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ec経済観察雑記  作者:
4/66

2 神造人間、ec、そして旧友との同盟

1512年2月12日(新暦)


「うーん。知らない天井ですね。まあ当たり前ですけど。」

 僕は起きるや否や、建物を歩き、そして見渡した。

 見ると、玄関から廊下が一直線に伸びていて、その両端に部屋が、合計五部屋ある。板張りが3間。和室が2間。周辺の柵で仕切られた土地は広大だ。3haはあろう。いつか増築したいですね。建築資材が無いからどうしようもないですけど。とりあえず冊子を見ましょう。ecのページは…これだ。48ページ。



===

【ecに関する基礎知識】

 1・ecは1次産品と取引できる。すなわち、農産品、海産品、林産品並びに鉱産品である。

具体例(随時更新)

米1kg 1ec

小麦1kg 1ec

大麦1kg 1ec

じゃが芋1.3kg 1ec

蜜柑1kg 1ec

大根800g 1ec

キャベツ1kg 1ec

菊13本 1ec

茶200g

卵Lサイズ10個 1ec

鯖12匹 1ec

エビ48匹 1ec

鉄100g 1ec

銅80g 1ec

金50mg 1ec

ヒノキ材1m×1m×1cm 1ec


 2・ecは研究する事で工業製品にすることができる。なお、工業製品の研究のためには、その工業製品に関連する製品、産品を生産していれば良い。そのとき、農産品と比較してコストが比較的高いので、注意されたし。なお、代替品でも、工業製品を作ることは可能。中間素材が既に存在する場合も、その過程を省略することが出来る。

 3・ecからはアイテムボックスや神造人間など、特殊な産品を生産する事ができる。

 4・すでに作成した製品がある場合、それらを改良することが出来る。改良によって、さらにコストが跳ね上がる。改良は何段階でも、想像力の続く限り行う事が出来る。たまにカンストすることがあるが、それらは想像力の欠如や神のいたずらによって行われるもので、時間をおいて行うことで、再び改良できる場合がある。

 5・3で提起された産品については、既存のものを改良出来る。その時、記憶などは失わないので、安心されたし。


通貨単位

1両=3貫文=3000文=(12万円)

1貫文=(4万円)

1文=(40円)

===



 …なるほど、1ecで結構色々な物が作れるみたいですね。すなわち米の生産のみで10000ec使いきろうとしたら、10000kg、10t生産しなければならない、と言う事ですか。研究に関する交換表等は特に無いみたいなので、想像力にしたがって研究改良を行っていきましょう。


「まずは、水回り系統に関して、研究をしたいですね。水回りでさしあたって必要なのは、お手洗いですね。やっぱり。可及的速やかに作ってしまいましょう。」

 まず、下水道からつくる。便器やその他上水道だけあっても、下水道がなければ、お手洗いとしての意味を為さない。しかし、何キロメートルもの下水管を、海まで地下でつなぐのは骨だ。なんというか、廃棄物が全て無に帰すようなものがあったら理想ですね。あぁ、つくれば良いのか。なので、虚無パイプを作るための塩ビパイプを作るための塩化ビニールを作るための石油を作成する。ええと、石油は、1ec100mlですか。とりあえず石油を錬成。すると、ドロっとした液体入りのガラス瓶が作成された。


【蓮葉暖 ec 1/10000】


 そして冊子42ページの名前欄が変化した。試しにもう1度錬成。


【蓮葉暖 ec 2/10000】


 なるほど。使用したec量が自動的に記録されていく訳ですか。これは便利。

 さて。塩化ビニールの生産には、あと食塩が必要ですね。正確には食塩では駄目ですけど。食塩20gを錬成。


【蓮葉暖 ec 3/10000】


 さて、そうすることで、クロロエチレンを開放。クロロエチレンは…


【クロロエチレン40mg 7ec】

 やっぱり若干コストが高いですね。40mg錬成。


【蓮葉暖 ec 10/10000】


 気が遠くなる程低コストですね。さて、これで塩ビパイプを開放。因みに、これまで作った産品は、随時冊子に追加される。たとえばこんな風に。


[石油 Lv 1

 ご存知石油。経済界を混乱に陥れる事ができるが、ここはまだ戦国時代。主な1次エネルギー源は木炭に頼っている。普及したらどうなるだろうか。因みに品質はあまりよくなく、燃やすと煤がかなり出る。]


