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~SS「七夕イベント」~

~SS「七夕イベント」~


「これは何ですか?」


 資料室でアイルとスウと打ち合わせをしている時にスウは見つけたものだ。ああ、私はこれにいい思い出はない。アイルはどうだったかな?


 『剣と魔法のストーレンラブ』の中だと結構人気イベントだからやっている人は多いはずだ。


 私はゲームの中だと結構楽しんだ記憶はある。ただ、それはあくまでゲームの中での話し。キールとしての記憶もある。とりあえず、どういうイベントなのかスウに話してみるか。


「これはね、七夕ってイベントの時に使う短冊なのよ」


 そう、願いが叶うというイベント。けれど、すべてのミッションをクリアして初めて成功するというものだ。


 キールも影絵だけれど一瞬出てくる。まあ、サブキャラだからね。ということで私は七夕の時を思い出した。


 七夕イベント7月7日中にしかできない季節限定のイベントだ。『剣と魔法のストーレンラブ』は、スマホ、PCで遊べるゲームだ。そして、イベントにはゲーム内で経過した時間にリアルの時間もクリアに関係している。結構やっかいなのだ。


 七夕イベントは20時までに3つのミッションをクリアしておかないといけない。けれど、時間が結構かかるイベントでもある。


 日付が変更してすぐに、ゲームを立ち上げる。ここでできるなら短冊をゲットしておかないといけない。短冊は色によってかなえてくれる内容がことなる。


 ピンクの短冊は親密度を上げてくれる。なぜか男性キャラ同士の親密度もあげてくれるので、一部の趣味嗜好のファンはかなり盛り上がっていた。


 カップリング論争は不毛です。だいたいルーファス王子が受けになることが多い。結構色んな組み合わせがあるが、私はこの論争に参加したことはない。


 緑がステータスアップ。黄色がお金、青がアイテム(防具)という感じなのだが、この短冊はランダムではない。手に入れる場所がそれぞれ異なるのだ。


 コアなファンは絶対にピンクの短冊を狙う。けれど、この短冊なんと数量限定なのだ。だから日付が変わったその時を狙う人が多い。


 人気がないのは、緑のステータスアップと黄色のお金だ。幻の虹色の短冊というものもあるが、入手した人がほとんどいないので幻と言われている。この虹色の短冊はすべての願いが叶うというものだ。


 ちなみに、このイベントで入手できる短冊は数に限りがあるのに、なぜか攻略対象もその婚約者も狙いに来る。そして、ユーザー同士の戦いも発生する。


 鮮血の七夕イベント。


 そういう別名がつけられたのだ。なぜなら条件さえ満たせば何回でも願いをかなえることができるからだ。マニアックな人だと短冊をゲットして使わずに残す収集家もいたな。使っちゃうと消えてなくなるアイテムだし。


 だから人によってこのイベントは張り付き何度もチャレンジした人も多い。思い返すとつらい。鮮血の七夕イベントだったな。





「キールさん。手伝ってくれますわよね」


 目の前にいるのはレイリア様だ。ああ、そうか私は彼女たちのトカゲのしっぽ切り要員。キール・テル・ドカーケだ。父は男爵。目の前にいるレイリア様は公爵令嬢だ。逆らえるわけがない。


「も、もちろんですわ。レイリア様。それで何をすればよろしいのですか?」


 今日は1年に1回だけ実施される七夕というイベントだ。


「ええ、ちょっと音楽室に一緒に行ってもらいたいの。そこにある短冊を取りたいのですけれど、私が音楽室にいる間色々な対応をしてもらいたいのですの」


 ああ、ピンクの短冊が手に入ると言われている場所だ。


「かしこまりました」


 廊下は走れない。早歩きで移動を開始する。音楽室は3階の端にあるのだ。あれ?どこかに記憶がある。確かピアノで指定された曲を弾くのだ。無駄にクォリティが高かった記憶がある。


 音楽室につくとすでに結構な人が集まっていた。数に限りがある。けれど、このピアノチャレンジは意外と成功率が低いのだ。バーに合わせて画面をクリックするのだが、運指がある程度できないと本当に難しいのだ。


「ああ、ダメだった」

「私なんて『エチュード革命だったのよ』」

「え?私はキラキラ星変奏曲だった。しかもテンポが速くなる鬼畜使用」


 色んな声が聞こえる。


「レイリア様。どうされますか?」


「もちろん、並ぶわよ。権力で追い返したりしたら後で何を言われるかわからないじゃない。絶対に変な行動はしないで頂戴」


 レイリア様は周囲が勝手に行ったとしても自分に影響が出ることを理解されている。こういう所が高い壁なのだ。周囲がたまに暴走する。私はその周囲を止めないといけないのだ。


