~モカグリーンの独白02~
~モカグリーンの独白02~
ドカーケには結構な頻度で来ている。来るたびに街の情景が変わる不思議な所だ。私はメリドとマナナンガルと3人で『ジンジャ』と呼ばれるところにやってきた。
メリドはマナナンガルしか見ていない。私はそれでもいい。このままメリドの近くで過ごせるのなら。
「それでいいの?」
アンネは私に何度かそう言ってきた。こいつは悪魔だ。悪女だ。マナナンガルは不死ゆえに魔女と言われてきているが、話せば癖はあるが普通の恋する女の子だ。
思う事はいっぱいある。けれど、私にはメリドとマナナンガルの関係をどうにかできるとは思えない。
「マナナンガルさえいなくなればメリドはあなたのものになるのに?」
悪魔のささやきだ。だが、これはキールからも教わっている。その未来がどうなるかということを。
マナナンガルをどうにかする方法はある。解呪をすればいいのだ。解呪ができるのはおそらく私とメリドくらいだろう。だからこそ、私がマナナンガルを『解呪』しなければ問題ない。だが、キールはまだ何かが起きると考えている。
「気を付けてほしいの。特に異変が起きたらすぐに知らせてほしい」
実際に『異変』についても教わったが、意味がわからなかった。もし、そんなことができてしまうのならそれはもう魔法でもなんでもない。それは『神の御業』だ。
その異変が起きるには条件があるという。そして、その異変の発動には魔法の残滓がどこかにあるという。それも、注意して意識しないと発見できないくらいの微量なものだ。
その魔力的な異変に気が付けるのはメリドと私、後はマナナンガルくらいだという。手分けして周囲を探索した方がいいのではと言われたが、場所はある程度決まっていると言われた。
だから、それまでは普通にドカーケ内で楽しむようにと言われたが、これは違うのではないか?
「ふむ、ここが手水というものだ。ここで手を洗い、穢れを払うがいい」
木で作られた手桶で水を汲み、手を流す。作法を教わった。
「マナ。昔はこういう仕来りがあったのか?そんな文献なんか見たことないぞ」
メリドが手を洗いながらそう言っている。手を洗い終わったら私に手桶を渡してくれた。私が持っているカバンはそっとメリドが持ってくれる。こういうちょっとした配慮がうれしいのだ。
「いや、ないぞ。キールが言うから行っておるのじゃ。それにここにいる巫女の服装もキールの指定じゃ」
言われたら白い布でできた服に赤い袴をはいている女性が何人かいた。境内に上がり、神像の前で頭を下げる。作法は事前に教わっている。
「この神像はよくできておるじゃろう。妾が作ったのじゃ。魔力をかなり込めて作ったから神々しいじゃろ」
神像はほのかに光っていた。というか、どれだけの魔力を込めればあんな感じになるのだろう。
「文献で見たことがある。この神は和魂と言われる俺たちに力を貸してくれた神だよな」
メリドはあの学園にある図書館の書物をかなり読んでいる。特に古き時代の魔法を解析するために、古い時代の事の書籍は確実に読んでいるのだ。もちろん、私も読んでいる。
「そうじゃ。そうじゃ。おぬしらは神をあがめることをせぬ。信仰心が薄れてしまっては神も力を失ってしまうのじゃ。だから、こうやって神を祀り、祈りを捧げ、浄銭することがこの世界を救うのじゃよ。どれ、後はお守りを購入し、おみくじを引こうではないか」
お守りって何かと思ったら小さな布で作られた小物だった。
「中には儂が魔力を込めて作った小さな札が入っておる。といっても効果は抑え目じゃがの。って、おい。そんなすべて買い占めは許さぬぞ」
メリドはお守りを買い占めできなくて残念がっていた。私は祝福系の魔法は苦手だからな。呪いならできるけれど、呪われるアイテムなんて欲しくないだろうし。
「そうじゃ。モカグリーンよ。ちょっとお願いがあるのじゃ」
