1 神様との面談、転移
「うーん…ここは何処ですか?」
僕…蓮葉暖(適当に蓮葉とでも呼んでください)は目を覚ました。耳の調子が悪いのか、全然声が違う。まあ良いです。そんなことより、僕は目を覚ました景色に違和感を覚える。どう考えてもここはあの中学校の文化部室では無い。この空間は淡い光を発する白に覆われており、前面には荘厳で豪華なステンドグラスが貼られている。
ステンドグラスというと、かつて軽井沢で開かれた叔父の結婚式を思い出す。確かあれはホテル据え付けの似非教会だったが、でも教会など一度も行ったことがない。夕焼けに照らされたステンドグラスは非常に画になっていた。まさにステンドグラスはそんな感じだ。
比べて先程までいた文化部室はどうか。
確かに床は白色だったが壁は茶色であったし、ステンドグラスなど貼られていなかった。そうでなくても1箇所扉があり、廊下にいつでも出られるようになっていた筈だ。だが此処にはそれらが無い。廊下に出られないし、むしろこの壁の向こう側にあるのかどうかも怪しい。
どういう事か考え倦ねている中、一人の人物が登場する。
「やあやあ。こんにちは。」
「『やあやあ』では無いですよ、名乗って説明して下さい。」
「私は神だ。」
いや、神だと言われましても。そう思ったが、説明を黙って聞く。というよりは、説明を黙って聞かせられるだけの実力というかオーラがある、と言った方が適切だろうか。企業経営者とかに向いてそう。
「早速だが、君は死んだ。」
なかなかぶっ飛んだことをおっしゃる方だ。ちょっと信じがたい。仮に面前の人物が神だったとしても、その発言はいささか首を縦に振り難い。
「そんな唐突に『死んだ』と言われても。証拠はあるのですか?と言うより、何故僕は会話できているのですか?と言うより、ここは何処ですか?」
「じゃあ一つずつ説明していこう。まず証拠から。ほいっ。適当な新聞を開いて。うん。そうだ。恐らく地方欄にある筈だ。」
そう"神様"は言うと、懐の中から新聞を取り出し、バラまき、そして落とした。どさっと大量の新聞が落ちる。比較的著名な新聞はほぼ全てあった。呼繰新聞、浅井新聞、真縁新聞…ああ、関東新聞に相模新聞もある。僕は読み慣れた呼繰新聞の朝刊を手に取るや否や、黙って15面、社会面へと捲ると小欄に記事があった。
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【中学校にて生徒10人死亡】
昨日、神奈川県鏡原市の鏡原南中学校にて、生徒10人が死亡した。死亡したのは10人はいずれも同じ部活に在籍する同学年の生徒。第一発見者である顧問の証言から、部活動中に死亡したと見られる。警察は毒死とみて、心中、事故の両面から捜査を進めている。
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やけに扱いの小さい記事ですね。これだけセンセーショナルな事件なのだから、もう少し大きく取り上げてもいいのではないだろうか。大方学校の教師陣が、イメージダウンを恐れて公表を控えていたのだろう。そして朝刊の締切の頃には、殆ど紙面が残っていなかった、と。部誌でもありがちなことだ。どうしても提出の遅い人は、ページ数等で割を喰う。幸い僕の提出は早い方だったので、ある程度スペースにも自由が利いていたのだが。
話を元に戻そう。
この記事を見るに、簡潔ではあるがまず間違いなく僕達であろう。ついでにこの面前の人物が、神様ないし詐欺師ないし奇術師である事は間違いない。そうでなければ、何もない所から新聞を生み出せるはずもない。偽造かどうか確かめるために株式欄を確認。…うん。確実に僕の読み通りだ。4コマ漫画も普通に面白い。まず本当の新聞とみて間違いはないだろう。
「1つ目の事実については納得した?」
「まあ、一応は。これだけ手の込んだイタズラというのも考えにくい話ですし。」
というより、納得しないと話が進まないような気がする。
「なら良し。次は何故会話出来ているか、の話だけど。その話の前に経緯を聞いて欲しい。」
「良いでしょう。今ならどんなに無稽な事でも納得してしまいそうですよ。」
「まあ話と言っても簡単な事だ。つまり私の同僚のミスなのだが…」
「同僚?」
神様の中にも上下関係や仕事仲間がいるのか。アフター5には同僚と一杯引っ掛けたりするのだろうか。
「いや、同僚ではないな。同僚の部下だ。まあでも同僚の部下だから広い意味では同僚だろう?」
まあ広い枠組みの中で捉えれば同僚ということになるのだろうが。そもそも神の部下ってなんだ。そんなことも気にせず、眼前の人物は話を続ける。
「彼…いや、彼女と言ったほうが適切だな。彼女は生と死の境目に現れ、人々の死を管理している。」
「それは死神のようなものですか?」
「いや、死神ではない。死神は…いや、これはまだ説明する必要はないな。まあとにかく彼女は死神ではなく、ただ漠然とした「彼女」なんだ。」
"漠然とした「彼女」"…?少し抽象的な話にすると、「概念のみが有る」という状態なのだろうか…?