 後書きによると、ページはいつの間にか増えていくらしい。怖い。さて、塩ビは、っと。

【塩化ビニールパイプ(1号)半径5cm×10m 3000ec】

 コストが跳ね上がった。1号、と言う事は、2号や3号も錬成可能となるという事で間違いはあるまい。とりあえず1本。


【蓮葉暖 ec 3010/10000】


 そして、虚無パイプをっと。とりあえずそういう方向に改良していきましょう。

【塩化ビニールパイプ(1号)Lv2 半径5cm×1m 5000ec】

さて、説明は?


[塩化ビニールパイプ(1号)Lv2

 塩化ビニールで出来たパイプ。耐薬品性、耐熱性、耐日光性は無いので、安定剤の使用や改良を強く推奨する。通った物体は1mあたり1%物量を失ってゆく。]


 うーん…激しく微妙。そもそも塩化ビニールって耐久性低いんですね。これは作らずに、まずは耐日光性から研究していきましょうかね。研究。

【塩化ビニールパイプ(1号)Lv3 半径5cm×50cm 15000ec】

 これは…要求ec量が最大ec量を超えている。これでは錬成しようが無いので、無難に作れるもの…出来ればスペースを取らない…アイテムボックスにする。錬成。

【アイテムボックス1ml 10000ec】

 結構ギリギリとなってしまったが、なんとか成功した。因みに説明は…


[アイテムボックス

異次元に物をしまえるようになる。経年変化はしっかりするが、アイテムボックス自体が経年変化することはない。しかもアイテムボックスに物が入ると、当人にしっかり重さがかかるので、基本的に税関を誤魔化すくらいにしか使い道が無い。通称アイボ。]


 結構な地雷アイテムだった。普通こうした魔法のようなアイテムは、質量を減損させることが標準で出来るだろう。でもまあ、Lv1だから、これくらいで良いのかもしれない。ec産品には、想像力が続く限り後掛け改良が出来るわけで。それに期待するしかない。ところで保有ecは、


【蓮葉暖 ec 3010/10100】


 しっかり増えていた。無用の長物でも、ecを増やすためには役に立ちそうだ。という事で、どんどん増産しようと思っていたのだが、2000mlほど作り終えた時に変化は訪れた。

【アイテムボックス1ml 9900ec】

 ほんの少々ではあるが、交換レートが有利になっていた。同じように効率の悪いものを生産し続けることで、安易にec保有量を増やさせないための措置か。そうだとしたら、いくらでも作り続けることが出来ることを考えると、あの神様は若干姑息かもしれない。因みに最大ec保有量はだいぶ増えて、58000ecくらいにはなっている。ということで、もっと錬成していく。錬成、錬成、錬成。

【蓮葉暖 ec  108,295,987/374,000,000】

【アイテムボックス1l 1ec】

 結構な変換効率となった。これで、最大ec保有量は3.74億。これを武器にどんどん塩ビパイプを改良していく。まずは、あらゆる物…例えば、自身や雷…への耐性を高めておく。これだけで12段階。

【塩化ビニールパイプ(1号)Lv15 半径5cm×1mm 310,000,000ec】

 もはやただの輪っかだが、まとめて注文すれば繋がせることもできるので、無問題だ。


[塩化ビニールパイプ(1号)Lv15

 強化された塩化ビニールパイプ。物理攻撃を含むあらゆるものから守られており、耐腐食性もあって130年間は腐らない。通った物体は1mあたり1%物量を失ってゆく。]


