一緒にいたい(桜木世流side)
ああ、可愛い。うちの娘は世界一、否!宇宙一の可愛さだ。
肉眼レンズ越しで見れないのは残念だけど代わりに園内の監視モニターで今日は我慢するしかない。
「意外です。世流なら絶対に、保護者同伴で一緒に楽しむと思ってました」
巽は私を何だと思っているのか。可世だけならともかく、あんな餓鬼共と一緒に楽しめる訳ないよ。
「餓鬼共と一緒にまわるのを可世が楽しみにしてたからね。仕方なく、だよ」
「実際、世流が居なくても楽しそうですからね」
「私が、居た方のが断然楽しいけどね」
はしゃいで園内を走り出す可世の横顔、正面、頭上、足元と様々な角度の映像が数十ある画面から写し出される。
「ストーカーですね」
「ストーカーが監視モニターを掌握する知識も権力も財もないだろ。それに私は父親だからね」
「最悪な犯罪者ですね。それが身内なら尚更………気持ち悪い………おや?」
顔を赤くさせ弾む息を抑えながらアトラクションの列に並ぶ可世を見た一般客達がその存在に気付き驚愕を顕にする。
そしてはにかんだ笑顔に撃ち抜かれ次々と左右に割れて道を作り出した。
「順番を譲られてるね。まぁ当たり前だけど」
「スタッフも誘導してる様ですが……まさか、世流?」
「私は何もしてないよ。スタッフの自己判断でしょ。まったく余計な事をするね」
「余計な、ですか?」
「可世は普通に並んで乗りたがってたからね。無理だとは思ってたけど」
並ぶのもアトラクションの醍醐味とは言っていたけど土台無理な話だ。
なのに何故か可世は可鈴と同じで『普通』に固執してる。
「さて、私はスタッフルームに待機してるから巽はターキーを買って配ってきなよ」
「はぁっ!?脈絡もなく一体何ですか」
「次のアトラクションで濡れるからね」
「?レインコートは用意してましたよね」
「うん。海中調査機関開発の素材で作らせたレインコートを持たせたけどデザイン性を追求したせいで着用部位以外は確実に濡れるね。特に頭と足元は」
「…………わざとですね」
「モニター越しもいいけどやっぱり会いたいしね」
「毎日家でも学園でさえも会っているではありませんか」
「此処ではまだよ」
ブツブツ言ってないで早く買いに行きなよ。
巽をお使いに行かせてから私もモニタールームからシャワールームがある居室へ移動し待機しているとスタッフに案内されて現れた可世は案の定濡れていた。
「ああ、やっぱり濡れたね。シャワールーム借りたから浴びてきなさい。本当は浴槽で温まった方がいいけどホテルは園外だし此処だと浴槽を入れるスペースがなくてね」
代わりに洗髪、洗身剤類にタオルに今着ている服とまったく同一の物は自宅から持ち込んだ物だから安心して使って大丈夫だよ。
「お父さん………なんで此処に居るの?」
「ほら、冷えるといけないから」
有無言わさずシャワールームに押し込み、可世の事だからゆっくりせずすぐに出てくるだろうと予想しながらドライヤーとブラシ、スキンケア用品をすぐに使える様に準備する。
10分しないうちに出て来た可世を座らせてタオルドライし、その間に顔に化粧水、乳液、クリーム、UVカットクリーム、フェイスパウダー、色付きUVカットリップ、髪に洗い流さないトリートメントオイルを塗布してから温風ドライヤーで乾かし、今度は冷風で髪全体温度を下げてからブラシで丁寧にとかす。
うん。5分もかからず完成。
餓鬼共なら永遠と待たせていられるのに可世は心配し過ぎたよ。
「じゃあ、いってらっしゃい」
困惑したままの可世を送り出す。
このまま私と一緒に居て欲しいけど、あんだけ楽しみにしてたのだから仕方ない。
モニタールームに戻ると巽がターキーを持って待機していた。
私が買いに行かせて生徒達に配布しろとは言ったが……うん、似合わないね。
差し出されたターキーを受け取りながらしみじみ思うが口には出さない。私は可鈴や可世が言う通り親友に充分配慮しているよ。
「はぁ、可世さんはあの場で食べたかったのであって、お土産として家で食べたかったのではないと思いますよ」
「知ってるよ」
それにお土産として家で食べるつもりはない。
なんでターキーを3本も買ったと思ってるの?
学園に帰ったら三人で食べる為だよ。
本当に私の配慮が判らない男だね。
「?何ですかその不満そうな顔は………」
言われた通りに買って来たの何ですかと、言わんばかりの巽の表情に対して、何で無表情の私の顔色はよめるのに判らないんだいと、返したい。
「もう可世に聞きなよ」
「可鈴さんも可世さんも世流の代弁者や通訳じゃないんですよ」
「判らないのが悪いんだよ」
もう巽なんぞ放置してモニターの可世を見ると可世が一番に行きたがっていた魔法エリアだった。
そしてまた順番を譲られている。
あれでは凝った城内の観察も出来ないね。せっかく雑誌を購入して城内の絶対観るべきスポットを調べていたのに。録画じゃ何だし後で貸し切りにしてまた来ればいいかな。
それにしてもあの副担任なんなの?
