37.突入
ここから少し投稿が遅くなるやもしれません!
(2020の春M3に受かってしまったのでその作品作りに入っています(´・ω・`)ゴメンネ)
バートン領地にほど近いそこはトラグスの傘下であるピコリッチファミリーの領地である。
広く、ワインの名産で知られるその土地に複数の人間の足音と銃声が響いた。
榴弾の爆発とともに辺りが弾け飛ぶ。そこに追い打ちをかけるように弾丸が絶え間なく降り注ぐ。
爆発による土煙が晴れる前にリロードを終わらせ、バルドルは敵味方関係なく聞こえるほどの大声で叫んだ。
「バートンファミリーのアザゼルが一人!【戦車】バルドル・バルザークだ!止めれるものなら止めてみろ!オラオラオラァ!邪魔するやつは撃ち殺すぞ!!」
片手でマシンガンを乱射し、もう片方で手榴弾を持ちピンを口で引き抜いて敵陣めがけて投げ込む。一度晴れた土煙がまた広がった。
敵の陣形が乱れ、そこを逃す間もなくバルドルの掛け声を合図にバルドルをはじめ、攻撃隊の面々が走り出した。
最前線で戦っていたエイラ率いるチームが研究所の扉の前で振り返り防衛するように陣形を組み、その間をバルドルのチームが駆け抜けた。
すれ違いざま、バルドルは声を上げた。
「あとは頼むぞ」
「誰に物言ってるのよ……任せなさい」
振り返ることなくそう返すとエイラたちはバルドルたちが通った道を遮るように手を広げた。
「バートンファミリーの【毒蠍】エイラ・フェルナーダ!ここから先に通りたきゃアタシらの屍を超えて行きなぁ!」
銃声が響く。まだ、始まったばかりだ。
バルドルに続き施設内に足を踏み入れたアベルたちは思わず悪態をついた。
事前に得ていた情報の地図という地図が機能しないことな気がついたからだ。
どうやら研究員がそれぞれランク分けされているらしく、自分が、足を踏み入れる領域以外はほぼ適当な見当違いの地図になっているようだった。
アベルは苛立ちを隠すことなくロキへ無線を入れた。
「おいロキ、どういうことだ」
『ボスの推測と相違ないと思うよ。情報を引き出してこっちで地図を作成する。申し訳ないけど散開してもらえる?』
「私達の位置情報で地図を作るということですか」
『足りないところを補填するだけだよ。大半は今探し出した』
ユダの問いにロキは作業の手を止めずに返す。届いたデータも流石としか言いようがない。
「さすがロキ。仕事が早くて助かります」
『当たり前でしょ。これは、クローの弔い合戦でもあるんだから……』
ロキはそう言い残すとこちらの返答を待たずに無線を切った。作業に集中する意味もあるだろうが、きっと彼自身が苛立ちを隠せそうにないのだろう。
「話は後回しだ。ユダ、お前だけ俺の護衛として付け。それ以外は散開してデータを集めろ。行け」
アベルの言葉に全員が散開し、それぞれバラバラの方向へと走り出した。もちろん、ユダとアベルも例外ではない。
走り出してすぐ、ロキから全体への無線が飛んだ。
『バルドル、この先3本目を右』
『了解!オラオラ!邪魔だあ!!』
「ずいぶんと暴れているようですね」
「暴れて証拠を壊さなきゃいい。ユダ、道を開け」
「かしこまりました」
「俺は先にこっちに行く。死ぬなよ」
「誰に言っているんですか?行きなさい」
アベルの指示の元、ユダが先んじて走り出す。目の前にたむろする研究員を一人斬りつければまた無線が鳴る。
『カルマさん。次の通路確保の後、直進でおねがいします!』
『りょうか~い。よし、Aブロック確保~次行くね~』
『は、はい!お願いします!』
「カルマのほうも終わったようですね・・・・・・さて、こちらも」
刀についた血糊を振るって落とす。ユダはアベルの向かったほうを一度チラリと確認し、少しだけ先に進んだ。だが、どうやら行き止まりだったようだ。同時にまた何度目かの無線が鳴った。
『ボス、バルドルのチームがエリア開放を終え、待機に入りました。それとほぼ同時にカルマ、ユダのチームも最深エリアまで到達したようです』
どうやら行動は筒抜けのようだ。そう考えているとアベルからの返答が無線を鳴らす。
『了解。俺はこのままユダと進む』
突然の名指しに驚きながらもユダはすぐにスイッチを押しながら刀を鞘に納めた。
今までかかった時間とアベルの普段の歩行速度を考えれば大して時間はいらないだろう。
『了解しました、3分でそちらに向かいます、クロナ、道案内を』
『は、はい!』
ユダはクロナの道案内に従い走り出す。
道中、十字路で出会ったカルマやバルドルの部下から補充品を受取ながら進めばやはりさほど離れていない位置であたりを警戒もせず立ち尽くすアベルの姿を視界に留めた。どうやらあたりの敵を一掃し終わっていたようだ。一切の返り血を受けずにそこに立っていた。
