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~ミストランテの独白02~

~ミストランテの独白02~


 ドカーケは辺境と思っていたが、街はどこも栄えておるのう。


「レイフォンス王子はもう少しで到着されますよ」


 侍女にそう言われたが、そわそわしっぱなしじゃ。観光するならおすすめと言われた場所に連れて行ってもらったのだが、そこは温泉街という所だったのだ。


 言われるままに最高級のホテルに連れて行ってもらったのはよかった。だが、温泉というものは男女別々に入るものだ。それはいい。それも理解している。だからまずは町並みを探索し、その地ならではの郷土料理を食べようと提案をしたのだ。だが、これはおかしいのではないか?


「ミストランテ。帯が曲がっているな。治してあげますよ」


 私は浴衣というものを着ている。こんな薄布しか着ていないことに不安を感じるが、黄色をベースに華やかな花の模様がちりばめられているこの服がかわいいから着たのだ。着付けをしてくれた侍女は全身を隠している変わった服装をしたものじゃった。この地方に住むマンリケ族というものらしい。なんでも肌が弱く太陽の光を浴びることができぬらしい。


 ここまでなら問題なかった。問題は今目の前にいる人物じゃ。


「あ、ありがとう、ご、ございます」


 なれない感謝の言葉を口に出した。


「気にしなくてよい。公務ではないのだ。お忍びだから」


 目の前にいるのはカグーイ王妃だ。なぜこの場所にいる。そして、当たり前のようにその後ろにはサラがいる。浴衣を着ているがそのポジションは護衛なのがわかる。


「レイフォンス王子が到着されました」


 侍女がそう言い、木でできた横にスライドする頼りない扉のようなものを開けた。そこには金髪碧眼、きれいな顔立ちの男性がいた。いつもと違ってこの浴衣というものはいいと思った。


「お待たせいたしました。母上、ミストランテ」


 レイフォンスの笑顔は反則だ。これで優秀なのだから本国の男子どもにはもっと頑張ってもらわないといけない。


「その浴衣、似合っていますね」

「「ありがとう」」


 声がダブった。ってか、レイフォンス。今のは私に言ったんだよな。断じてこの横になぜかいるカグーイ王妃にではないだろうな。


「もちろん、二人ともですよ」


 そんな玉虫色の返答なんて求めておらぬ。


「そうじゃろ。そうじゃろう。この浴衣というものはよいのう。涼しいしな。それで、まず温泉街を探索したいとのことじゃったな。案内してあげようではないか」


 いや、結構です。というか、私はレイフォンスと語らいたいのです。邪魔しないでくれません?


「母上。公務はよろしいのですか?」

「ああ、安心するがよい。半日だけ都合をつけておる」


 よし。カグーイは夜いないということだな。なら、キールが言っておった花火大会というものに参加できるな。


「今日の夜という事はあれですか?」


 ん?あれって何だ?何も知らぬのだが。


「レイリアの誕生会だな。レイは来るのか?」


 あの氷のレイリアの誕生日会だと。知らなかった。何か贈らないといけないのではないか?慌てているとレイフォンスがこう言ってきた。


「僕はいけないから、ミストランテと連名でプレゼントだけ用意しているよ。もう届いているころだと思うから感想を教えてくれないかな」


 こういう私の知らない所でフォローをしているのがレイフォンスだ。この無自覚な行動でどれだけ学園の女子が勘違いしそうになったことか。まあ、私の威厳で皆さん諦めてくれたようですけれどね。おほほほ。


「まあ、そうね。検閲済みだから中身見たけれど、及第点なプレゼントね。次はでもミストランテに選ばせてちょうだいね」


 カグーイは明らかに私を挑発してきている。


「ええ、選ばせていただきますわ」


 といっても、レイリアの好みなんて知りませんけれどね。困ったことです。スウにでも聞いてみましょうかしら。あの子なら何でも知っているし、何でもできますからね。得体は知れませんが。



 城下町とはまた違う趣の街並みだ。なぜかこの町は石やレンガで作られておらず、木で作られている建物が多いのだ。今まで木で作られた家屋などみすぼらしいと思っていたが、風情があるのだ。


 屋根に使われているのは曲がった灰色のレンガのようなものだ。連なり重なっているこの屋根は遠くから見ると不思議と芸術的でもあった。


「こっちにも宿場や温泉があるんだね」


 レイフォンスがそう話す。浴衣には下駄というものが合うと言われ出されたが靴と違い不安定だ。だが、歩くとかぽかぽと音がなる。だが、いやではないのだ。まったく違う国に来た気分になる。


「本当にキールの頭の中はどうなっているんだろうのう?」


 私の後ろを歩くカグーイにそう言われた。気を使ってくれているのかわからないが、一歩後ろで歩いてくれているのだ。


「この街もキールが考えたんですか?」


「コンセプトから小物に至るまで指示をしたと聞いておる。だが、この街に住むもの皆この文化を気に入ったといっておる。不思議な子じゃ」


 ドカーケの夏は王都やユーラシア王国に比べると暑い。だが、この場所はそれをかんじさせないが、それでも暑いのには変わりない。そこで竹で作られた扇子をもらったのだ。


 キールとしては納得行かなったらしいが、このすべて竹でできた扇子は開くと模様が描かれている。手製品のようで、開くと一つの絵柄がわかるものもあれば、一つひとつに同一の模様になるように削られているものもある。


