3新しい人生
祭りの夜、謎の兵士たちによる襲撃を受け、広場は狂乱の渦に飲み込まれた。
辛うじて生き延びたサーラだったが、兵士たちに捕らえられてしまう。
サーラが自分の足で大地を踏んだのは、それからいく日も経ってからのことだった。
あの騒乱の後、気が付くと、閉め切られた木製の小部屋に押し込められたまま、どこかへ運ばれていた。いつの間にか髪や首の装飾は取り去られ、衣服も粗末なものに着せ替えられた。
死が過るほどの激痛に苦しんだにもかかわらず、それらしい痛みも違和感も残っていない。恐らく牛車なのだろう、四六時中ガタガタと揺れ、体のあちこちをぶつける羽目になった。
いびつな木板で雑につくられた荷室は、ところどころに隙間があった。そこから覗く景色は、時間が過ぎるごとに少しずつ変わっていった。
農地、砂漠、そしてオアシス――。生まれて初めて間近に見る後宮の外は目映かった。女たちが息を殺しながら生き永らえていた後宮とは全く違う。光の向こうでは人々が太陽の下で笑い、思い思いに声を上げながら、往来を行き交っている。
しかし、それを眼前にしてなお、彼女はそこから隔絶されていた。
どこへ連れて行かれるのか、そしてどうなるのか、何も分からない。首輪をはめられ、そこから伸びる鎖で荷室につながれていた。同行している男たちは耳慣れない言葉でやりとりしており、彼女には話し掛けすらしない。まるで置き物か家畜とでも思っているようだった。
――自分は捕虜にでもなったのだろうか――
暗がりの中、ぼんやりする頭でそんなことを考えていた。しかし、捕虜ならたくさんの人と一緒くたにされ、扱いももっとぞんざいなはずだ。昔、ナズルから聞いた寝物語の受け売りだけれど。
捕虜になったとしても、陽の下では使い物にならないこの身で、生き延びるのは難しい。もう自分は死んだも同然だ。死んだら[[rb:骸 > むくろ]]はどうなるだろう――。思考がそこへ辿り着くたび、折り重なって息絶えていた女たちの虚ろな眼が脳裏に浮かぶ。そんなことばかり、頭の中でぐるぐると巡らせていた。
空気のにおいが変わり、聞き慣れない、木々のざわめきに似た不思議な音が耳につくようになってきた頃。突然牛車が止まり、小部屋の中から太陽の下へ引きずり出された。
眩しい陽差しに思わず眼を瞑り、身を固くする。身を包むのは胴に巻かれた粗末な布だけ。剥き出しの顔や肩、腕などは無惨に爛れるだろう。
覚悟したが、肌がヒリヒリする気配はなかった。代わりに、じっとりとした風が肌を撫で、濃い緑の香りが鼻腔をくすぐる。恐る恐る眼を開け、自分の身体を見回して、目を疑った。
後宮の壁のように青白かった肌は浅黒く、艶やかに光を弾いている。小川のように力なく流れ落ちる銀色の髪は、故国の多くの人と同じく真っ黒な、こしのある巻き毛に変わっていた。
ここから先は冊子版でお楽しみください。
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