16 ウサギ族がやってきた
翌日の昼頃。
領都に何十人もの白ウサギ族が来た。
武装しているだけでなく、警戒しているのが明らかな様子だった。
「子どもを返せ!」
「魔ウサギの独占をするな!」
「あまりにも非道だ!」
子どもの変換だけでなく、アーネストが作った魔ウサギ飼育場への文句も多数含まれていた。
「もしかして、魔ウサギを食べるのは、ウサギ族にとって許せないことなのだろうか?」
保護した白ウサギの子どもを抱いたアーネストは空中に浮かびながら尋ねた。
「いや。それは問題ない。エルフも狩っている」
同じく浮遊しているエアリスが答えた。
「ウサギのような耳があるだけで、人型だけに雑食だ。肉も魚も食べなくはないが、主食はエルフと同じ植物だ。えり好みするほど、魔境の食料事情は厳しくなる」
「だが、文句を言っている。好んで食べるわけではないのだろう?」
「関係ない。獲物を独占していることへの文句だ」
エルフたちも人間が捕まえた魔ウサギをことごとく草原地帯にある檻に入れ、いつでも食べることができる食料として確保していると思っていた。
捕縛した魔ウサギを繁殖させ、数を増やしているとは考えていなかった。
「説明すればいいだろう」
「そうする」
アーネストはウサギ族に会い、まずは保護した白ウサギを渡した。
「ウサギ族の子どもで間違いないだろうか? ただの白ウサギなのか見分けがつきにくかった」
魔ウサギとは思えない魔力を感じたため、ウサギ族の子どもではないかと思ったことをアーネストが伝えた。
「間違いない!」
白ウサギを受け取った少年――ニンウィーが答えた。
「俺の弟だ!」
ニンウィーは子守りを任されていたが、つまらないので森へ遊びに行った。
弟も連れていったが、魔物に遭遇したために変身して逃げることにした。
てっきり自分の後ろをついてきていると思ったが、弟の姿はなかった。
魔物を警戒しながら付近を捜索、看板を見つけ、村に知らせに戻ったことがわかった。
「まだ幼いせいで、うまく戻れない時がある」
「そうか。保護して良かった。危険な魔物が出ると聞いていた辺りで発見した。こちらの言葉はわかるようで、迷っているのか聞くと頷いてくれた」
「弟を守ってくれて感謝する」
ニンウィーはそう言ったが、その視線はアーネストを睨んだままだった。
「でも、魔ウサギの独占はよくない。森に住む魔ウサギが少なくなると、獲物が少なくなる。強い魔物が空腹になってより広い範囲をうろつくようになる」
「そのことだが、誤解されていると思う」
アーネストはすでに森にいる魔ウサギを捕獲することはやめており、以前捕まえた魔ウサギを繁殖させて数を増やしていることを話した。
そして、このことは森の恵みを不当に奪うことを禁じているエルフたちも知っており、それなら問題ないとしていることも伝えた。
「フォレスト・エルフの一員として、アーネストが真実を述べていることを保証する」
側にいたエアリスが証言した。
「そうか。フォレスト・エルフが認めているのであれば、本当のようだ」
森の恵みを奪うことについて最も厳しいのはエルフ。
獣人たちもそのせいで困ることがあった。
人間たちは森の恵みにたよらず、別の方法で解決していることにニンウィーは感心した。
「確かに捕まえた個体を使って繁殖させれば、森の恵みに頼らなくても良さそうだ」
「ウサギ族もそうしたらどうだ?」
「難しい」
ウサギ族は森の中に住んでいる。
他の魔物を捕まえて放牧するためには広い場所が必要だが、それを確保するのが難しかった。
「掘ればいいだけだろう?」
エアリスが指摘した。
「かなりの労力がいる。崩れないように補強するのも大変だ。エサになる草も多く取りにいかなければならない」
アーネストたちは草原に住んでいる。
エサになる草は生え放題。成長も早いため、どんどん食べてほしいほど。
だからこそ、魔ウサギの放牧が容易。
草が少ない森の中で、多くの魔ウサギを飼育するのは難しかった。
「魔ウサギのエサを取りにいくなら、魔ウサギを探しに行った方がいい」
「狩りは大変ではないか?」
「そうでもない」
ウサギ族はウサギの姿になる。
