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ノドの地  作者: 音切萌樹
第三章 トラグスの研究所
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35.作戦会議

 街の郊外にある墓地に一人の少年が足を踏み入れていた。その少年は迷いない足取り歩き続け、最近できたばかりの墓石の前で膝をついた。


「葬儀、行けなくてごめんね。けど、君の残した情報は僕が責任もって解読したよ……難しくするなんて意地悪だなぁ」


 そう言いながら持ってきた花束を墓の前に供えた。それとほぼ同時にふわりと風が吹き、あたりの草木がサワサワと音を立てながら揺れた。


「……歓迎、してくれてるのかな?君のことだからここに来る前にやることをやれって言いそうだな……」


 くすくすと笑いながら懐かしそうに目を細めた。あの場所じゃ、きっとこのように笑うことはできなかっただろう。しばらく声を殺して笑っていたが不意に笑いを止め、さきほどと変わって悲し気に目を細めた。


「イヨ、君はあの後どうだった?苦しく、なかったかな?ゆっくりと寝れるようにいけたなら、いいなぁ……ねえ、イヨ。私物は勝手に使えって言ったよね?だから僕はこれだけ貰っていくよ」


 左手にはめた腕輪を一撫でするとロキはゆっくりと立ち上がり、クローの墓を見下ろした。

立ち上がればさきほどと同じように風がふわりと髪の間を駆け抜けた。


「イヨ……いや、クロー。また今度、この件が収まったら……またゆっくり話そうね」


 そう言い残し、墓に背を向けた。

風が吹く。まるで背を押すようにふわりと追い風が。

ロキはその追い風に押されるがまま墓地を後にした。



 * * * 



 バートンファミリーの屋敷にある会議室は静寂に包まれていた。

既に集まっていたアベル、ユダ、カルマ、バルドル、ルーファ、クロナはただ黙って席につき残りのメンバーが揃うのを待っていた。誰もが口を開こうとしない。そんな重苦しい雰囲気の漂う会議室の扉を大きな音を立てて誰かが開いた。


「ボス~呼んでたって聞いたから急いで戻ってきたわよ~」

「エイラか。あとはロキだけだな……」


 街を離れていたエイラが戻ってきたのだ。エイラは部屋の雰囲気を見ると特に何を言うでもなく自身の席に腰を下ろした。エイラの左隣りのバルドルは薄めでエイラの姿を確認するとまた同じように目を閉じた。その反応にブツクサとエイラが文句を垂れるがバルドルは素知らぬ顔でただ黙り続けていた。エイラもしばらく文句を言い続けていたが相手にされないと分かると口をとがらせながら頬杖を付き、黙り始めた。


また、会議室の中に静寂が戻った。

それからしばらくして控えめなノックと共にロキが会議室に姿を現した。目の下のクマは少しだけ薄らいでいるように見えた。


「ボス、みんな。遅れてごめんなさい」

「気にするな、ロキ座れ。全員そろったことだし……始めるぞ。カルマ」

「はいは~い。言うと思っていたから準備はとっくに。」


 いつものようにへらりと笑いながら立ち上がるとカルマは全員の席に回り、書類を配った。

表紙には『トラグズの非正規研究所について』とある。

全員に書類が行き渡ったのを確認し、アベルがカルマに視線をやればカルマは注目を集めるように一度、手を叩いた。


「それじゃあ今からトラグズの非正規研究所について会議を始めるよ。情報源は先日殉死したクロー・ヴェルハウンドが手に入れたもので内容はロキが解読し、確認したものだ。ロキ、説明頼んでも?」


 カルマがチラッと目線をやればロキはひとつ欠伸をして立ち上がり、パラパラと書類全てに目を通すと書類をテーブルに置きまた欠伸をし、ゆっくりと目を開いた。


「細かい説明は書類に入ってるみたいだから省くね。トラグスの非正規研究所でクスリの研究が行われてるみたいだから潰そうってこと。以上……」


 そこまで言うとロキはまた欠伸をし、席に着いた。

一瞬、会議室の空気が固まったがすぐにカルマが笑いながら現実に引き戻した。


「ざっくりした説明ありがと〜引き継ぎは俺がやるね〜……まぁ、ほんと書類見てくれればわかるんだけど、作成されていると思われるクスリがジギタリスの比じゃないほどの副作用が予想された。これはルーファにも確認したから間違いないよ」


 チラリと目線をやればルーファはゆっくりと頷き、カルマと入れ替わるように立ち上がった。


「この研究されてるクスリには幻覚作用を始め麻薬に含まれる副作用がほぼ全て入ってると思っていいわ。さらには過剰摂取による毒化の可能性も含まれてる」

「あぁ?んなもんクスリならどれも過剰摂取は毒だろうが」


 バルドルがそう漏らせばルーファはそうじゃないと首を横に振った。


「そんなもんじゃないのよ。このクスリは体内に残留するの」

「は?なにそれ、どういうことよ!」


 エイラが声を荒げた。バルドルは信じられない物を見たかのように目を見開き、ただ固まっていた。

ルーファはそのすべてを無視して書類を数枚捲り、全員に同じページを開かせた。

そこには研究されているであろうクスリの成分表が印字されていた。ただ見ただけでは医学に精通していないアザゼルの面々は一切何が何かわかっていない。それを理解しているためかルーファはしっかり聞きなさいよ、と一言告げてから再度、書類に目を落とした。


「人は汗とか排泄によって体の不要物を外に出すわ。人体の不要物っていうのはクスリの成分も一緒。クスリを絶てば時間はかかるけど必ず汗などで体内から排泄される。けどこれは毒素を残したまま……その形状を粉末状から砂状に変えて体内に残るの。つまり……」

「言葉通り、重りのように居座って体から出ていかない、ってことか……!」

「そういうことよ……それにクスリが体内に残留している分、他のクスリよりも容量の限界が来るのはとても早いと思うわ……一度摂取すればその副作用から自力で止めることはできない。けどやめないと過剰摂取で死ぬ。この研究所で研究されているのは、そんな代物よ」


 ルーファの言葉にその場の全員が口を噤んだ。体内に残留し排出されないクスリ()など完成した日には領地どころかこの国全体が危険に見舞われる。そんな予想の域を出ない考えが全員の頭をよぎる。


「クソみたいなものを研究してんじゃない……!」


 ドンッ、と怒りを抑えることなくエイラがテーブルを叩いた。殴った手が力の入れすぎか赤くなっている。

ルーファは全員を一度見回し、完成していればの話だと付け加えた。


「研究途中の物も最新の実験データも見ていないからなんとも言えないわ。ただ、このままだとそういう効果を持った薬が出来てもおかしくはないわ」


 それだけの研究員(アタマ)をトラグスは持ってる。ルーファはそう言いながらも悔しそうに唇を噛んだ。

研究員として学者として、かつて薬という名の毒にやられ成長が止まってしまっている身としてトラグスがやっていることが許せなかった。そして、それを未然に止められなかったことに悔しさを感じていた。


 ルーファが席につくと静寂が会議室を包んだ。

全員が様々な思いを抱えつつもただ一つ、同じ思いの芽を生んでいた。

アベルは一度全員に目をやり大きく息をするとパンッ、と一度手を叩いた。

会議室にいた全員がアベルに視線を集めた。

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