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ノドの地  作者: 音切萌樹
第一章.バートンとトラグス
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14.紫の薔薇を貴方に

 広間にエイラとバルドルが戻ってからもう数十分経っていた。薄暗かった広間は棚の中にあったランプを付けたおかげもあり、幾分かマシにはなっている。だが、廊下のはるか先にはまだ深い闇が広がっていた。


「遅いわねぇ。何してるのかしら」

「……レヴィアーノ・バリストンは誠実な奴だ。他の馬鹿な連中とは違えよ」


 退屈そうに呟くエイラにバルドルが言葉を返す。敵地だと言うのにずいぶんと落ち着いているものだとエイラは口を尖らせた。今日はこの妙な落ち着くようが気に入らなかった。

 そんな二人から少し距離のあるところでジェットとベリルの二人は立っていた。二人に周囲を警戒している様子はなくとても落ち着いていた。


「ヴィオレッタ……過去トラグスとも関わりのあった家、ねえ」

「ジェット、あんた口開くと何言うかわかんないから黙ってて」

「あんだとこのクソアマ」


 軽口を叩き会う二人の様子を見ながらバルドルは懐から懐中時計を取りだし眉を寄せた。

思った以上に時間がかかっていた。時間をくれとは言われたがこれ以上はどうにも待てる気がしなかった。

 そろそろ様子を見に行かねばと懐中時計を懐にしまおうとしたその時、銃声が響いた。

反響して聞こえたそれは廊下の奥から鳴っているようだった。


「銃声!?」

「……いくぞ」


 バルドルの言葉に全員が武器を手に執務室へと向かう。部屋の前につくなり勢いよく扉を開けば先ほどまで感じなかった香りが鼻についた。


 噎せ返るような鉄と、硝煙の香り。

そして真っ赤に染まったカーペットの上に一人、レヴィアーノが立ち尽くしていた。

その手には拳銃とそこからゆっくりと上がる硝煙が見えた。


「それが、お前の答えか?ヴィー」

「……バド。私には、どうやってもお前には勝てないよ。大切な者をこの手にかけてしまうような、愚か者にはね」


 ただひたすらに物言わなくなったウォズを見つめたままレヴィアーノは息を吐き出すように言葉を落とした。真っ赤に染まってしまったウォズの手を取ると胸元に重ね、事前に用意していたのか紫色の薔薇の造花を5本挟めた。そして、一度ゆっくりとその髪を愛おしそうに撫でた。


「本当は21本にしたかったのだけれど、お許しくださいウォズ様……バド。私の机の中に私とウォズ様で調べ上げた資料が入っている。誰が主導で誰がそれに乗り、誰がこの家にそれを運び入れたか調べ上げられるだけ調べ上げたものだ」

「ヴィー、お前……」


 互いにしか使わない名で呼び、ゆっくりとレヴィアーノはこちらを向いた。悲しげに細められた瞳はどこか黒く濁っているように見えた。

 レヴィアーノはバルドル以外の人間がこの部屋にいないかのように一直線にバルドルだけをみつめた。


「追えるものは全て追った。だが不可解なのはすべての情報の終着点で必ず『カナン』と呼ばれる者に突き当たることだ」

「カナン……?」


 レヴィアーノの言葉にエイラは首を傾げ、ジェットとベリルは目を見開いた。

バルドルは目の前の男の言葉をひとつとして聞き洩らさまいと見つめ続けた。


「それは男であり女であり老人であり子供である。どれだけ調べてもどれだけ姿を追っても絶対に姿が一致しない謎の人物だ」

「姿が、一致しない……!」

「これは資料に残していない。私個人が調べ上げたものだ。バド、どうか我が主を……いや、我ら『ヴィオレッタファミリー』を嵌めた人間を……バド。いや、バルドル・バルザーク。あとは、頼みました」


 レヴィアーノはバルドルに向かって笑いかけると己の米神に銃口を向け、ためらいなく引き金を引いた。パン、という乾いた音と共に壁に一輪の赤い薔薇が咲いた。紫の薔薇の横に咲いた赤い薔薇はゆっくりと地面に崩れ落ち、やがて何も語らなくなった。

