41 打ち合わせしよう
「わかるよ」
ジスは頷いた。
「レイディンに死なれたら困る。いくら私が自己責任だと言ったとしても通じないよ」
「兄上に隠し続けるのも難しい。ヴィラージュで僕に何かあったら、兄上が責められる。僕の両親は国王夫妻だから」
最も怖いのは母上だけどね。
レイディンは心の中でつけたした。
「残念だよ。でも、仕方がない。別の者が一緒に行くと言っているし、丁度良かったのかもしれない。仕事をしないとだからね」
「どんな仕事?」
「行商人をしている。魔境で手に入れたものを何かと交換したり売ったりしている」
「なるほど」
「レイディンに装備を貸しただろう? あれもそうだよ。さまざまな方法で手に入れた」
「宝物のような装備ばかりだ。世界一の装備を持っているのはジスかもしれないね」
「上には上がいる。少なくとも、魔境の奥地で戦っている者の方が強い」
「強くなりたいんだ?」
「強くないと奥地へ行くことさえできない」
「まあ、そうだね」
「フォレスト・エルフのせいで時間を取られてしまった。夕食までに戻らないとだろうし、最後に何か思い出になるようなことをしたいけれど……レイディンだからね。花畑に連れて行っても喜ばない」
「花畑?」
レイディンは驚いた。
「さすがにそれは……女性を連れて行った方が喜ばれそうだよ」
「そうだね。セレスティーナは喜んでくれた」
ピクリ。
レイディンは反応しないわけにはいかなかった。
「会っていたんだ?」
「気になる?」
「なる。でも、セレスティーナは何も言っていない。僕と同じ、秘密にするよう言ったね?」
「言った。それがセレスティーナのためだからね」
「でも、僕にわざわざ教えるんだ?」
ジスはクスリと笑った。
「秘密にした方がいいのはセレスティーナの方であって、私ではないからね。フォレスト・エルフのことを考えて、セレスティーナやレイディンの立場が悪くならないよう気を遣っただけだよ」
「お礼を言っておくよ。セレスティーナとは腐れ縁だしね。ヴィラージュに来たのも僕のせいだし、何かあると責任問題になる」
「レイディンの責任になるのか」
「元々は強盗団討伐のためだった。そのあと、ヴィラージュに来たのはセレスティーナの個人的な判断だけど、僕が一緒でなければ来なかったと思う。両親がうるさいからね」
ジスは考え込んだ。
「……どうしようかな?」
「何かあるのかな?」
「セレスティーナは私と一緒に魔物を倒しに行きたいらしい。実力を軽んじられたくないそうだよ。私が風魔法を使うから、氷魔法が使える自分がいた方がいいと言われた」
なんだってーーーーーーーーー!!!!!!!
レイディンの頭の中にレイディンの声が駆け抜けた。
「私としても仕事でさまざまな素材を取りに行くし、魔物も倒す必要がある。セレスティーナが一緒にいてくれるのは心強いから了承した。まずかったかな?」
「まずいよ! 何かあったらどうするんだよ! 兄上だって僕だって責任を問われる! セレスティーナの父親は宰相で父上の親友だ。危ないことをさせたらダメだよ!」
「セレスティーナは自分の実力に自信があるようだけど」
「氷魔法はすごい。でも、それだけだよ。自分で転移できるわけじゃないし、氷魔法が効かない魔物だっているよね?」
「そうかもしれない。私も魔境に棲む全ての魔物を知っているわけではないからね」
「僕以上にセレスティーナは魔境のことをわかっていない。魔物と戦うなんて無理だよ! 見ただけでショックを受けて動けなくなる!」
「ワームを見ても平気だった」
「ワーム? どんなやつ?」
「地中にいる細長い魔物だ」
「ミミズ?」
「セレスティーナはそう言っていた」
ミミズは平気なのか……。
レイディンから見ると、セレスティーナは生粋の貴族令嬢。
ミミズなんて絶対に嫌がるとしか思えなかっただけに、意外だと感じた。
「氷漬けにして倒していたよ。地中からおびき出してほしいと言われたぐらいだ」
「魔物だから平気なのかな?」
ミミズは嫌い。でも、魔物は平気。むしろ、嫌いなせいで遠慮なく倒せる。
