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08.都市からの旅立ち

「――荷物の積み忘れはありませんか?」


「あぁ。いつでも行けるぞ」




 寝泊まりに必要なテントや寝袋、簡単な調理セットはじいさんが倉庫に保管していたものを以前発見し、いつか使ってみたいと思い軽くメンテナンスしてあったのでそのままバッグに入れ積み込むだけで済んだ。


 その他に着替えや工具、予備部品に燃料を積んだら結構な量になってしまった。




 最後に全体を軽く拭き上げた。青いボディが薄明かりの中輝いて見えた。



「こんなに積んでしまって、アドくんつぶれてしまわないですか?」


「昔もじいさんはこのくらい積んでばあさんと走ってたらしいし大丈夫でしょ。と言うよりいつの間に名前を付けたんだ……」


「横に書いてあるじゃないですか。Add……って」


「ステッカーが破れてその後ろがないんだよな。正式名称があるんだがまあいいか」


「それにわたし達の旅の相棒なんですから名前くらい付けてあげないと」


「そうだな」



 たまに可愛いこと言うね。




 あとは真っ暗になるまで待つか……。




「……兄さん、最後出る前にお父さんとお母さんに挨拶しましょう」


「これで最後の挨拶なんだよな……。こんな形で家を出るなんてどう思うだろうか」


「わたし達が悪いわけではないですから。きっと無事を祈ってくれますよ」



 あの人達は放任主義だったからな。無事に生きてさえいれば怒られることはないだろう。




――――


 すっかり日が沈み、月明かりに照らされる街。未だに停電が続いているので月が無ければ真っ暗闇だろう。


 外をうかがうと、見張りの人数が随分と減ったようだ。


 この様子ならば、振り切ってそのまま郊外まで抜けていくことができそうだ。



「――よし、そろそろ行こうか」


「はい、出発しましょう」



 ヘルメットをかぶり、グローブを着ける。


 静かに門を開け、誰も居ないことを確認したところで車体を押し道路に出た。



「エンジン掛けたら音出るから奴らに気付かれて包囲される前に街を抜ける。しっかりつかまっててくれよ」


「……わかりました。気をつけて運転してくださいね」


 ぎゅっ、と背中にレイカの身体が押し付けられる。


 見た目通りやっぱりボリュームがあんまり無いな――なんて口に出したらこのまま絞め殺される可能性が高いので何も言わない。


 キーをONの位置へ回しスターターボタンを押す。



 キュルルルル、バイィン!バババババ……




(よかった……無事に掛かってくれたぜ)


 街中では一台も電動車両が走行しておらず、もしかしたら停電で携帯電話が壊れたのと同じ状態になったかもしれないと準備している間に考えていた。

 こいつは電子制御の無いキャブレターのエンジン車だからもしかしたら大丈夫かも……と予想していたが、やはりその通りであった。


 現在は電動車両がほとんどで、ごくわずかに残るエンジン車両も電子制御で動かしているから影響が出るだろう。

 そうなるとまともに動ける車両なんて自転車くらいしか無い。


 今も車両は走っていないようなので追手はすぐにはやってこないだろう。



「行くぞ!」


「はい」




 ◇   ◇


「自転車の連中めちゃくちゃ速かったな……危うく捕まるところだった」


「平地だとあんなに速度が出るものなんですね。上り坂で連中を撒けて良かったです……」



 街中に入るまでは順調に進んでいたのだが、どうやら自転車隊が待機していたようで数kmほど追いかけっこになった。


 自転車は思った以上に速度が出ていたので、速度の出しにくい狭い道ではこちらが不利となっていた。


 「急な上り坂がある郊外まで行けばそこで引き離すことが出来るのでは?」というレイカの言葉を信じた結果、郊外のさらに外れまで来たときには姿が見えないほどに引き離すことができたのだった。



「あとはこの川を渡るだけですね」


「あぁ。橋から落ちないように気をつけろよ」


「兄さんこそ、アドくん共々川に落ちないでくださいよ」





 川を渡れば都市の管轄から外れる、いわゆる”番外地”。基本的に人が住むこともなくどこの都市にも属していない領域である。


 この都市の周りには深い河川が流れているのでそこを渡らないと外に出ることができないのだが、現代では都市から出るという人はまずいないので正式には橋が架かっていない。


 昔は隣の都市へ行くために歩行者などが通行できる橋があったのだが、強度が弱かったため台風によって崩壊し川に流されて以降そのままだ。


 ただ、現在ではほとんど知られていないが、唯一都市の外に出られる橋というのが森のなかにひっそりと架かっている。


 ここに隣の都市と鉄道が敷かれる予定が40年近く前に立ち上がり実際に工事も行われたのだが、予算や人員、物資不足などの事情によりレールが敷かれる直前で工事が中止。そのまま放棄された。


 そしてこの川を渡れる唯一の存在であるこの橋梁は崩壊した方の橋からかなり離れていて、しかも森の中という立地なので改めて存在を知られるということがなかった。

 そして頑丈なコンクリート製で当時の形のまま残っているこの橋梁を渡らせていただいている、というわけである。




「幅は狭いし壁もないからこわいんだが……」


「高いところ好きそうなのに実は高所恐怖症ですもんね」


「バカと煙は~ってやつだろ?つまり逆説的に俺は頭が良いということだ」


「その発言がバカっぽいです」



 バカなことを話しながら気を紛らわせ、ようやく橋梁を渡り終えることができた。




 これが、街から飛び出た俺たちの最初の一歩であった。

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