03.過去の大災害と留年
40年ほど前の世界的大災害により大部分の国や地域がほぼ壊滅し、人口が九割減少した。
災害で生き残った一割の人間が復興を行っていたが、10年ほどの間にその全員が原因不明の病により亡くなってしまう。
残ったのは大災害後に生まれた子供のみ。技術の受け継ぎや教育がほとんどされなかったために歴史や技術の大部分が消失してしまった世界。
『稀に過去の記憶を持つ子供が生まれるらしい』
という都市伝説がここ10年ほどで有名になっている。
それは初等学部の入学試験に”過去の記憶を持っていると正答率が非常に高い”という設問があるらしい。それに正答した子供は、
「『政府から大金と引き換えに子供を強制的に引き取られて技術復興のための奴隷にされ酷使されるため数年で死んでしまう』」
といったことや、
「『実験台にされ脳をいじくられる』」
という噂からきているのだそうだ。
◇ ◇
ここは隣の都市まで山道を通り電動自動車で3日は掛かるいわゆる地方都市。世界的にこのようなところは多いらしい。
復興のための物資と人員輸送を効率化するため都市間を繋ぐ鉄道を敷く計画があり工事も進んでいたようだが、何らかの原因でレールを敷くに至らず、周辺施設だけが残され放棄されたのは資料が少ないためあまり知られていない。
俺は成績はあまり良くないがなんとか高等部まで進級することができた。
しかし高等部最初の夏休み中に寝ぼけてトイレに向かう途中に家の階段から落ちてしまい打ち所が悪かったのか三日間意識不明の状態が続いた。
やっと目覚めたその時に、知らない記憶が次々と浮かび上がってきたのだった。
「――これは夢?」
夢の続きかと思ったが、最後に浮かんだ記憶に映る結婚式での人物達が自分の両親にそっくりだ。もしかしたらこれは祖父の記憶だろう。
そして違和感を感じる。
(確か私は病に罹って死んだんじゃなかったか……?)
もしかしたら死んだじいさんの意志まで飛んできたのか?
私は誰かに転生でもしたか?
リュージは一瞬自分が誰なのかわからなくなりこの事にとても混乱したが、これが誰かに発覚してしまうと政府に連行されてしまうと思いその事を隠し過ごしていくことにしたのだった。
――――
足も骨折してしまい入院やリハビリで数ヶ月掛かってしまったため出席日数が足りず留年してしまった。
成績優秀なひとつ下の妹と同学年になってしまいちょっと居辛く感じている。
「すでに情報を得ているはずの二度目のテストを行った兄さんが完全初見であるわたしより成績が大きく下回っているなんて、不具合を治すためもう一度頭に衝撃を与えないといけないのでは?」
「頭が悪いっていう直接表現を避ける心づかいをありがとう。そもそもテスト内容なんて全く覚えてねぇ」
頭に衝撃を与えたせいで成績が悪いわけじゃないからな!
一学期の期末テストを終え、再び迎えた高等部一年の夏休みは今度こそ無事に過ごすことができた。
じいさんの記憶と意志のせいかなんだか無性にバイクでどこかに出掛けたくなり、夏休み中にバイクの免許を取得する予定を立てた。
昔住んでいたという地方にも行ってみたい。
退院後からアルバイトをしていた資金で試験場に通い無事に1.0kw(125cc)以下限定であるが取得することができた。
記憶を頼りに家の倉庫の奥にあるらしい大昔のスクーターを荷物の奥底から発掘し、ガレージで夏休みの残り期間を使い復活させてみることにした。
動くようになったら妹を後ろに乗せてどこか行こう――その光景を脳裏に浮かべながら修理を開始するのだった。