「ねえ、レイリア様を待たせるなんて貴女たちはどういう神経なのかしらね?」


 そう、こういう事を言ってくる人がいるのだ。レイリア様は望んでいないのに、勝手な憶測で勝手なことをする人がいる。こういう人は害悪でしかない。はいはい、レイリア様。少し行ってきますわね。


「ガイアク侯爵令嬢。レイリア様はお並びになられるとのことです。お気遣いなきよう。今はイメージトレーニング中のためできれば静かにお願いします」


 ガイアク領は鉱山があったらしいが、すでに枯渇していると噂がある。けれど、羽振りがよかった時の癖が抜けておらず、借金を抱えている。どうにか支援をもらうためにレイリアに近づこうとしているのだ。


 それが解っているからレイリア様はこのガイアク侯爵令嬢と距離を取っている。特にガイアク侯爵夫人は新作ドレスに目がないそうだ。自らファッションリーダーを名乗っているそうだ。まあ、貧乏なドカーケには関係ありませんけれどね。


「あら、誰かと思えばドカーケ男爵令嬢ではございませんか。レイリア様、身の回りに置くものは選ばれた方がよろしくてよ」


 いつもはシルヴィアが横にいる。だが、シルヴィアは赤の短冊を狙っているのだ。赤の短冊は望みの武器が手に入る短冊だ。訓練場で手に入るが、ここも人気だから並ぶのだ。


 レイリア様は私が求めている短冊が人気のない黄色だと知っているので今回供回りに選んでくれたのだ。ちなみにレイリア様がピンクの短冊を入手する理由は「皆が仲良く過ごせますように」という願いをするためだ。願い事も誰がどこで見ているかわからないから手を抜かない。それがレイリア様のすごいところだ。


「このキールは私の友達ですわ。それに学園では身分は関係なくてよ。そう言えば、大変なんですってね。父君の借金発覚から婚約破棄されるという噂をお聞きしましたが、お求めになられる短冊はこちらでよろしいのですかしら?私心配してますのよ」


 ガイアク侯爵の浪費癖は公然の秘密だ。当人はばれていないと思っているようだが、みんな知っている。だからこそ、婚約破棄されている。


「そうなんです。困っているのです。だからレイリア様に少しだけでよいのでご助力いただきたいのですわ。お願いできますかしら」


 ガイアク侯爵令嬢は頭を下げた。しかも深々と。衆人の前で。これはまずい。私はレイリア様を見た。


 無表情だ。感情のすべてが落ちている。そして、空気の温度が下がったように感じだ。


「あら、学生の私に協力できることがあればいいのですけれどね。キールなら今の私に何ができると思われます?」


 え?レイリア様、ここで私に振ってくるの?ガイアク侯爵が夜会を開催するのをやめればいい。

 その夜会には一部の大手商会の幹部も出席する。そう、格下の貴族はガイアク侯爵の夜会で普段接点が持てない人との接点を狙っているのだ。

 それと、もう一つは情報だ。お金のために機密情報を諸外国に売り飛ばしている噂がある。

 当人はばれていないと思っているし、諫めても耳を貸さない。そう言えば、このガイアク侯爵令嬢関連のイベントはあるにはあるのだが、ロンベルト王国を守るために現ガイアク侯爵は追放。領地は縮小。ガイアク侯爵令嬢は確か年の離れたナリキーン子爵と婚約することで借金を肩代わりしてもらうというものだったはず。


 うん、頑張れ。


 ガイアク侯爵令嬢に転生しなくて本当によかったと思う。ではなくて、助かる方法ですよね。


「そうですね、毎年噂になっている虹色の短冊が手に入ればガイアク侯爵令嬢も救われるかも知れません。その情報をお渡しするということでどうでしょうか?」


 私はそう言ってしまった。ええ、言ってしまいましたわ。


「ま、まさかあなたは虹色の短冊について何かご存じなのですか?ならばレイリア様。このものを1日お貸しください。それでいいですわよね」


 ガイアク侯爵令嬢はレイリア様の承諾を取ることなく私を連れ去っていったのだ。レイリア様は無事ピンクの短冊をゲットされていました。それだけが救いです。



 私の目の前にガイアク侯爵令嬢がいます。学園は紺色のブレザーに白いシャツに赤いリボン、紺色のスカートという結構普通な制服だ。


 だが、何人かはその制服をアレンジしている。アレンジする事がおしゃれだと思っているらしい。レイリア様は手を加えられていない。だからレイリア様の周囲にいるものは皆ノーマルの制服を着ている。


