~スティーブを説得~
~スティーブを説得~
「これが『ケッサンショ』でこれが『フクシキボキ』ですか。ふむ」
スティーブは今私が作ったドカーケ3年分の決算書と12か月×3年分の収支がわかる複式簿記の書類を見ている。
「よくもまあこんなものを作りましたね」
そう言ってスティーブは書類を机の上に置く。
「これで収支がわかるでしょう。これと同じものをドカーケ領内の商会と商店にお願いしたいのよ」
今までのざっくりした数値では収支がわかりにくい。そして、もう一つ信用取引についてだ。こちらは売掛金として帳簿に掲載する。そして、もう一つだ。
「なるほど。こうやって見るとわかりますね」
この世界は『剣と魔法のストーレンラブ』だ。貴族や商会との交渉で珍しいものを献上する。これを交際接待費とするからわからなかったのだ。だがこれは投資である。
投資をしたリターンがいくらなのかを掲載する。確かにドカーケ領は名産がなく、まわりにお願いをすることで成り立っている部分はある。
だが、収支が悪いのは投資しても回収がうまくいっていないからだ。それにもう一つ。回収遅延も多い。
「まあ、ドカーケ領には他領に比べて名産もなければ、強い産業もありません。これはわかっていたことではありますが、確かにこの方法は一目でわかる。ふむ」
「そうよ。まずはこの書類の書き方を徹底するのと、ドカーケ領の商会に書類を統一したいの。でも、これには教育が必要。すでにこの書類の作り方はアイルにも教えてあるわ」
まあ、私もなんちゃって簿記だけれど、それでも今までのなんとなくの会計処理と比べると明らかに見える化が出来ている。
「だが、商会が人を出すでしょうか?確かにこの帳簿は魅力的ですが、それだけでは商人はこんな僻地にやってきません。今いる2つの商会から広めてもらうくらいですかね」
スティーブはそう言う。
「はじめは少なくてもいいので教えていきたいです。それでドカーケ領にいる商会とのパイプを強くしていきたいのです。スティーブはどちらの商会が信用できますか?実はこの複式簿記だけではなく、もう一つ私は普及したいものがあります。それはこちらです」
だから私はもう一つのカードを切る。アイルを通じて鍛冶屋に作ってもらったものだ。
そう言って皆を館の外に連れ出す。そこには井戸がある。いつもは滑車式の井戸だ。というか、この世界で滑車式以外の井戸を見たことがない。
そこには、こういう転生ものでお馴染みの手押し式ポンプを設置している。
私はずっと不思議だった。この世界では魔法で水を産み出すことは出来る。けれど、それはある程度こつがいる。魔力量もいる。
例えば、攻撃魔法でウォーターガンはあるが、この魔法の水を生活用に使うことはできない。対象物に当たらなかった場合魔法で産み出したものは霧散する。
生活魔法というものはあるが、これで生み出せるのはコップ1杯の水を産み出すだけでも魔力を結構消費する。
授業で魔法とは等価交換と教わった。無から有を産み出すにはそれを循環させる魔力が必要なのだという。
攻撃魔法は一定の時間だけだが、生活魔法となると維持しないといけない。水なんかは特にそうだ。火をつけるなどだと瞬間でいいので楽だが、水、石などの鉱物、木などを無から産み出し固定させるのはかなり魔力がかかる。
だから水は貴重で鉱物や木材も貴重なのだ。
まあ、なんとなくだがそう言う原理らしい。よくわからないけれどこれがゲームの『仕様』だと私は思うことに決めた。
実際にゲームでも井戸の水汲みイベントがある。しかもあるのは冬だ。
このイベントは腕力と体力が一定以上ないと達成できない。
イベント自体は体調を崩した生徒の変わりに行うというもので、イベント自体は難しくはないが、予定が詰まっているため、代わりに行える時間が限られている。
体力と腕力が足りないと、次のイベントに間に合わない。でも、この生徒の代わりに行ったという行動を見ていた人が主人公の周囲からの好感度を上げるのだ。
こういう好感度上げイベントがやたらとある。ちなみに、次のイベントに間に合うように廊下を走るとマイナスの評価になる。