「これなんてどれだけ精密な作業なんだろうって思ってしまうね」


 レイフォンスが扇子を開いて見せてくれた。レイフォンスの扇子の模様はロンベルト王家の紋章が刻まれているのだ。鳳凰が描かれているのだがこれまた細かいのだ。


「どうやらこういう工芸品を売っている店みたいだね。ちょっと覗いていこうか」


 レイフォンスがそう言ったので一つの店に入った。



 店の中は意外と広く、そして色んなものが置いてあった。その中で目に留まったのはガラス細工のものだ。フラスコのような形だけれど、一体何につかうのかわからない。


 そう思っていたら店員が近寄ってきて教えてくれた。


「これはビードロって言います。といっても、私たちもよくわかっていないんですよね。キールお嬢様がこういうの作りたいといったものを作っているだけですから」


 意味不明だ。だが、きれいだ。後は万華鏡というものも見せてもらった。万華鏡は筒を動かすとみているものが変わるのだ。


「ねえ、あなたは本当にこのままでいいと思っているの?」


 声が聞こえた気がした。アンネの声だ。どこからだ。周囲を見渡す。だが、アンネはいない。というか、誰もいなくなっている。どういうことだ。さっきまで人がはずなのに。


 レイフォンスもカグーイも従者も、店員もいなくなっている。


「ねえ、あなたはユーラシア王国の王女よね。ロンベルト王国の属国と言われている現状をどう思っているのかしら?」


 黒い影が目の前に現れる。口だけが赤く三日月のように笑っている。声はアンネのものだ。精神攻撃か。だが、鑑定を使ってもアンネを見つけることができない。目の前にいるのは黒い影でしかない。どういうことだ?


「目をそらさないの」


 影に頬を掴まれた。無理やり影と対峙させられる。


「あなただって気が付いているはずでしょう。プライドだけ無駄に高いミストランテらしからぬ行動を取っていると」


 勝てるはずないじゃない。ドカーケの恐ろしさを本国のものは知らないのだ。英雄と呼ばれたランベルだけが特別だと思っていた。だが、違う。このドカーケには化け物しかいないのだ。


「ならドカーケを味方につければいいじゃない」


 誰もがそう願った。行動した。だが、ダメだった。英雄がダメならその子を、孫をと狙った。だが、どれもこれも化け物でしかない。説得できる材料すらない。


「どうして正攻法で行こうとする。無理やりにでも動かせばいいだけ。人を動かす方法などいくらでもあるでしょ。そういうの得意じゃない?」


 頭の中にイメージが広がる。街の住人を人質にする。横にいるカグーイを人質にする。どれもうまくいくはずがない。街の住民というが、この街にいるものたちも普通にレベルが高い。カグーイにはいつもガラとサラが付いている。この二人は転移魔法が使える。


「これからも奴隷でいたいの?」


 違う。それに我らの思いは伝わっている。


「どうして変わると信じているの?相手が嘘をついていると思わないの?それは信じたいだけでしょ」


 信じたいだけ。そうかもしれない。だが、転移することでなんなく殺せる相手が嘘までついて平和の約束をするだろうか?


「それって生きながら死んでいるだけじゃないの?」


 違う。私は無駄な争いはしない。勝てない戦いはしない。戦いで散っていくのは弱いものからだ。私はユーラシア王国の王女。だからこそ、民を守る義務がある。


「でも、民は違う事を願っているかもね。あなた民の声を聴いたことがあるの?」


 イメージが広がる。


「また、女性ばかり連れていかれるんだって」

「俺らは結婚相手すら見つけられないってのにな」

「こうやって国が衰退していくことに上は何を考えているんだろうな?」

「何も考えてないんじゃないか」

「まあ、ロンベルト王国に逆らえるわけないし」

「この国に産まれたことが失敗なんだよ」


 辞めて。辞めるのだ。こんなのは幻だ。我らは多くの民を守るために苦渋の飲んでおるのだ。お主らのために頑張っておるのじゃ。


「でも、それって伝わらなきゃ何もしていないのと同じじゃないの?」


 だったら伝えればいいだけじゃ。


「誰に?何を?もうわかっているんでしょ。らしくないことをしているって」


 なんだか黒くドロッとしたものが体の中に入ってこようとしている。そうだ、こういう時にお守りをキールからもらっていたのだ。それはどこだ。持っていたはず。浴衣の懐に手を入れる。お守りを手にした瞬間に私ははじき出された。


「大丈夫?」


 私は冷汗でびっしょりになっていた。目の前にレイフォンスがいる。


「い、一体何があったのじゃ?」


 手にもっていたはずのお守りがボロボロになっていた。私はその日花火を見ることができなかった。あの後すぐに倒れてしまったからだ。


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