加えた。
『次は、二人で会う』
一雄は、ペンを置いた。
そして、ゆっくりと笑った。
「もう、準備はできている」
その頃、美月は部屋の中で、静かに荷物をまとめていた。まだ、箱は一つだけだった。
机の上には、新しい住所が書かれたメモが置かれている。
美月は、そのメモを確認すると、スマートフォンを手に取った。
UVA48のグループチャットを開く。そこには、メンバーから新しいメッセージが届いていた。
美月は、短く返信した。
『もう少しです』
送信したあと、美月はスマートフォンを伏せた。そして、窓の外を見た。
一雄は、まだ何も知らない。
自分が少し優しくするたびに、未来を信じている。
美月は、窓のカーテンを静かに閉めた。
【3−4へ続く】
第10話をお読みいただきありがとうございました!
明日の同じ時間に、第11話「3-4 運命の誘い」を投稿予定です。お楽しみに!
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【主題歌のお知らせ!!】
主題歌は2つ 別々の視点から作詞しました!
①iti「運命の人〜暴走〜」
②UVA48「運命の人〜完全拒絶〜」
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