 うん。ついでに虚無要素の無い、つまり物が一切失われずに通過するパイプも開発しておく。


[塩化ビニールパイプ(1号) Lv14-2

 強化された塩化ビニールパイプ。物理攻撃を含むあらゆるものから守られており、耐腐食性もあって130年間は腐らない。]


 特に14-2は重宝しそうだ。どんどん錬成したいところだが、それだと家に入らない可能性があるので、アイボも研究しておこう。アイボに関しては経年劣化等を防ぐ改良を行う。いわゆる冷蔵庫的なあれだ。

【アイテムボックスLv2 1ml

新規11ec

上書き10ec】


[アイテムボックスLv2

 アイテムボックスを、保存に適するように改良したもの。この中では、時間が1/3のスピードで流れる。これを持てたら立派な鮮魚商人。]


 どうやら、Lv1のアイボを、ecを消費することでLv2に上書きすることが出来るらしい。なお、効率を悪くするように改良しても、ec量は、その直前の効率に依存するようだ。まあ、当然の如く上書きを遂行する。例によって効率がどんどんと良くなるので、さらに5段階程あげてみる。

【アイテムボックスLv7 1ml

新規9000ec

上書き8700ec】


[アイテムボックス Lv7

 アイテムボックスを保存に適するように改良したもの。このなかでは、時間が1/1000000のスピードで流れる。]

 当然のごとく上書き。新規も大量に生産する。アイテムボックスは1Tl(テラリットル、つまり1000ギガリットル)ほどとなったが、全部入れると潰れそうなのでやめておく。

【アイテムボックスLv7 100ml

新規1.01ec

上書き1ec】

 こうなってしまった所で、さらに改良。ん?改良が3段階しかできない。まあ、それでも良いか。それよりも、外付けアイボが欲しい。内部ではなくて、さしずめ倉庫というか、鞄というか、コンテナというか…とおもったら出来てた。

【外付けアイテムボックスLv11 1ml

新規 1000ec

上書き900ec】


[外付けアイテムボックス  Lv11

  アイテムボックスを保存に適するように改良したもの。このなかでは、時間が完全に止まる。さらに、倉庫など、形に転嫁する事が出来る。]


 これぞ僕の求めていたものだ。これは良い。まあ、アイテムボックスの大きな利点である【異次元に送り込むことで容量を削減できる】というのは消え失せているが。

 その後は建材を作り改良して、最終的に最大ec保有量は、

【蓮葉暖 ec 1,478,509,572,123/4,870,000,000,000】

 4兆ほどとなっていた。なんたって建材の改良が大きい。耐腐食性や耐侵食性、その他もろもろを改良した結果、1兆年は余裕で持つ建材も現れた。作りすぎて、今は1kgあたり1ecで出来てしまうけど。アイボを費やした大量の建材は全てコンテナに積み上げられている。どうやらこの錬成、ある程度置く場所については勝手がきくようで、もう梯子を使わないと取り出せない物品もある。疲れた。そして塩ビパイプを忘れずに開発しておく。結局


[塩ビパイプ Lv120

 どのようになっても壊れる事が無い。通った瞬間汚物と判定されたものは自動で消え失せる。]


となった。でも、これから土木工事をするのはそこそこ面倒だ。そうだ、4兆ともなれば神造人間を錬成出来るでは無いか。ちゃっちゃか生産してしまおう。とりあえず3人ほど。男2、女1で良いだろう。すると、どうしたものか、3つの人影が空中にできたかと思えば、ふわっと降下して、着地した。

「はじめまして、マスター。」

 代表して中央の男性が挨拶した。うわ。美男美女。中学生から高校生くらいの風貌だろうか?