生徒でもなく教師の分際で可世と一緒にアトラクションを忌々しくも満面の笑みで楽しんで。
「あの副担任辞めs」
「させません。このくだりは以前で止めるように言いましたよね。それにあの方は担任の先生の補佐する為にも必要な人材です」
ああ、あの担任のね。
私の顔にペイントしようとして夢の国から追放処分すると脅したら何故かシリアルナンバー入り限定ネズミぬいぐるみを泣き泣き貢ぎ物として差し出し、許しを乞うて来た馬鹿だ。あんなのいらないよ。
「その馬鹿は?」
「校外学習先が副担任先生の意向で変更されましたからね。園内には居るはずですが何処に居るかまでは……モニターで確認されてみては?」
「副担もいい仕事したね。担任はモニターで確認するのも嫌だからいいや。それにモニターは可世の為にあるんだしね」
「監視モニターはその為に設置されている訳ではありません」
バタービールを一気飲みして溜め息を吐く可世は私には残念そうに見えたが、周囲には名残惜しそうな溜め息だと思ったみたいだね。
こぞって自分の分を差し出す姿やら買いに走ろうとする姿、あげくの果てにはそれを見ていたスタッフが既にバタービールを注文する前からグラスにバタービールを注いでいる。
それを断り、また皆で来たいとささやかな願いを口にする可世に餓鬼共がグラスを壊れるのではないかと思うくらいに強く握りしめ決意を顕にバタービールをゴクリと飲む。それを不思議そうに見つめる可世。
「バタービールで一致団結したみたいですね」
読唇術が出来ない巽でも見ただけでそう判る。
だけど餓鬼共の気持ちは判っても可世の心までは判らないみたいだね。
「有象無象が団結したところで4年後にあの場に居るのは私だけどね」
「なんで4年後限定なんですか?」
「可鈴に潰された君が何で判らないのか、判らないよ」
「潰された?潰されるほど可鈴さんは重くないでしょうし、のし掛かれたこともありませんよ」
酔ってのし掛かったの巽で物理的に潰されたのは確かに可鈴だったけど、可鈴のペースに合わせて呑み潰されたのは君だよ。
可鈴の酒豪っぷりも一緒に忘れた巽は別に弱くはない。弱くはないが可鈴が強すぎた。ザルどころかワクだったからね。
「4年後は覚えているといいね」
「だから何で4年後何ですか?」
それから呪文を唱え杖を戸惑いながら振る可世、変な味のビーンズが買えなくてガッカリする可世、相変わらず順番を譲られ恐縮しながらアトラクションを楽しむ可世、パレードのネックレスを困惑しながら貰う可世を見守り続けた。
なんであんなに娘は可愛らしいのか。
まぁ、パレードのネックレスはいらなかったみたいだけどね。
ネックレスを一生懸命取ろうとして取れなかった餓鬼にあげて周囲が羨ましがっているよ。
パレードのネックレスではなく、可世が持ったネックレスだから羨ましがっているんだけどね。
「ああ、あれは西城君ですね。藤堂君と叶君と仲良く過ごされている様で良かったです」
「ふーん」
「世流?編入生の書類見ましたよね。ネックレスを貰った子が編入生ですよ」
「興味ないよ」
「貴方、理事長でしょうが!それに藤堂君と叶君が小等部の時、世流が退学宣言した子達ですよ」
「ああ、あの時の……なんでまだ居るの?」
「退学させる訳ないでしょうが!あの時も言いましたが二人とも分野は違いますが優秀な生徒です」
「優秀ね………まぁ害にならないならどうでもいいよ」
可世を見ると羨まし気な視線を感じ取ったのか、お土産として買ったお菓子を開けて餓鬼共に配っていた。
今度は三人組から羨ましい視線を向けられるが可世は手を小さく振ると餓鬼共一緒に集合場所へと向かって行った。
「さて、帰るよ」
一足早く学園に戻って可世を出迎えよう。
そしたら理事長室で巽のお茶とターキーを食べながら可世から今日の話を聞こうかな。
校外学習だけど家に帰るまでが遠足だしね。
《帰還後の理事長室》
世流「はい、可世」
可世「ターキーだ!」
世流「食べたかったんでしょ?」
可世「一緒に食べたかったのはお父さんでしょ」
巽「なんで私まで……」
可世「?なんでってお父さんが私と校長先生と一緒に食べたいからだと思いますけど」
巽「えっ!?」
世流「アルコール入りバタービールは可世が成人したらね」
可世「黒ビールも!」
世流「巽は潰しちゃ駄目だよ」
可世「はーい♪」
巽「はっ!?」