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1不吉な侵入者

後宮の片隅で孤独に暮らす少女サーラは、ある日不吉な侵入者と出会う。

それが呼び水かのように、生活が一変する。

※この作品の無断転載・複製・剽窃、AI学習への利用を禁じます


 その夜、後宮(ハレム)には不穏な空気が立ち込めていた。

 医師や薬師、祈祷師に呪術師――。ひそひそと囁き交わしながら人々が行き来するたび、黒い影が、大理石の白壁を大きくな1り小さくなりしながら舐め回す。その主とは異なる意思を持つ、得体の知れない化物のように。

 その動きに呼応して、玻璃燈(ランプ)の火が頼りなげに揺らめく。どこかで焚かれる香の匂いが鼻をくすぐった。

 密やかに、粛々と、どこかもの思わしげな顔つきで行き交う人々。その中に泣き女たちの姿があったのを、サーラは見逃さなかった。

「お母さまは、もうだめかしら」

 そう言って振り返ると、守役のナズルが咎めるように眉をひそめた。

「そのような、不吉なことをおっしゃってはなりませんよ」

「なぜ? あの奥にはお母さまの房しかないのに。きっと皆、気付いている」

 サーラにとって、物心つく頃には房を隔てられていた母親への思い入れは、他の王の妃や寵姫たちに対するものとそう変わらない。元来病弱で、危うくなることは度々あったが、泣き女が呼ばれたのは今夜が初めてだった。

 サーラが食い下がると、ナズルはなおさら顔を曇らせた。

「口から放った言葉が、その結果を引き寄せてしまうこともあるのですよ。……さあ、もうお休みなさいませ。床にお就きになる前に、母君のご快復をお祈りしましょう」

 そう言って、サーラを寝台へ促す。形だけの祈りを捧げた後、寝かしつけられながら、朧気に残る母の面影を記憶から取り出そうとした。しかし、手のひらの上の水のように、すくってもすくっても零れ落ちていくばかりだった。

 夢と(うつつ)の境がほとんど溶けて消えてしまった頃、耳をつんざく泣き女たちの慟哭(どうこく)を聞いた気がした。

 ここから先は有料版または冊子版でお読みになれます。

 有料版(あとがきカット、ダウンロード版)はこちら

https://gloomyweasel.booth.pm/items/6935068

 冊子版は世田谷区のシェア本棚「100人の本屋さん」 で頒布。

https://100shoin.jp

 棚番号は076(入って右手、手前から3列目、下から3段目の棚)。


 新刊を年2回、文学フリマ東京の開催に合わせて発行・頒布しています。

文学フリマウェブカタログは↓から

https://c.bunfree.net/c/tokyo40/1F/B/85


 このほか、ZINフェスなどにも出店しています。よろしければ足をお運びください。出店予定などはXやBlueskyで随時投稿予定です。

Xプロフィールページ https://x.com/gloomy_weasel

Blueskyプロフィールページ https://bsky.app/profile/gloomy-weasel.bsky.social

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