マナナンガルにそう言われてびっくりした。
「え?私ですか?」
メリドも私を見て笑っている。
「ちょっとキールにプレゼントをしてやりたくてな。だから、3人で魔力を込めて一つキールのための武器を作ってやろうと思っておるのじゃ」
そう言えば、あと数か月もすれば英雄ランベル様とともに北でモンスター討伐に参加すると言っていた。この前、風の精霊の加護を受けたと言っていた。
「それで、これですか?」
「うむ、この神社にある破魔矢というものらしいのじゃ。元々魔力を込めておったのじゃが、この弓にこの魔方陣を組み込みたいのじゃよ」
魔方陣を見てここまで精密な魔方陣を初めて見た。
「弓が自動的に戻ってくる弓矢じゃ。そして、この矢は折れることもない。どうじゃ。すばらしいじゃろ」
「いえ、これはお嬢様には不要です」
振り返るとそこにはキールの所にいるメイドがいた。いつの間に。というか、なぜいつも背後を取る。
「おお、誰かと思えばキールお嬢様の所のユーフィリアではないか。どうしてこの武器がいらぬというのじゃ?」
「すでにキールお嬢様には風の精霊の加護があります。あのぶっ壊れ加護のおかげで武器を持つ必要がありません。空も飛べるようになりましたし、風魔法で攻撃させたら山がなくなるくらいの威力です。だから絶対に武器は不要です。けれど、この魔方陣は面白いですね。量産可能ですか?」
そう言えば、ジャネットも言っていたな。「あれはもう人ではない。逆らう事は死を意味する」と。本国がロンベルト王国にこれ以上ちょっかい出さないようお願いしないといけない。あれは、地図から国がなくなるレベルだ。
「ふむ。弓矢があれば魔力を使わずに済むかと思ったのじゃがのう?」
マナナンガルも考えていたみたいだ。だが、ユーフィリアが言う。
「ええ、私も考えました。けれど、風の精霊魔法をまとった弓矢を想像してみてください」
想像したら恐怖しかなかった。
「うむ、辞めようかのう。ちなみに実験済みか?」
「ええ、北の要所で試し打ちしてもらいました。二度と立ち会いたくないです」
あの鉄壁、完璧メイドがそういうのだ。避けた方がいいだろう。キールは絶壁だが。
「何かモカグリーンから邪まな感情を察知しました。言いたいことがあるなら拳で語り合いますか?」
冷汗が止まらない。そう言えばキールが魔王から逃げられないと言っていたな。これが魔王か。私の記憶はここで途切れた。
「大丈夫か?」
メリドのアップで目が覚めた。これは夢だ。幸せな夢だ。メリドが私の顔を見て話しをしているのだ。ありえない。
「おい、目が醒めたのならとっとと起きろ。次があるのじゃからな」
マナナンガルの声で現実だと分かった。そう、今夜は夏祭りが行われるのだ。なんでも、浴衣というものを着るのが正装らしい。
「ふむ。キールお嬢様もよくわからぬが、広場に櫓を立てて、その上に神像を祀る。皆が神に祈りを捧げ、日々に感謝をしながらおいしいものを食べる。なんとも愉快なことを考えるものじゃわい」
マナナンガルはすでに赤がベースで花柄のかわいい浴衣を着ていた。メリドは紺の浴衣に水色の帯が目立っていた。そして、私は気絶していたはずなのにいつの間にか浴衣を着ていた。選んだオレンジ色に波紋が広がったようなちょっとおしゃれな浴衣だ。
「じゃあ、行きますか」
私とマナナンガルはメリドの手をお互い取った。手をつなぐ。それだけのことだが、幸せを感じた。そして手をつないでいるからわかる。メリドはマナナンガルと手をつなぐためにものすごく繊細な魔法を使っている。
「やってみたいのか?」
「ええ、私もマナナンガルと手をつないでみたい」
そう、この時は本当に幸せだったのだ。だが、知っている幸せはずっと続かないのだ。
特にこんな夢のような幸せは。
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