 自身の服が汚れることも省みずバルドルは赤い海へ足を進めると何も語らなくなった男の亡骸を抱き上げ、目を閉じた。


「……さようなら、レヴィアーノ・バリストン。我が、友よ」



 エイラの指示により、部屋の捜索が始まった。

レヴィアーノが最期に残した通り執務机の中には丁寧にまとめられた書類が入っており、薬の流通経路やヴィオレッタファミリーの誰が手を出していたのか、はたは同じくバートンの傘下に入っているファミリーで手を出しているところまで書き出されており、まさに今後の処理時にありがたい書類だった。


 さらに捜索を続けているとウォズの執務机の引き出しのひとつが二重底になっており、そこにはバートン領地からトラグス領地にいたるまでヴィオレッタ領から流出したであろう薬の量が計算されており、これもまた後々の後始末に必要なものとなった。


 ひたすらに部屋を捜索しているうちにジェットがボソッと「殺す必要まであったのかなぁ」と呟いた。

 その言葉に真っ先に反応したのはエイラだった。

ツカツカとヒールを鳴らしながらジェットに近づきその胸ぐらを掴みあげる。


「あんた、なにそんなあまっちょろいこと言ってんのよ。バートンにもトラグスにも実害が出てんのよ。さらに掟として決められてることをこいつらは破った。掟は絶対。そう教わらなかったの?」

「教わったよ!けどどう考えてもこいつらは自分達が主導で動いてねえ!部下が勝手にやったことへの後始末をぜんぶ纏めあげてその責任を命で支払っただけじゃねえか!こいつらは死ぬんじゃなくてこの能力を差し出すべきだったんだよ!こんなの……こんなの無駄死にじゃねえか!」

「あんたねえ!」

「やめねえかテメェら!」


 あわや殺しあいが始まるかという二人をバルドルが一喝する。

その声にエイラはようやくジェット胸元から手を外し、ジェットも舌打ちをしながら衣服の乱れを直した。


「テメェら、勘違いしてんじゃねえ。俺らの任務はヴィオレッタファミリーの壊滅だ。死ぬ必要がなかったとか掟がどうだとかあとでやりやがれ」

「……ごめん、バルドル。見つかった資料、外で待機してるルーファに渡してくるわ」


 出てきた資料をもってエイラは部屋を出ていった。頭を抱えながらため息をつくバルドルに「あたしがフォロー回っとくわ」と残し、エイラのあとをベリルが追った。

ただ立ち尽くしていたジェットだったが、はっとし、部屋を出ていき、すぐに目的のものがあったのか戻ってきた。その手には真新しいシーツがあった。


「あの、その、すんません、この二人、ずっと床に放置ってのも、なんつーか、冒涜だなって思って……バルドルさん。二人を、ちゃんと弔ってもいいっすか?」

「それは、トラグスとしてか?」

「いえ、バルドル・バルザークの友人の一人として、です」

「……はっ、んだそりゃあ。けど、ありがとうな」


 不器用に笑うとバルドルはジェットの頭をクシャリと撫でた。


「ジェット、ヴィーを……レヴィアーノとウォズをきちんと弔ってやりたい。手伝ってくれるか?」

「……はいっ!」



 * * *


 

 リンリンリンと甲高い音が車内に響いた。通信用無線に連絡が入ったようだ。無線を取り、返事をし、返答を待てば相手はエイラのようだった。


「ずいぶん遅い連絡ね。すでに突入から時間も経ってる。逐一連絡をしなさいっていつも言ってるの忘れた訳じゃないでしょうね?」

「ごめん、忘れてたわ……任務完了。これより資料などを纏めて帰還するわ。資料はすでに外に持ってきているから迎えに来てもらってもいいかしら」

「エイラが素直だとなんか調子狂うわね……わかったわ。これから向かう」


 無線を切ると、すぐさま別の無線を手に取る。バートンの紋様である剣と蛇の紋様の描かれたそれはバートンの屋敷に直通の無線である。


「もしもし、こちらルーファ。任務完了よ。カルマとユダにもそう伝達してちょうだい」


 相手からの返事を待たずに無線を切る。

さて、やることが大詰めだとルーファは一人ため息をついた。

紫の薔薇の花言葉 「誇り」「気品」「尊敬」

5本「あなたに出会えた事の心からの喜び」

21本「あなただけに尽くします」


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