13, 可愛いの塊の決意
アイリッシュは膝の上に座らせた可愛い存在の小さな口にスプーンを運ぶ。
「⋯、ありがと。ごめんね、あいりっちゅ」
「良いのよ!」
クロエは一口与える毎にお礼を言ってくれる。だからこそむしろご褒美という本心は、さすがに言わないでおく。本来は18歳な幼女にそんなこと言えばただでさえいつも警戒されているのにもう家に入れてくれなくなってしまうかもしれない。
☆☆☆
何でこうなったんだっけ?えっと~、ん〜?あ!キノコを食べたんだった。あれ?でも今もキノコ食べてるな?我ながらご飯美味しい。
クロエはグラタンを食べながら考えた。アイリッシュの予測通り精神年齢も下がった彼女は頑張って考えたが、いつものように集中して考えられなかった。
「ほら。クロエ、あーん♡」
パクッ♡
人に食べさせてもらうことが嬉しくて、不思議で、クロエは、思わずキャッ、キャッと笑い声をこぼす。優しくて頼れる大人なアイリッシュの膝に座って、温かいご飯を食べる。例え一時的なものとはいえ、幼女な彼女にとってそれは多大な安心感をもたらすものだったが、ここで唐突にわずかに残った理性が罪悪感を叫ぶ。
「⋯、あいりっちゅ、めーわくかけてごめんなしゃい」
謝罪の言葉がポロリと出て目に涙が溜まってしまう。そんなクロエを見て少し驚き、悩む動作を見せた後、アイリッシュはクロエに向けていたスプーンを自分の口に運んだ。
「とってもおいしいわね、このパエリア。」
「⋯?」
「これも、これも。」
アイリッシュは並べられた皿に乗った料理を次々と食べていった。
「クロエ。アタシはね、アナタがこんなに素敵なことをしてくれただけで、すでに充分満足しているの。」
「⋯。」
「アナタがご飯に誘ってくれただけで嬉しいのよ。」
「ほんと?」
「えぇ。だからねクロエ、泣かないで、謝らないで。アナタの気持ちをアナタが否定しないで?アタシは迷惑だなんて思わないわ。確かに、アナタがイメージしていたのとは違う感じになっちゃったかもしれないけれど、アタシにとって今、とても最高の時間だから。」
アイリッシュの言葉が、初冬の雪のように静かに、でも確実にクロエの中に積もっていく。
彼は私のことを見て、何を言ったら良いのかを考えて、言葉を紡いでくれる。彼に感謝の気持ちを示すために私ができることは何だろう。
クロエは考えに考えた。
「⋯、また今度、ちゃんとご飯を作って、本来の格好で一緒にご飯食べる。」
「へ?」
「また、食べるの!」
彼は優しい。
出会ってから約16年近く、師匠が亡くなってしまってからもずっと、ここに足繁く通ってくれた唯一の人。
また、裏切られるかもしれない。前世の記憶がそう叫ぶ。それに従って彼から逃げることは簡単だ。だけど、彼は逃げ続けた私に向き合い続けてくれた。私が嫌がらない頻度を見極めて手紙を運んでくれた。手紙がなかった時にはわざわざ書いて会いに来てくれた。
そんな彼の優しさに、いつからか私は無意識に甘えていたのかもしれない。
いつまでも通い続けてくれると。
絶対なんて存在しないと知っていたはずなのに。 だからこそ、次は、私が来てもらえるようにしないといけない。
「また、ご飯食べよ?」
「⋯!」
アイリッシュの頰がじわじわと赤らんでいく。
料理にお酒を使ったっけ?なんて考えていたらアイリッシュにギュムッと抱きしめられた。
「絶対にまた食べるわ。誘ってくれてありがとう、クロエ。」
「ふふーん。」
私も試しにアイリッシュを抱き返してみる。以前から思っていたが、彼は人との触れ合いを楽しむタイプなのだろう。
「なにこれ急なデレ期?ヤバイかも。」
そんなアイリッシュの呟きは初めて他人の心臓の音を聞いて感動したクロエには聞こえていなかった。
時間が経つことにキノコの力?がじわじわ効いてきて精神年齢も幼くなってしまったクロエちゃん。
ちなみに、クロエちゃんは生まれ変わって自我が芽生えた時にはすでに最期のクローナの時の精神年齢だったので、ここで登場した幼いクロエちゃんは前世の幼少期、つまり本当に幸せな時のクローナちゃんだったんです!(クロエとしての記憶はあるけどクローナちゃんの人格が強い、というイメージ。)
ここで読んでくださりありがとうございました。




