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~愚弟って言葉が似合う弟がいた~

~愚弟って言葉が似合う弟がいた~


 スティーブと打ち合わせをするのにアポイントが必要だった。


 おかしいな。私が領主代行でスティーブは執事のはずだ。それなのになんで私がアポイントを取っているのか。


 それは一言で言うとここが「剣と魔法のストーレンラブ」の世界だからだ。


 だって、ゲームでは信愛度を上げるイベントはアポイントが絶対に必要。それはどんな相手にだってそうだ。今回はお茶会と言うわけじゃないけれど信愛度イベントと思えば納得ができる。


「これっておかしいですよね」


 アイルがそう言ってきたが「気にしてないからいいのよ」とだけ言った。


 いや、あなたもそうやって学園で頑張って来たでしょう。その結果がその高いステータスだし。


 そのステータスは努力なしには成し遂げられない。それはゲームをしていた私だからわかることだ。


 とりあえず、決算書も作ったし、アイルに作ってもらった見本もセット済みだ。一度使ったスウは目を輝かせていた。


「これ、すごい便利です。これがあるだけでかなり楽になります」


 わかっていることだ。私だってCSR担当で山の中に入らなかったらこの作り方を学ぶことなんてなかった。ただ、無条件ですべての場所で使えるわけじゃない。条件があるのだ。


「アポイントは午後からですがどうしますか?」


 アイルがそう言ってきた。結構侍女っぽい。いや、目つきはまだ鋭いままだ。う~ん、距離ってなかなか縮まらないものね。そう思っていたら扉の向こうが騒がしくなった。


 どーん。


 大きな音と主に扉が開けられた。


「俺様参上。バカな姉に代わりこのドカーケ領は俺様に任せるがいい」


 そう言って扉の前に立っていたのは茶髪に少し小太り、不敵そうな笑みを浮かべてふんぞり返っている少年がいた。


 愚弟であるナッカ・テリ・ドカーケだ。そういえば、トラブルメーカーのこの弟もどうにかしないといけない存在だ。


 とりあえずステータスを見る。


 ナッカ・テリ・ドカーケ(12)

 Lv.1

 HP:10

 MP:10

 腕力:1

 体力:1

 知力:1

 魔力:1

 敏捷:1

 スキル:なし


 うん、見事にステータスが1だ。モブキャラはこういう設定にされているのかしら。


「おぉぉ。なんだ君はむちゃくちゃかわいいではないか」


 そう言ってナッカはスウに向かって突進してきた。速攻でアイルがスウを引き寄せナッカは壁にぶつかる。


 あ、HPが8減った。すごいフラフラしている。


「こんなことで俺様は愛を諦めない。そこのでか女。邪魔するな。俺はナッカ・テリ・ドカーケだぞ」


 いや、HP残り2がレベル87に挑んでちょっとでも触れられたら死んでしまう。トラブル回避にはいいかもしれないが、アイルが罪人になってしまう。


 あれ?罪人が更に罪を重ねたらどうなるんだろう。でも、ここに居られなくなったら困る。誰が困るって私が困る。止めなきゃ。この愚弟を。


「ちょっとナッカ。やめなさい。この子は私の侍女よ」


 正確には奴隷ですが、奴隷っていう響きが嫌なんだよね。


「ならば問題ない。俺の嫁になるがいい。俺様の愛はどこまでも続くのだ」


 あれ?


 このセリフどこかで聞いたことがある。そうだ、『剣と魔法のストーレンラブ』のシーズン2で愚弟ナッカがこういうセリフを言っていた。


 そして、思い出したのだ。ナッカが恋をした相手は第一王子ルーファス・ディ・カリオニア・ファー・ロンベルトの婚約者の妹。そう、この目の前にいるスウ・シンフォニアだ。


 ちなみにハードモードの時はナッカの暴走イベントはない。ということは本当にスウに一目ぼれだったんだ。


「私と妹は侍女ですが奴隷です。いずれ領主となられるのであればそれ相応の相手を選ぶ義務が貴族にはあるのではないですか?」


 アイルはそう言いながらスウを自分の後ろに隠した。


「領主などそこのバカ姉がなればいい。俺様の愛は不変だ。不滅だ、不敗だ、不動だ。さあ、俺と共に行こうではないか」


 そう言ってナッカはスウの前にやってきた。仕方が無い。止めるか。


「あのね、ナッカのはただの押し付けよ。一番大事なのはスウ自身の気持ちよ。それにスウは借金奴隷よ。もし、結婚するのならその借金をドカーケ家が支払う義務があるの。借金額は1000万リールよ。ナッカに払えるの?」


