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07.応戦

 ……くい、くい、とズボンの裾を横から引かれる感触があった。


 そっと足元に目線をやるとレイカが足元で姿勢を低くしこちらを見ていた。


 傍らには消火器が二本あった。どうやらどこかからこっそりと持ってきてくれたようだ。




(……兄さん、タイミングを見てこれを使ってください。わたしも同時に噴射させます)


(グッジョブ妹よ!愛してるぜ!)


(……こ、こんなときにそういうこと言わないでください!)



 声には出さないが、長年一緒にいるのでアイコンタクトでなんとなくわかるのでこういうときとても助かる。


 安全栓を抜きホースを外してすぐさま渡してくれたのでとっさにノズルを男の顔面に向けてレバーを握った。



 シュアアアアアァァ!!!!!!



 思った以上の威力に驚き左足を後ろに下げながら、顔面から真っ白になってゆく男に消火剤を噴き続ける。


 レイカも参戦してくれてパワーアップ!


 口と鼻に薬剤が入って苦しいのかその場で顔を手でおさえてもがき苦しむ男。





 数十秒ほど集中噴射していたので勢いがなくなってきた。 



「あの状態なら追いかけてこないだろうしこのまま逃げよう!」


「そうですね。あ、ちょっと待ってください」


 おもむろに手に持った消火器を振りかぶると、男めがけて力いっぱい投げた。



 ゴチンッ!!!!


 まっすぐ飛んでいく消火器が見事に頭部に命中した。



「さあ、行きましょうか!」


「よ、容赦ねぇ……」



 レイカが笑顔で言うので若干引きかけたが、正当防衛ってことで念のため俺も投げつけておいた。

 


 こうして動きを止めたおかげで一難を逃れたのだった。




 ◇   ◇


 俺達は誰かに見つからないようにしながら、急いで家へ向かっていた。



「――ところで、前世の記憶を持っているって本当なんですか?」


「そこは聞いてたのか……」


「はい」


「……それは落ち着いたら話す!とりあえず家へ急ぐぞ」


「必ずですよ?……ところで家へ行ってどうするんですか」


「もう俺はこの都市で暮らしていくのはできないみたいだから荷物を持ってここから出ていこうと思ってる」


「えっ……」


「……お前と離れるのはさびしいが、まあ元気でやってくれ」


「……そうですか」



 俺がこの都市から出ていくということを告げてからなんだか機嫌が悪くなり、会話が途切れてしまった。






「あそこから急に人が多くなったけど、これってもしかして俺が待ち伏せされてる?」



 家が近くなり、行こうとしていた道には三十人ほどの街にいるような普通の人が虚ろな表情で徘徊していた。



「……街に人がいなかったのって、もしかしてこれのせいでしょうか」


「ありえるな。様子がおかしいし何らかの方法で操られているのかもしれん」


「これでは通り抜けられないかもしれないので裏道で行きましょうか」


「おう!」



 あの人数の中を通り抜けることを諦め、裏道で家へ向かうことにした。


 この裏道は寝坊して遅刻を免れるために発見したスペシャルなコースである。


 基本的に道ではなく建物同士の隙間や人の家の庭、塀を乗り越えて行くのでかなり距離と時間が短縮できる。


 ここを通ると服や靴が汚れるし結構疲れるので余程の事がないと使わないが、人と鉢合わせることがまずないので今回のようなときとても役に立つ。


 俺とレイカは服や靴が汚れることも厭わず駆けてゆくのであった。




――――


 追手はおらずなんとか近所までやってきたが、そこにもさっきのような見張りが徘徊していた。


 見張りに見つからないようタイミングを見計らい裏の家の庭から忍び込み、いつも鍵を開けている小窓から自宅に侵入することに成功した。



「なんか家に入ろうとする様子もないし暗くなるまで待つとするか」


「……兄さん、本当に一人で出て行くんですか?」


「そのつもりだ。何もお前まで出ていかなくてもここで問題なく暮らしていけるだろう。……愛する妹と別れるのは心苦しいが、ここでお別れだ」


「――ッ!」


 レイカがキッ、っと睨みつけるが、俺は言い終えて思わず涙がこみ上げてきたのをぐっと堪えるので精一杯で視線から逃げるように顔を背けてしまった。





 なんだか気まずいので支度をするかと立ち上がろうとすると、レイカが腕を掴んで言った。



「兄さんはもう……なんで何もわからないんですか!?」


「……えっ?」


「お母さんもお父さんもいなくなって最後の家族である兄さんまでいなくなったらわたし、たった一人になってしまうんですよ?」


「……」


「それに兄さんはここを出て一人で生きていけると本気で思ってんですか?」


「う、うむ」


「家ですらわたしが出掛けてるときは食事をお菓子で済まして掃除もしないズボラでなにをするにもいいかげんな生活能力ゼロ男である兄さんが何日も外で生きていけるとは思えません」


「お、おう……」


「それに昔わたしに言ってくれましたよね?『絶対ひとりにしないよ』って。あれは嘘だったんですか?」


「……」


「それに兄さんも、さびしいって言ったじゃないですか……」



 兄さん”も”か……


 よく考えたらこの時点で随分と振り回してしまったし、ここはもう選択技はひとつだな。



「……ダメな兄ちゃんは妹様がいないと野垂れ死にしてしまうので、一緒にこの都市を出ていきませんか?」



 俺は跪き、手を出して言った。



「仕方がありませんね。ダメな兄さんがそこまで言うならわたしも一緒に旅立ちましょう」

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