 このガイアク侯爵令嬢は違う。まず、スカートや袖口にフリルがついている。そして、リボンも水玉模様だ。


 かわいらしい服装なのだが、当人が美人系なのだ。そのためどうしても似合っていないとしか思えない。髪型は長い髪をアップにしている。


 イメージはキャバ嬢だ。化粧も結構ばっちりしている。目の周りが特に派手だ。元々の目は大きくないのだろうけれど、アイライン、アイシャドウで大きく見せている。それがよくわかる。


 だからこそ、このかわいい服装に違和感しかない。そして、当人もかわいいキャラでもない。謎な人だ。触れちゃダメなのだろう。


「それで、虹色の短冊を手に入れるにはどうしたらいいのかしら。いいなさい」


 短冊は結構種類がある。色で言うと16種類もあるのだ。


「虹色の短冊を手に入れるには7か所周る必要があります。赤・橙・黃・緑・青・藍 ・紫。この順に場所をまわり短冊を入手せずに移動していきます。最後の紫の場所をクリアすることで虹色の短冊が手に入れられます」


 これだけならまだ入手は可能だ。けれど、入手してからさらに二つのミッションがある。

一つは短冊に願いを書くのだが、この願いを書くには専用のインクが必要になる。


 城下町に行きお使いイベントをクリアしないといけない。依頼は倉庫の整理。ゲームではオートだけれど、3時間の時間経過が必要になる。


 日付変更と共に1つ目のミッションをクリアして、2つ目のミッションが始まって寝るというのが多くの人が取った行動だと思う。


「では、短冊の場所に行きましょう」


 赤:アイテム(武器)の入手 試練:訓練場で模擬戦

 ガイアク侯爵令嬢は強かったです。


 橙:アイテム(回復系)の入手 試練:錬成実験室で錬成

 ガイアク侯爵令嬢は錬成もうまかったです。何気にこの人スペック高いな。


 黄:お金の入手 試練:生徒会室で作業の手伝い

 1時間の拘束。単純作業で疲れました。


 緑:ステータスアップ 試練:自習室で勉強

 1時間の拘束。魂が抜けそうです。


 青:アイテム(防具)の入手 試練:鍛冶屋でバイト

 1時間の拘束。もう真っ白です。


 藍:称号「クール」を取得 試練:湖で沐浴

 外は暑いので湖は気持ちいいですが、「クール」は何があっても慌てないだけという称号スキルなので不人気だ。というか、虹色の短冊ゲットで初めてしった人も多い。


 紫:アイテム(王者のマント) 試練:校長室

 校長が出すクイズに10問連続で正解しないといけない。というか、クイズむずすぎでした。



「意外と大変でしたわね」


 移動だけではなく、拘束されるものが多いのだ。拘束時間があるものは不人気だ。ちなみに、王者のマントは普段身に着けていると怒られる。王族でないためだ。冒険時に使うのだが、身に着けると自分より弱いものはエンカウントしなくなるらしい。


 私は弱いから必要ないアイテムですね。


「ええ、結構時間かかりましたね」


 午前中を全部使い、お昼も回っている。これから3時間かけて倉庫の整理だ。もう夕方。実はここから先があり得ない3つ目のミッションがある。


 笹の下でバトルして7連勝しないといけないのだ。負けると短冊は相手に奪われる。これがこの七夕イベントの難しい所でもあり、奪うためにバトルに居座るものもいた。


 おかげでどれだけの人がこのイベントで泣きを見た事か。まさに「鮮血の七夕イベント」だった。


 レイリア様たちNPCは比較的早い段階で参戦し、終わっている。私はモブキャラだし、弱いし誰にも勝てない。


 だって、時間ギリギリなんて高レベル者ばかりですもの。だから、この虹色の短冊は使う事はない。だからこの虹色の短冊は私の願いを書いてお父さまにプレゼントしたのだった。

 お父様はすごく喜んでくれましたわ。



「ということがあったのよ」


 私の中に眠るキールだったころの記憶を元に話しをした。


 今私の手元には虹色の短冊が大事にしまわれている。お父さまは私がプレゼントした短冊を使うことなく大事にしまっていたのがわかった。


 少しうれしかった。だって、他にも色々私がお父さまに渡したものが保管されていたから。


「ところでお姉ちゃんはどういう七夕だったの?」


 アイルはどこか遠くを見ていた。目が死んでいる。


「そうね、レイリア様は強かったわ。それだけかしら」


 ああ、あの人はチートだからな。仕方がない。ゲームの時も勝ち抜きバトルで出てきたら「オワター」って思っていたもの。


 短冊には当時私が書いた文字がそのまま残っていた。恥ずかしいな。


「ドカーケが発展しますように」


 そう虹色の短冊には書かれてあった。


 いつかの七夕イベントでかなえられなかった願い。ちゃんとこれから頑張ってかなえるからね。待っていてね。


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