 と言ったけれど、私もこの1000万リールの価値がいまいちよくわかっていない。はじめ1リールが1円くらいなのかと思っていたらそうでもないのだ。


 日本とこの『剣と魔法のストーレンラブ』では価値観が違う。ただ、ゲーム内でも使っていた通貨だけれど、1000万も貯めたことはなかった。


 『剣と魔法のストーレンラブ』ではお茶会を開く時に珍しい茶葉やお菓子が必要になることがあある。


 相手の信愛度が低いときに珍しい茶葉やお菓子を使うと「男爵令嬢ごときがなまいきね」という事で信愛度が下がるのだ。


 こういう珍しいものは用意をして信愛度を上げたい相手に献上し、その相手が主催するお茶会で披露してもらうのが一番なのだ。


 相手に華を持たせながら会の最後に「でも、これ用意してくれたのは彼女なんですよ」とフォローを入れてもらうのだ。


 この珍しい茶葉やお菓子は入手するためのイベントもあれば、たまたま手に入るケースもある。入手するイベントの中には探索でモンスターがいる所に行く必要があるが、レベルが低いと傭兵を雇う必要がある。


 そう、この時にお金が必要なのだ。だが、この傭兵も色々だ。一番安い傭兵は1日50リールで付いて来てくれる。一番高くても1000リールだ。


 この傭兵は全て男女ともにいるが、連れて行けるのは1人だけ。そして、男性の傭兵を連れて行くと噂が立つ。


 実際に、この男性の傭兵も攻略対象になるのだが、それは本流と違うエンディングだ。男性の傭兵は5人。そして、エンディングの扉絵も5枚。この扉絵コンプをすると実は特典がもらえるのだ。しかも期限付き。


 それをネットで知った時本当につらかった。会社に有給申請してまでコンプした。まぁ、有給は5日使わないといけないらしいので会社から喜ばれはしたけれどね。有意義な日を過ごしたわ。


 あら、話しが脱線しましたわね。

 お金の話しです。


 一番高い傭兵でも1日1000リールで連れていける。


 そして、このゲームでのお金の稼ぎ方は様々。一番いいのが、先ほどの珍しいものを献上して、お茶会を成功させること。


 献上しただけでは実は返礼がないのよね。お茶会が成功してはじめてお礼を言われ返礼が来る。


 屋台とかイベントでの商店との取引や傭兵との金銭授受はわかりやすいけれど、貴族同士や大手の商店とのやり取りとなると金銭のやり取りがわかりにくいのだ。


 まあ、これもあって余計にドカーケ領の収支がわからなかったのだ。


 信用取引って何?つけ払いって何?


 回収できていないけれど、その金額が不明ってどういうこと?


 本当に謎だった。なのにこの借金奴隷に関しては明確な金額が書かれている。


 理不尽だ。しかも大体借金奴隷の借金は1000万リールなのだ。これも意味不明。


 あ、そうそう、愚弟を放置していましたね。頭を抱えて悩んでいる。そりゃそうだ。1000万リールなんて金額ゲームでも見たことがない。


「どうするの?」

「ぐぬぬ。愛があればなんとかなる」

「ならないから。それに愛というけれど、スウの気持ちはどうなの?」


 私はそう言ってスウを見た。オレンジの髪、栗色の瞳。アイルを小さくした感じだけれど、私はアイルを見るとどうしても計算高い女としか見えない。


 いや、かわいいのはわかる。愛くるしいのもわかる。主人公だから。でも、よくよく考えたら自領の発展と妹のために略奪愛をしているのだ。


 扉絵でもたまに悪い表情をしている時がある。まあ、基本バッドエンド行きの手前の時が多いのだけれど。そう、そのちょっと三日月っぽい口で笑うしぐさなんて特に。


 なんで、そんなことを思い出したかというとスウがそんな表情をしていたからだ。この子も怖い子なのかもしれない。スウがつめたい口調で言う。


「私は落ち着きある人がいいですね。それと貴族としてちゃんと責務を果たしている人がいいです。今のナッカ様はどうなのでしょう?貴族の模範と言えるのでしょうか?」


「いや、それは」


「私は言えるのでしょうかと聞いているのですけれど、私と会話するつもりなら答えはどちらかですよね。どうなのでしょう?」


「いいえ、できていません」


「なら、模範となるよう自ら言える様になったらまたお越しください。お待ちしています」


 そう言われてナッカは部屋から出て行った。というか、スウってこんなキャラだっけ?というかなんかちょっとだけスウが光っている。ステータスを見る。


スウ・シンフォニア(12)

Lv6

HP:500 → 600

MP:500 → 600

腕力:50 → 60

体力:50 → 60

知力:50 → 60

魔力:50 → 60(+50:調教Lv補正)

敏捷:50 → 60

スキル:(封印)、諜報、剣術、調教Lv2

キール・テル・ドカーケの隷従者


 ってか、調教スキルが付いてしかもレベルが上がっている。ナッカのイベントをクリアすれば調教スキルが手に入ると聞いたことがあったけれど、本当だったのか。


「スウはいいの?うちの愚弟なんかが相手で」

「ええ、この奴隷から解放されるのなら。でも、流石に1000万リールは無理ですよね。学園に通いたかったですけれど、諦めています」


 スウは諦めたと言っているが夜アイルに「やっぱり学園に行きたいな」と話していたのを私は知っている。


 だからこそ私は決めているのだ。スティーブとの打ち合わせなんて前哨戦。私が本当に狙っているのはもっと先だ。


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