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「むーりーだー」
小さく呟いた言葉が、考えをネガティブな方向に持って行った。ユズルくんは結構モテる。
クールっぽくて、見た目もかっこいい。他の男子と違って大人びている、というのが大抵の見解だと思うんだ。
でも、本当は天然で鈍感で、何にも考えてないだけ。あ、あと面倒なことが嫌い!!
ユズルくんのいろんな面を見てきた。やっと仲よく話せるようにもなれた。でも、それでも、難しい。
「サユリちゃん、誰かにチョコあげんの?」
空気を消すように高橋くんが声をかけてきた。高橋くんのとなりには、ユズルくんが、いる。
「え、あ、いや、えっと……」
戸惑いを交えたようにごまかすと、ユズルくんが高橋くんをとがめる。
「おい、高橋、やめろって」
「だってよー……、サユリちゃんが誰かにチョコあげんの想像できなくて」
ユズルくんがさらに咎めてくれているのをどこか遠くで聞いていた。
「そ……だよね。あたしからなんて……、もらっても嬉しくないよね」
恥ずかしくなる。今年のバレンタインは頑張ろう、そう思った自分が信じられない。
恥ずかしくて恥ずかしくて、そして、何より、かなしなかった。
思わず、教室を飛び出して、いつも来ている屋上にチョコの入ったカバン事きてしまった。
あたしはユズルくんと初めてここで会った。ここで会って、話をして、友達になった。
あたし自身あまり、男の子と話さないし、ユズルくんも女の子と話さなかった。密やかな交流。それでも、あたしはちょっとしたときにユズルくんに助けられたし、ユズルくんが、いてくれたからいつも笑っていられた。ユズルくんも、あたしがチョコあげようとすると合わないって思うんだろうか。