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憂鬱な冒険

目を覚ますと、そこは、天地すべてが真っ白な光に

あふれた何もない世界だった。

「何もない、ここはいったい。」


ヘンリーがゆっくりと周りを見渡していると、

少し離れたところに倒れているニナがいた。

「ああ、そうか。ここはそういうところか。」


ヘンリーは悟った。そうだ、ぼく、あの人と一緒に

来ちゃったんだ。

勝手なことして、ノーラ怒るだろうな。

またビンタされるかな。


ママ、パパ、華子、ごめんね。もう一度会いたかったな。

でも、自分が決めたことだから、うん。


ヘンリーがニナの方へ歩み出そうとした瞬間、

誰かが腕を掴んだ。

「えっ?」

振り向くと、ヘンリーより年上の金髪の少年が

腕を掴んでいて、その子に隠れるようにして、

黒髪の小さな男の子がいた。


「えええ、ひょっとしてお祖父ちゃん?

と、言うことは、あの、ルーパスさん?」

小さな男の子はぼくを見て、こっくりとうなずいた。

「うわあ、あああ、あああ!お祖父ちゃん!」


ぼくは、まだお兄ちゃんのお祖父ちゃん?に抱きついた。

「おじいちゃん、ぼく、ぼく、ごめんなさい!」

お祖父ちゃんはにっこり笑って気にするな、

と言う感じで首を横に振った。


そして、ぼくの両肩に手を置いて、大きくうなずくと

最後にもう一度、ぎゅっと抱きしめてくれたんだ。


それから倒れているニナさんのところに行くと、

ひざまずいてニナさんを抱きかかえると、

光の強い方へゆっくり歩き出した。

小さなルーパスさんは、お祖父ちゃんの肘のあたりを

掴んだままこっちを向いて、恥ずかしそうに笑うと

バイバイって手を振ってくれた。


光の中に消えていく最後の瞬間、目を閉じて抱かれている

ニナさんが、わずかに微笑んだように見えた。

やがて光の中に三人の姿は溶けていき、

見えなくなってしまった。


ヘンリーは目を閉じ、心の奥の一番深い所で、

暗い森の中でうずくまったままのミヒャエルに声をかけた。


ねえ、ミヒャエル、聞こえてる?

お姉さんがそっちにいったよ。

もう、大丈夫。きみもお家にも帰れるよ。本当だよ。

みんなでお姉さんを迎えてあげてね。


「ヘンリー君、ヘンリー君!ノーラが!」

アーサーさんの声で、現実の世界に引き戻された。


「ノーラ!大丈夫、しっかりして!」

ノーラは体中ずたずたに切り裂かれ、

大量の血を流してぐったりとしている。

「ちょっと待って、今すぐ回復魔法をかけるから!」


マジックボックスを取り出そうとするが、

ノーラが弱々しく手で止める。

「無駄よ、もう間に合わないわ。

それにちょうどいいタイミングだから白状するけど、

それ、実は効果がないの。」

「ええ、どういう事?だって、ぼくこれで魔法が使えたよ!」


ノーラが小さく笑って、種明かしをする。

「どうせあんた、呪文の詠唱がなかなか覚えられない

だろうから、集中力と自信を付けるために、

あたしとママが仕組んだの。」

「何だよそれ、ひどいよ!ぼくずーっと信じてたのに!」

「フフ、あんたって本当おばかさんねえ。

でもまあ、そのおかげで一人前になれたし、

もう思い残す事はないわ。」


ノーラの目がゆっくりと光を失っていく。

「そんな事言わないで!ずっと側にいて、

もっといろんな事教えてよ!」

泣いてすがるヘンリーに、ノーラは、

昔、初代ウォルズリーに言われた言葉をかける。


「運がよければ、いつかまた、生れ変わって会えるかも

知れないでしょ。」

ヘンリーは首を振って、嫌がる。

「嫌だよ、そんなの!一緒に日本に帰ろうって

言ったじゃないか!みんなが待つ、お家に帰ろうって

約束したじゃないか!」

「ああ、お家か。たかだか二ヵ月ぐらいしか離れて

いないのに、なんだかずうっと昔の様な気がするわね。

懐かしい、帰りたいな。」


「行かないでノーラ、お願いだよ、

ぼくをひとりにしないで!」

ヘンリーの頬を伝い流れ落ちた涙が、ノーラの頬を濡らす。

「まったく、あんたってば本当に泣き虫なんだから。

 そんなにメソメソしてたらいつものようにひっぱたくわよ。」

ノーラが片手を、そっとヘンリーの頬に当てる。


「ビンタしてくれてもいいよ、いかないでよ!」

「ごめん、アーサー、そこにいる?」

もう、ほとんど目も見えていないようだ。


「ああ、ここにいるよ姉さん。いつも変わらずキレイだね。」

ノーラの手を握る。

「あんたもバカね。レスターは?」

ノーラの手を握るアーサーの手に力が入る。

「そう、残念ね。最後にレスターの入れた紅茶が

呑みたかったな。」

「早く良くなりなよ、俺がとびっきり上手い紅茶を

入れてやるから。」

「あら、うれしい。ねえアーサー。頼みがあるんだけど。」


「どうしたんだい、なんでも言ってくれよ。

美人の頼みは断らないぜ?」

アーサーの軽口も、気のせいか少し震えている。


「ハワードも亡くなり、レスターも亡くなってしまった。

 これからウォルズリー家も試練の時期を迎える事になるわ。

それに今のままだとあと二、三年もしない間に

ヨーロッパも大変な事になる。

ヘンリーの事をお願い。あの子を助けてあげて。」

「わかった、約束する。あの子が当主として

一人前になるのを支えるよ。」


「ありがとう。これでやっと安心できるわ。じゃあね、

ヘンリー、アーサー。」

ゆっくりと目を閉じると、ノーラの体から力が抜けていった。

「嫌だ、嫌だ、ノーラ!ノーラ!いかないで!ノーラ!」


はもう、見る影もないほどボロボロになったホールに

泣き声だけが響き続けた。


こうしてウォルズリー家をめぐるヘンリーとノーラの

冒険は、幕を閉じたのだった。


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