到着と同時にアベルの前に跪く。
「お待たせしましたボス、バルドルとカルマのチームよりこちらを預ってきています」
「あぁ」
一言だけ返し、ユダから一つの袋を受け取る。中を覗けばどうやら補充用の弾丸やバルドルお気に入りのマグナムが入っていた。普段使わない物や自分に不必要なものをすべてユダに押し付ければユダはそれを黙って受取り、無線のスイッチを入れた。
「ルーファ、こちらユダ。ボスと合流しました」
それに続き、アベルもスイッチを入れる。
「ルーファ、俺とユダは先に進む。そうカルマたちに連絡しておいてくれ」
『了解しました。それでは建物内の地図作成を最優先で行います・・・・・・ボス、お気を付けて』
ピッ、と甲高い音とともに無線を切るとアベルは改めて目線を動かした。
目の前には豪奢な両開きの扉があり、明らかにこの先に何か隠していますと言わんばかりの雰囲気を放っている。その怪しい雰囲気にユダが警戒しているがアベルはそんなの関係ないと言わんばかりにその扉に両手をかけた。
「さぁて、御開帳~」
今更だと言わんばかりにユダは大きくため息をつきながら刀を鞘から出し、すぐに動ける場所へと構えた。
扉の中は先ほどと変わった様子はなく、あくまで扉で仕切っているといったようだ。だが、中にいた研究員たちは襲撃の事実を知らないのかアベルの姿をみて慌てたり首を傾げたり親し気にこちらを見つめたりと様々な様子だった。
そのうちの一人がアベルの姿を見て声を荒げた。
「だれだ!?」
「誰かわかんない感じ?
「・・・・・・カイン、さま?」
「誰が、トラグスのクソ野郎だとゴルァ!!」
「ち、ちがう!コイツはカイン様じゃない!バートンだ!バートンファミリーが攻めてきた!」
もはや御家芸というやつだろうか。このやりとりも何度見たかわからない。
もはやため息をつくこともなく、アベルはゆっくりと口角を上げた。
「ユダ、お前は他に行け。俺はこのまま進む」
「・・・・・・ボス、お気を付けて」
もう何も言うまい。
走り出したユダの耳に背後からさきほどまで元気に声を荒げていた研究院の断末魔などは聞こえない。
聞こえていない。聞こえていないのだ・・・・・・
* * *
もはや隠す気力も微塵も見えないほどの量の銃声が響いた。
研究員だった者たちが「ギャッ!」やら「うがあっ!」やら「いやぁああ!!」などの声を上げながら倒れていく。じわりじわりと滲んでいく血だまりの中をアベルは汚れることも気にすることもなくずかずかと進む。変わり映えのしない廊下に思わず舌打ちが出た。
「チッ、ここにもなんもねぇ」
あたりを警戒することなく先に進む。地図の通りに道を進むがふと立ち止まり2、3歩戻る。
目線を横にずらせばその先に道を見つけた。
何度か送られてきた地図データを確認するがどうやら地図データにこの先はない。
「……あれ?こんな通路、ロキのデータにあったか……?おい、ロキ」
無線を入れればスイッチが入るが返答はない。少し待てば大きな欠伸と共にロキの返答が返ってきた。
どうやらオーバーヒートする前にルーファが作業を止めたようだ。
なにかあった?と問うロキに確認だ、と一言添える。
「俺の現在地の右側、通路なんてないよな?」
『ちょっと待って』
無線越しにカタカタとキーボードをはじく音が聞こえる。さほど待つこともなくカタンッと最後に音を鳴らした。
『確認したよ。データ上はないことになってるけど、これは罠だと思うよ』
「へえ、その根拠は?」
『どのデータにも載っていないから。これは確実にボス、貴方を誘っている』
ふむ、と軽く息を吐き出す。だが、そんなこと知ったことではない。
「そうか。ロキ、これからこの先に行く」
『ボス話聞いてた?』
「止めても無駄だってことは知ってるだろ?」
そう返せば無線越しにロキが大きくため息をついた。
そう、止めても無駄だってことは俺直属の部下であるお前らがよく知っているはずだ。
『そうだけど・・・・・・』
「それじゃあ行く。アザゼルをこの周辺に集めておいてくれ。カルマに逃げ口の確保を頼む」
『ちょ、ボス待って!さすがに一人じゃ・・・・・・』
「ちっ、うるせぇ!」
電話ならばブチッという勢いで無線の電源を落とす。
バックアップ班は今頃大忙しだろう。まあ、知ったことではないけれど。
そう独り言ちながらコキリと首と手首を鳴らし、アベルは目の前に広がる闇に笑いかけた。
「さぁて、行くか。」
その先に何が待っているかも知らずに。




