1不吉な侵入者
後宮の片隅で孤独に暮らす少女サーラは、ある日不吉な侵入者と出会う。
それが呼び水かのように、生活が一変する。
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その夜、後宮には不穏な空気が立ち込めていた。
医師や薬師、祈祷師に呪術師――。ひそひそと囁き交わしながら人々が行き来するたび、黒い影が、大理石の白壁を大きくな1り小さくなりしながら舐め回す。その主とは異なる意思を持つ、得体の知れない化物のように。
その動きに呼応して、玻璃燈の火が頼りなげに揺らめく。どこかで焚かれる香の匂いが鼻をくすぐった。
密やかに、粛々と、どこかもの思わしげな顔つきで行き交う人々。その中に泣き女たちの姿があったのを、サーラは見逃さなかった。
「お母さまは、もうだめかしら」
そう言って振り返ると、守役のナズルが咎めるように眉をひそめた。
「そのような、不吉なことをおっしゃってはなりませんよ」
「なぜ? あの奥にはお母さまの房しかないのに。きっと皆、気付いている」
サーラにとって、物心つく頃には房を隔てられていた母親への思い入れは、他の王の妃や寵姫たちに対するものとそう変わらない。元来病弱で、危うくなることは度々あったが、泣き女が呼ばれたのは今夜が初めてだった。
サーラが食い下がると、ナズルはなおさら顔を曇らせた。
「口から放った言葉が、その結果を引き寄せてしまうこともあるのですよ。……さあ、もうお休みなさいませ。床にお就きになる前に、母君のご快復をお祈りしましょう」
そう言って、サーラを寝台へ促す。形だけの祈りを捧げた後、寝かしつけられながら、朧気に残る母の面影を記憶から取り出そうとした。しかし、手のひらの上の水のように、すくってもすくっても零れ落ちていくばかりだった。
夢と現の境がほとんど溶けて消えてしまった頃、耳をつんざく泣き女たちの慟哭を聞いた気がした。
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