「なんか物凄く中二病っぽいですね」
そういうしかあるまい。そういえばクラスにもこんな事を言う人がいた気がする。確かに彼も、「中二病」と呼ばれていた。
「まあそれは仕方あるまい。大事なのは我々側のミスで君等を死なせてしまった、と言う事だ。このようなミスは今まで私の知る限りでは無かった。それを鑑みて、我々は君たちを…正確には君を、異世界に送ろうと思う。」
「いせかい…漢字は何ですか?」
「異なる世界、異世界だ。」
そう言いながら眼前の人物はまるで手の平を指でなぞって字を教えるがごとく空間上に文字を書いた。みるみる空間に文字が描かれてゆく。ああ。その異世界ですね。文学ではよくみる概念ではあります。特に海外もののファンタジーではありふれた概念ですね。
「その異世界にはもう既に第482宇宙…いわゆる地球のある世界だけど、を統括する神として、先に9人を異世界におくって第2の人生を送ってもらっている。」
「ちなみにその異世界ってどういった所ですか?生活レベルがどうとか、そもそも安全安心に生活することが出来るのか、凄く気になります。」
日常生活もままならないような状態での生活なんて、なんの補償にもなっていないし、今の日本人が求める生活レベルなんて、信じられないくらい高くなっているだろうし。
「安心し給え。その異世界には『大球』という地球によく似た大きな惑星がある。他の9人はそこの『中島皇国』…近世日本のそれに近い…へ行っている。で、提案なのだが、君もいってもらえるか?」
「まあ、構いませんけど。」
「勿論、お礼はする。まず1点目、死神とそれに準ずる者の介入を一律に禁止する事で、不老不死とする。」
「良いんですか?不老不死なんて。人類の夢ですよ?」
今までどれだけの者が、不老不死に惑わされて散っていったのか、僕には想像がつかない。そんなものをほいとお礼として提供することが出来るのだろうか。すると、面前の人物はこう返した。
「老いない事と良い余生が送れるかはまた別物だからね。まあこれくらいはスタンダードでつけても良いだろうと判断したまでだ。まあ、そのせいで若返ったがね。」
「スタンダードで、と言う事はまだあるのですか。」
不老不死の説明にはまあ納得したが、まだオプションがあったとは。
「ああ。2つ目は10人それぞれにそれっぽいと思った能力をつけている。その中でも君のはダントツで使いやすいと思う。君の能力を巧みに使えば他を出し抜くのも容易だね。まあ、敵も作りやすいけどね。」
今ちょっと例によって聞き捨てならない言葉がでてきたが、それはそれ。
「で、何なのですか?その能力とやらは。」
「『ec無限錬成に伴う物質/エネルギーの無限錬成』だ。そもそも『ec』という概念は、大球においては割りとありふれた概念だ。これは本来迷宮の攻略でのみ手に入り、鉄や米等、必要な物資と交換出来る物だね。それを、基本的には無限で手に入る。」
「基本的には?」
「うん。ただ、最初から無限に手に入るわけじゃない。まず君には10000ecを渡しておく。その最大ec量内であれば、前借りも出来る。10000ec使いきったら、10100ecとなる。10200、10300、10400と増えてゆき、100000ecとなると、今度は101000ecと1000ecづつ増えてゆく。ついでに10年経つと成長が完全にとまり、使いきってもその最大量までしか回復しない。そういうシステムだ。今作ったけど。」
今作ったんですか。その割にはとても体系だったシステムのような気がするが、まあ神様ならそれくらい容易いだろう。
「さて、説明に移って良いね。何故会話が出来ているか、というと、まあ、神の特権。ということで良いね。」と、眼前の神様は、この話題をさらっと流そうとした。
「まあ、良いです。」
納得してしまう自分が怖い。いや、この非常識な光景を食い気味に見せられれば納得してしまうのも道理だ。この質問は流して良かろう。そう考えているうちに、神様は次の質問の回答に入っていた。
「そして、此処はどこか。端的に言えば、ここは異次元である神界のそのまた異次元だ。まあ、応接間代わりといっても宜しい。」
「なるほど。」
「他に質問は?」と、眼前の神様は聞いてきた。細かい質問は色々あったりするが、どれもここで聞く必要はないだろう。貨幣制度とか。
「特に無いですね。」
「なら、そのまま送っちゃうよ。あ、これ、冊子。必要なことは大抵書いてあるはず。それから、当面のec生産目標は神造人間、つまり僕の作った人間を生産できる、1兆ecあたりを目標にしてはどうだろう。」
そういって、日記帳くらいのサイズの冊子が渡された。まあそれは良いのだが、1兆ecって。だいぶエンドコンテンツですね、神造人間。
「では、良い余生を過ごして欲しい。あ、システムに大きな変更があった場合は、連絡するからその辺りは宜しく。」
「分かりました。」
こうして、僕の意識は再び急速に薄れていくのであった。
お読みいただきありがとうございます。
誤字訂正
[誤]教会など一度も言ったことがない。
[正]教会など一度も行ったことがない。