誰も見ていないと思っていても誰かが見ていて、きちんと返ってくる。けれど、限られた時間内に色んなことを行わないといけない。
実際、『剣と魔法のストーレンラブ』にあるイベントは1回のプレーではすべてのイベントをこなすことはできない。
このイベントをする代わりにこちらのイベントはできないという風になっているし、誰かの好感度を上げるかわりに誰かの好感度が下がるというイベントもある。
話しが脱線してしまった。そうそう手押し式ポンプだ。
私がCSR活動をしている時に結構な頻度で手押しポンプにはであったし、修理をすることも使用したこともある。
「これはどう使うのでしょうか?」
スティーブが不思議そうに見ている。スウに実演をしてもらい、その後にスティーブにもしてもらう。
「これは便利ですね。この『手押し式ポンプ』をお嬢様はどうするつもりですか?」
私は決めていた。手押し式ポンプの仕組み自体は難しくない。ちょっとこのタイプは井戸の深さに制限があるが、大体の井戸だと対応ができてしまう。
「この『手押し式ポンプ』の図面とノウハウを商会に売ります。ただし、条件としてこの手押し式ポンプはドカーケ領の普及の次にカルディア領で広めてもらいたいです。新しいものは権力がある所から発信してもらう方がいいでしょう」
カルディア領はロンベルト王国で一番の穀倉地帯でもあるが、絶対に敵にまわしてはいけない相手がいる。そう、レイリア・ルン・フォルデ・カルディアだ。
レイリアは悪役令嬢として、これから全作品で登場する。もう少ししたら『剣と魔法のストーレンラブ2』の世界がはじまる。
実はこのドカーケ領はなぜかこれから先の作品でもたまに出て来るのだ。
そして、レイリアもあわせてやってくる。その時に自領にないものがドカーケ領にあるのを見た時になんて思うかだ。
ある程度の信愛度があるのならば話しは違ってくる。レイリアのステータスを見るのを私が忘れてしまっていた。
やっちゃったね。
でも、身代わりになっていることから信愛度が「0」とは思えないが、そこまで高いとも思えない。
そして、この『剣と魔法のストーレンラブ』では信愛度が落ちる時は一気に落ちる時がある。信用を得難いが失いやすいというのが良くわかる。
だからこそ、この手押しポンプはレイリアがいるカルディア領から広まってもらわないと困る。
「そうなると依頼する商会は一つですね」
ドカーケ領にある商会は二つ。地元密着型の「ウルグ商会」そして、全国に店舗がある「レッドアイ商会」だ。
「このドカーケ領はウルグ商会に任せて、全国展開はレッドアイ商会にお願いしたいですが、可能でしょうか?それと、この図面の購入費用ですが、レッドアイ商会かウルグ商会に1000万リールでお願いします。そのお金でそう、ここにいるスウを借金奴隷から解放してください。来年にはスウもナッカと同じく学園に通えるよう手配をお願いします」
私がそう言うとアイルとスウがびっくりした表情をしていた。これは決めていたことだ。
「「「いいのですか?1000万リールですよ」」」
アイルとスウはわかる。だかどうしてスティーブもハモるのだろう?きょとんとしていたらスティーブがこう言ってきた。
「これはもっと値段を上げることができます。1000万リールでよろしいのですか?」
「ええ、そのかわりレッドアイ商会にはこれからお願いがあります。この複式簿記を広めることをしてもらうからです。そして、地元のウルグ商会には地元の鍛冶屋のみを使ってドカーケ領土内の井戸をこの手押しポンプに変えて行ってもらいます。ドカーケ領以外に販売許可を与えないでください。スティーブ。あなたなら私は出来ると信じています」
そうでないとレッドアイ商会に図面を売ることができない。まだ、この世界には特許という概念がないのだ。もうちょっと文明が進むと楽なのになぁ。
「わかりました。では商会と話しをつけてきましょう」
そう言ってスティーブは出て行った。
1週間後。
色々あったが2つの商会から承諾を得られた。そして、スウとナッカの婚約が決まったのであった。