「左から赤川、青木、黒田と申します。宜しくお願いします。」と、中央の男性…紹介によれば青木さん…が紹介していった。

「こちらこそ宜しくお願いします。」


 つつがなく挨拶が終われば、早速片付けを手伝ってもらう。いや、その前に。

「疲れたでしょう?食パンとジャムをどうぞ。」

「ではありがたく。」


 彼等は食パンとジャムを受け取ると、器用に空中でジャムをつけ、食べた。

「ご馳走様でした。これで5日は大丈夫です。」

 そう。彼等は摂取したエネルギーを体内で何倍にも増強する。エネルギー保存の法則に完全に抵触しているが、そもそもecによる無限錬成それ自体が物質保存の法則に抵触しているので、何の問題もあるまい。いやあるが今は問題にしない。そもそも僕は大学は商学科を受けるつもりのガチガチの文系である。そんな人が理科に対する詳しい考察等、出来る筈もあるまい。

 あと、彼等は出力ももの凄い。摂取したエネルギーの範囲内であれば、亜光速で走ることもできるし、信じられないほど重いものを運ぶことも出来る。限界がないのだ。さらに疲れないので、ある程度無理をさせても無問題。まあ睡眠は別の目的のためにあるみたいだが、そこには触れない。

 あとこれは言っておかなければならないだろう。彼等には寿命というものが無い。まあ、所謂不老不死だ。僕達に易易と不老不死をつけたのは、神界ではそれがスタンダードだったからかもしれない。さらに彼等は、皆穏やかで、性格も神がかっており、さらに忠誠を錬成者に誓う。


 なんかもう、僕には勿体無いですね。というか万能すぎる。ブラック企業が喜んで飛びつきそうな人材だ。それくらいよく働く。


 彼等は食事をするやすぐさま片付けと建物の建設を進めている。ああ、ガラスにセメント、木材にっ漆喰、障子紙。必要な物は粗方コンテナに入っているから、建設もできよう。ちょうどその時、封書が玄関の木箱に落ちた。急いで庭から洋間と廊下を経由し、玄関に向かう。そこには和紙でできた白封筒が1つあり、中には和紙で手紙が書かれていた。どうやら双田さんからのようだ。



===

蓮葉暖様

前略

無事に届きましたか?私達の近況報告からです。

まず私から。私は今双田領の領主として活動してます。皆の支えがあって出来ています。

では皆が何をしているか。空ちゃんは法務部で、澄ちゃんは外務部で、文ちゃんは軍務部で、雪ちゃんは文務部で、それぞれ最前線で働いてもらってます。南ちゃんは迷宮で活動しています。因みに迷宮について端的に言うと、”魔物を倒す事によるec生産施設”です。あとは、光ちゃんは商店で、鈴ちゃんは工房で、波ちゃんはその工房の理科学的な手伝いとして、働いています。

話があるので、大橋城に来てください。

後略

===



 うん、確実にこれは双田さんの字だ。内容も、彼女からのものと見て間違いあるまい。まあそれは良いとして、大橋城とはどこだろうか。例によって冊子を開く。いや、彼等に聞いたほうが早いかな?

「黒田さん、大橋城とはどこですか?」

「そうですね。ここ、旗ヶ野から北に35km程いったところに有りますね。」

「どうも。では、早速向かいましょうか。準備をお願いします。」

 仕事が早くて助かる。

「了解しました、マスター。それと」

「はい?」

「肩車しましょうか」



「わあああぁぁ」

 今僕は、黒田さんの背中に乗って、急速に北上している。赤川さんと青木さんには、アイテムボックスLv10を持たせていて、出発する直前に作り増した物品を持って貰っている。空気抵抗で吐きそう。

「あともうちょっとですよ。」

「ちょっと、今、話す、余裕、は、無い、で、あぁぁ」

 前途多難である。いや、速いのは良いんですけどね。ただ速さにも限度があるでしょうに。



「此処が、大橋城、ですか、はぁはぁ」

「ええ。早速門番と交渉して来ます。」

 そう言うや否やすぐさま青木さんが門番に話しかけ、入場を取り付けていた。出来る。


 摩訶不思議な廊下を通り、階段を登り、登り、ようやく着いた。そこはそこそこ広めの和室で、品の良い庭園、屋上庭園というか中庭がある、すっきりした応接間(和室)だった。和室の机には双田さんと有木さんが座っている。2人ともあまり変わらないですね。