すると、魔ウサギは仲間だと思い、逃げない。
そのまま魔ウサギの跡をつけて住処を突き止め、家族まるごと捕まえる方法を取っていることがわかった。
「魔ウサギは多産だ。一匹見つけて住処を発見できれば、かなりの数が捕獲できる」
「芋づる式というやつか」
「罠も使う」
ウサギ族はエルフのように弓矢や魔法が得意ではない。
罠を使った狩猟を得意としていた。
「逃げるのは得意だけどな」
ウサギ族は強靭な足を持っている。走ることや跳躍することについては相当な自信があった。
「そうか。まあ、気を付けて帰ってほしい。白ウサギを見つけたら絶対に命を奪わないようヴィラージュの者には伝えた。よほどの能力がなければ、あの辺りまではいかない。私もエアリスに連れていかれて初めて行った場所だった」
「じゃあ、テリトリーを犯す心配はなさそうだな」
「そうだと思う。ただ、あの辺りに村があると思うのだが、正直、安全に暮らせているのだろうか?」
「安全なわけがない。魔物が多くいる地域だけに、どこに住んでも危険はある」
「もしよければ、移住しないか?」
アーネストはウサギ族とも仲良くできればと思っていた。
「最近、ヴィラージュは自給自足体制をより強めるために農地の拡大をしている。人手が足りない」
ヴィラージュ領は魔境と呼ばれる地域にあるだけに、人間は来たがらない。
猫族は魔ウサギの管理、フォレスト・エルフは果樹園の管理を手伝ってくれているが、農園作業については人間だけで行っている。
これ以上菜園を拡大しようとしても、人手が足りなくて無理だというのが現状だった。
「ウサギ族は小さな菜園を作っていると聞いた。一緒に大きな菜園を作るのはどうだろうか?」
「どんなものを作っているんだ?」
「色々ある。良かったら、見学していかないか?」
「わかった」
急遽、ウサギ族が菜園視察をすることになった。
「すごい」
菜園を見学したウサギ族は予想以上に広大であることに驚いていた。
「これほど広いのに、もっと広くするのか?」
「エルフも野菜をほしがる。魚と交換することになったせいで思った以上に減っている」
エルフは魚を必要としない。野菜を得るためにどんどん持ってくる。
そのせいで魚の供給が増えたが、人間に対する野菜の供給が減ってしまっていた。
「トマトとニンジンがかなりの人気で、もっと生産を増やしたい」
果実のように瑞々しいトマト、香草のような香りと歯ごたえがあるニンジンはエルフに大人気。
そのまま食べれる手軽さも、面倒くさがりのエルフにあっていた。
「確かにあれは美味しい」
ウサギ族は生育が早い葉野菜を多く栽培しているが、本当は生育が遅いニンジンを栽培したかった。
だが、ニンジンを育てている間に食料不足になるのは困る。
しぶしぶニンジンの栽培は少量に抑えていた。
「俺たちが栽培しているニンジンより美味いし大きい」
「森は栄養を木々が吸い上げてしまう。菜園を作るには不向きではないか?」
「実はそうだ」
何度も農産物を取れば土地がやせてしまう。それを補うための腐葉土作り、落ち葉拾いも手間がかかる。
それを思えば、肥沃な草原に菜園を作った方が効率的に多くの収穫物を育てることができるのは明らかだった。
しかし、ウサギ族は草原に住みたくない。
暑いからだった。
「暑いのが苦手なら、ツリーハウスに住むのはどうだろうか?」
太い木の陰になっており、高所だけに風が通る。
エルフはツリーハウスを気に入っていた。
「嫌だ」
「無理だろう。ウサギ族は穴に住む。洞穴というべきかもしれないが」
「洞窟ということだろうか?」
「洞窟でも穴でもいい。日陰がいい」
そして、閉鎖的な場所がいい。外敵から身を守れると感じて落ち着く習性があった。
草原は広いからこそ、落ち着かない。
「……地下室ならいいということだろうか?」
「城の地下なら気に入るかもしれないな」
「あそこは倉庫だ。いざという時は緊急避難場所になる。ウサギ族の住居にはできない」
アーネストは考えた。
「共同で菜園を管理するための家を試しに作ってみる。また今度、見学に来てくれないだろうか?」
「わかった」
再訪の予定が決まった。