そんな図式がレイディンの中に浮かんだ。
「私も驚いた。普通の女性は怖がるか嫌がりそうだと思う。だけど、セレスティーナは自分に特別な力があることをわかっていて、その力を人々のために使いたいという高尚さを持っている。魔物は脅威だ。人々の安全を脅かし、生きる場所を奪う。守りたいという気持ちがあるからこそ、立ち向かえるのだと思う。とても勇気がある女性だよ」
乙女ゲームにおいて、セレスティーナは悪役令嬢のポジション。
しかし、勉強や魔法の修練にも励み、事業まで起こした。
宰相職で忙しい父親に代わり、領地の魔物討伐に参加。人々を守っていた。
悪役令嬢、一日してならずだ……。
セレスティーナが並々ならぬ努力をしていたことを、レイディンはよく知っていた。
「わかる。でも、危ないことはさせないでほしい。ジスのためでもある。セレスティーナに何かあったら、やっぱりジスが何か言われるよ」
「どの程度の実力があるかもわからない。まずは弱い魔物がいる場所へ行く。レイディンと同じように半日、問題なければ日帰りにする。それ以上は応相談かな」
「僕が行った場所は花畑じゃない。それなりに魔物がウヨウヨ出る場所だったよ。大丈夫かな?」
「心配ならレイディンも一緒に来ればいい。三人なら安全度がより高まる」
「仕方がないなあ。兄上のためにしぶしぶ一緒するよ」
ジスは首を傾げた。
「アーネストのため?」
「セレスティーナが戻らなかったら心配する。手のかかる姉妹同然だからね。ちなみに、僕はセレスティーナのことを姉妹とは思っていない。兄上の優しさに甘えて好き勝手なことをしているのが腹立たしい」
「レイディンとセレスティーナは仲が悪い?」
「普通。目的が一緒であれば問題ない。互いの目的が別々だと自分の方が優先。それは当然だよね?」
「当然だね。でも、一緒に行くなら私の足を引っ張らないようにしてほしい」
「僕は平気だよ。すでに証明したはずだ。セレスティーナに言うべきだね」
「わかった」
「じゃあ、打ち合わせをしよう」
「打ち合わせ?」
ジスは首を傾げた。
「僕が一緒だとわかったら、絶対に不機嫌になるに決まっている。偶然知ってしまったことにした方がいい」
「セレスティーナについてはレイディンの方が詳しい。そうするよ」
レイディンとジスは打ち合わせをした。
そして、翌日。
朝食のあと、恒例の散歩に行くといってセレスティーナは家を出た。
今日はついに魔物討伐ですわ!
ワームを氷漬けにしたことで、セレスティーナの自信はより強くなっていた。
領地でも魔物討伐をした経験があるが、魔境の魔物はそれ以上に強いと思っていた。
しかし、魔境も広い。魔境全土に強い魔物がいるわけではなく、弱い魔物もいる。
ジスは飛竜をペットにするほど強く、いざとなれば転移魔法で逃げることも可能。
大丈夫だろうと思いながら、セレスティーナはヴィラージュ城の屋根の上へ来た。
「今日もいい天気ですわね!」
領都の中心にあるヴィラージュ城は領都で最も高い建物でもある。
屋根の上からの眺めはとても気持ちが良かった。
「セレスティーナ」
「ジス!」
尖塔の影からあらわれたジスを見て、セレスティーナは満面の笑みを浮かべた。
「おはようですわ! 今日はどこに行きますの?」
「どこに行こうかな?」
「魔物を倒しに行くのでしょう? 私の実力を証明してみせますわ!」
ジスは答えない。
じっとセレスティーナを見つめていた。
「どうしましたの?」
「魔物を倒しに行くのは難しいかもしれないよ?」
「どうしてですの?」
ジスは視線を変えた。
セレスティーナはその先を追う。
そして、顔をしかめた。
「朝からデートなんて、セレスティーナらしくない。でも、魔物討伐だったらおかしくない。むしろ、セレスティーナらしいね?」
宙に浮かぶレイディンがにっこりと微笑んだ。
「つけていましたの?」
「毎日散歩しているよね? どこに行くのか気になった」
「最悪ですわ!」
セレスティーナは舌打ちをした。