「やあやあ。よく来てくれたね。そこにかけて。」

「お久しぶりです。」

「ちょっと小さいね。まあ良し。性別不詳感はあるけど。」


 失礼な。

「まあ、それはともかく。単刀直入に言うね。君はこちらの領地に入るつもりはある?

 有っても無くても能力は開示して貰うし、こちらも開示する。その上で。入るつもりなら、役職と住居、その他を用意するよ。入らないなら、例の旗ヶ野の家の周辺の土地をあげる。」

 双田さんがそんな提案をしてきた。正直、そちら…大橋城サイドに入っても、中々楽しそうではある。物資に苦労しない領地運営というのは、結構楽しそうではある。でも。


「うーん。今のところは無いですね。じゃあ、あの土地は領地として頂きますね。」

 入らない事を選択した。ついでに、旗ヶ野のあの土地を領地として貰い受ける事で、大橋サイドの庇護下に入ることも拒否する。

「領地として。まあ良いでしょう。高々3ha、失っても特に問題ないし。では能力の開示、良い?」

 拒否したことに余裕で対応した双田さんは、きっちり能力の開示を求めてきた。

「良いですよ。僕は、"ecの無限錬成に伴う物質/エネルギーの無限錬成"です。」


「ほう、なかなかエグい能力だね。じゃあ他のぶんも。まず私は、"絶対的な統治力"ね。で、空ちゃんが、"論理的文章作成力及び論理展開力"。澄ちゃんは、"交渉能力及び俯瞰的現況把握能力"。文ちゃんは、"軍務諸雑務及び関連能力"。雪ちゃんは、"記憶力、指導力"。で、南ちゃんが、"五感及び身体能力の増強"。光ちゃんは、"相場判定及び商業に関する読心術"。波ちゃんは"薬剤調合並びに元素組成判別"。で、鈴ちゃんは、"手先の感覚の増強および技術補正"、となってるよ。

 地味な能力に聞こえる物も多いかもしれないけど、これがまたすごい能力ばかりなんだよね。波ちゃんとか顕微鏡なしでもアバウトに細胞スケッチならかけるくらい視力が良くなっているし、雪ちゃんは学んだことの無い学問も、色々な書物をよむことで、1週間とたたないうちに実践、指導が出来るくらいになっているし。」


 あの神様、「それっぽい能力をつける」といっていたけど、確かにそれっぽい。みんなそんな感じがするし、それぞれの能力の干渉も最小限になっている。


「ほう。まあ僕も、直接では無いにせよ素材の供給等でお手伝いさせて頂きますよ。」

「有難う。じゃあ、早速同盟をむすびましょうか。空ちゃん」

「はい、呼ばれたよー。」


 そうして、堀永さんが襖を開けて出てきた。

「かくかくしかじか。そんなわけで、同盟の草案を考えて。」

「了解。」



 3分後。

「出来たよ。」

「お、どうも有難う。」


 速い。物凄く速い。美術のデザインだけでなく、法案のデザインも速いようだ。そういえば、堀永さんの能力は『論理的文章作成力及び論理展開力』だった。そこが大きく補正しているのだろう。早速草案に目を通す。うん。スキがない。それでいて目聡くあちら側の利益を追求している。速さだけでなく、品質も申し分ない。だからこそ、この文面のまま通すわけにはいかない。


