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17 具材いろいろ


 ニンウィーと弟のレンウィー、その両親がお礼を再度伝えることも兼ねて領都にやってきた。


「息子を守ってくれてありがとう」

「ありがとうございました」

「レンウィーもちゃんと言うんだぞ」

「ありがとう」


 キティと同じぐらいのレンウィーは恥ずかしそうにお礼を伝えた。


「元の姿に戻れて良かった」


 早速、菜園の側に建てた家の方にアーネストは一家を案内した。


「見た目は人間が住む普通の家になっている。だが、地下室がたくさんある」


 人間にとって地下室は倉庫や貯蔵庫だが、ウサギ族にとっては居住空間ということで、広めに作ったことをアーネストは伝えた。


「どうだろうか?」

「信じられないほど素晴らしい家だ!」

「壁が土でも石でもないなんて!」

「村の家より立派だ」

「ここ、好き」


 アーネストが立てたウサギ族用の家は大好評だった。


 細かい部分は、少しずつ意見を聞きながら改造していくことになった。


「このような家を多く作る。ここに住んでもらい、菜園を手伝ってくれると嬉しい。報酬は菜園で採れた収穫物だ。多くのウサギ族が協力してくれるほど、収穫量も多くなる。取り分も増える。できる限り任せたい。手が空いた人間は小麦畑の方で作業をしたいと思っている」

「族長に聞いてみる」

「ここに住んでみたいわ」

「家の周囲に柵があるとより安心できる」

「わかった。住宅地を囲むように柵を作る」


 何度かの視察や話し合いの結果、興味を持ったウサギ族の一部が移住して、菜園の管理を手伝うことになった。


「アーネスト様、そろそろ貨幣制度をしっかりと整えた方がいいんじゃないですか?」


 ミントはシチューを作りながらそう言った。


「いろんな種族が仲良く住める場所にするのはいいですけれど、価値観が違います。物々交換ばかりだと、トラブルが酷くなりますよ」

「何かあったのだろうか?」


 アーネストは毎日のように森へ行っている。


 食事や弁当についてはミントに任せているため、買い物をすることがほとんどない。


 領都の様子をしっかりと把握しているとは言えない部分があった。


「食材を手に入れに行くと、小さなことですけれど、問題が出ています」


 アーネストが決めた一度貨幣価値に換算して等価交換するのはいい。


 しかし、その元になっているのは個数であって、品質ではない。


 全ての食材は日数が経つほど痛む。傷がついているものもある。


 そのようなものでも一個として認識してしまうと、綺麗なもの、新鮮なものとの差がつかなくなる。


 当然、人々は綺麗なものや新鮮なものを欲しがるため、それがトラブルのもとになっていることをミントは説明した。


「さまざまな部分を総合的に判断して交換するには、貨幣による代理交換を普及させた方がいいと思いますよ」

「なるほど」


 ミントの意見はもっともだとアーネストは思った。


「このことを王都に報告しても、返事だけでもかなりかかってしまうだろう。領貨を作るか」


 領主はその領地だけで通用する領貨を作れる。


 これは王国貨幣の価値が高過ぎて、物価が安い地方の価値を正しく反映した経済活動や貨幣交換が行えないのを防ぐためにある。


 ヴィラージュ領は最も王都から離れており、通常の経済圏に含まれてはいない地域といっても過言ではない。


 王国貨幣の流通自体が少なく、その価値も高すぎる。


 王国貨幣を運んでも、より下の単位がなければ物々交換がなくならない。


「だが、どうやって作ればいいのか。材料も必要だ。偽造を防ぐための工夫や技術もいる」

「ドワーフに協力してもらったら?」


 そう言ったのはニンジンをもらいに来ていたニンウィーだった。


「俺の武器もドワーフに作ってもらった。切れ味抜群だ。金属加工の技術がすごい」

「エルフも優れている」


 張り合うようにそう言ったのはエアリス。


「錬金術を使えば、偽造しにくい」

「同じものを大量に作れるのか?」


 エアリスは無言。


「特別過ぎて、作りにくそうだ」


 そう言ったのはリオン。


 椅子に座ってだらだらしているニンウィーやエアリスと違い、てきぱきとミントの手伝いをしていた。


「にゃあにゃあ」


 ミントにすりすりして甘えるキティは味見をねだっていた。


「味見はまだですよ」


 鍋の底が焦げないように、ミントはしっかりとシチューをかき混ぜていた。


「でも、まあ、人間以外は歯ごたえが残っている方が好きそうですよね。これでいいとしますか」


 ミントは完成を宣言した。


「味見したい」

「俺も!」

「にゃあにゃあ!」


 子どもたちは皿を持ち、ミントに差し出した。


「ちゃんとふぅふぅして冷まさないとダメですよ?」

「わかっている。肉がいい」

「ニンジン!」

「バタータ!」

「はいはい。見事にリクエストが違いますね」


 ミントは笑いながらそれぞれの好物を味見として皿に入れた。


「野菜」


 エアリスは座ったまま、魔力で皿を運んだ。


「本当にエルフというか、エアリスは面倒くさがりです」


 呆れつつ、ミントはエアリスの皿にたっぷりと野菜を入れた。


「味見じゃないですよ。それは」

「わかった」

「アーネスト様は何がいいですか?」


 洗い物をしてくれているアーネストにミントは声をかけた。


「スープを多めで頼む。リオン、皆で食べる前にニンジンとシチューを届けてくれるか?」


 ニンウィーの家族への差し入れだった。


「わかった。加速魔法がほしい」

「ちょっと待ってください! 別の鍋に入れますから!」

「パンもいる。エアリス、籠に取り分けてくれないか?」

「面倒だな」


 エアリスはそう言うと、魔力を使って小さな籠にパンを三つ放り込んだ。


「ニンジンもバケツから籠に移す?」

「籠には鍋をいれるんです。熱いですからね」


 ミントはシチューを取り分けた小鍋を大きな籠の中に入れた。


「パンもこっちの籠です。ニンジンはバケツのまま持って行ってください。でも、鍋と蓋とバケツと籠は早く返してほしいと伝えてください。あげるのは食べるものだけで、他のものはあげません。きちんと伝えないと、全部あげたと思われてしまうので、誤解されないよう注意ですよ!」

「わかった」

「ミントは細かいな」


 アーネストはそう思ったが、


「当然です。そういうのも種族間で考え方が違います。全部もらった、容器はあげないとかいって喧嘩してますから」

「そうなのか」

「人間って意外と細かい種族で空気が読めます。他の種族は大雑把な気がします。興味がないことは全然気にしないというか」

「人間は空気が読めるのか?」


 エアリスが尋ねた。


「雰囲気のことです。相手の気持ちへの配慮というか」

「本物の空気のことではないのか」

「本物の空気を読むのはエルフの方ですよね?」

「加速魔法」

 

 アーネストはリオンに加速魔法をかけた。


 ビュンッと風を切るような音とドアが開いて閉まる音がした。


「リオンならそれほど時間がかからない。食卓を綺麗にして配膳しよう。キティはパン係、エアリスはシチューの皿、ニンウィーも手伝ってくれると助かる」

「わかった。ニンジンを多くしてよ」

「にゃあ!」

「バタータですよね。エアリスはもうよそったし、リオンはお肉、アーネスト様はスープをたっぷり。私は栄養重視なのでバランスよく入れます」


 ミントはそれぞれの好みに合わせてシチューを盛りつけた。



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