「まあ、相互不攻撃は良いとして、この関税どうにかなりません?」

「いや。こちらとしてもギリギリを攻めたんだけど。」

「それでもこの15%は、もう少し削減の余地があると思うんです。」

「いや、こちらも考えた上で。どうにかならない?」

「ちょっと利害関係者を通さないと…」

「それはこちらもそうなんだけど…」

 会議、というより双田さんとの舌戦はなかなか煮詰まらない。なので、協議は実務者レベルへ移行する。

  大橋、つまり双田さん側は有木さんへ、旗ヶ野側、つまり我々側は青木さんへ。


「関税はこれくらいでどうでしょう。」

 青木さんが関税の表を提示した。なるほど、だいぶ我々に有利な税率になっていますね。


「ふむふむ…私達の領地は未だ膠等の専門分野が育っていない。なので、保護貿易政策を取らざるをえないんだけど…」

 その一方で、有木さんは、保護貿易の必要性をといて断ろうとする。まあ、分かる話ではある。地球でも、弱い立場の人間や産業を守ろうとして貿易を制限する、というのは非常にありふれた話ではあった。有木さんは、関税を開放する事で、領内の雇用が消失を警戒しているのだろう。


「自由貿易無しには経済の発展はありえません。それとも保護貿易政策を取るのであれば、何故鉄や石炭等の関税は安くしているのですか?」

 青木さんが草案の一文を、指でたたきながら言った。鉄や石炭、といえば、使う機会が多い産品だが、最たるものといえば、戦争だろう。

 第一、冊子によるとここは戦国時代だそうだ。織田信長が、鉄砲を大量に足軽に持たせることで、天下統一への足がかりをつけた事を考えると、鉄砲や戦車等を効果的に使用すれば、天下統一も夢では無いだろう。実際双田さんの実力ならば、それが出来ると僕は思う。

 傍目から見ても、彼女は人使いが上手い。地球にいた時からその傾向はあったが、大球に来てから、それに磨きがかかっている。青木さんは、やはり”鉄や石炭を戦争に使うのではないか?”という疑念の目を向け問いかけた。すると観念したかのように有木さんが口を開く。


「むむむ…そりゃあ、戦争で大量に使用するからに決まっているでしょう?」

 有木さんが、少し苦しそうに言った。そこには、少し開き直りも見えて、むしろ清々しささえ感じる。

「随分と都合の良い言い分ですこと。それから。」

「まだあるの?」

「今、大橋領では、茶や綿糸などが生産者カルテルがあると聞きます。」

 ああ。生産者カルテル。大橋領でもあったのか。

「まあ、そうだね。再三に渡り是正勧告を送っているけど、専門性の高さを理由になかなか値段を引き下げない。困ったものだよ。」

「では、茶や綿糸等のカルテルが行われている分野の商品を大量、安価に卸しましょう。そうすれば、彼等もカルテルを行い辛くなりましょう。」

「そうだけど…」

「では、宜しいですね。」


 侃々諤々の議論がついに終焉した。

「マスター。こちらになります。」

「…うん。良い成果ですね。」

「ありがとうございます。」


「ぐぬぬぬぬ」

 有木さんは、非常に悔しがっていた。まあ、同盟が締結されたのだから、結果良しだ。

「では、お近づきの印に」

 そういって、僕は赤川さんに銀を出させる。銀は予め作っておいたもので、初期値が1g1ecという、結構効率の悪い物品だ。それを1kg程、どんと献上。


「どうもありがとう。では、こちらからはこれを。」

 そう言うと双田さんは、金属製の紐のようなものを取り出した。よく見ると銅銭が連なったもののようだ。


「はいこれ。1000文あるから、大事にしてね。」

 ああ、貫文。1000文刺しなら、ある程度のものは購入することができるだろう。少なくとも、当座の金銭としてはかなり有効だ。

「ありがとうございます。」

 かくして、1日目はつつがなく終了した。

お読み頂き有難うございます。

今後、作中の一日を基準に一話が構成するつもりなので、一話一話の長さのムラが予想されます。ご留意下さい。

あとecについての詳しい記述は今後出てきません。

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