~アンネと『再現』~
~アンネと『再現』~
風の精霊をゲットしたおかげで私は風魔法が使えるようになった。といってもこれ結構制御難しいんだよね。しかも、ジャネットに教えてとお願いしたらこう言われた。
「まだ死にたくない」
ってか、指導すると死ぬの?なんだかすごい爆弾をいきなり渡された気分だ。
まあ、ちょっとそよ風を出そうとしたら突風というか、何かの必殺技みたいになったけれど、たまたまだよね。まあ、あれ以降、精霊のウェンディは私の影に隠れている。というか、潜んでいる。そしてウェンディはおびえている。怖くないよ。
「キールお嬢様。とりあえず制御できるまで精霊魔法は禁止です。破ったら速攻で気絶させますから」
ユーフィリアの目がマジだ。というか、気絶で済むのか?暗殺じゃないのか?謀反だ。ブルータス、お前もかとか、言いたくなる。まあ、私だってバカじゃないですよ。制御できていないものを使う気はありません。
どこかで練習はしたいけれど。うん、手ごろな場所がない。
「まあ、そうね。ありがとうと言っておくわ」
カチュアにそう言われた。珍しい。あの褒めない、感謝しないカチュアがそう言ったのだ。デレ期か?そう言えば、ゲームでもこういうシーンあったな。
「気にしないで。私たち友達でしょ」
ゲームでアイルが返した返事を言ってみた。あれ?カチュアがびっくりした表情をしている。友達と思われていなかったのかな?おかしいな。これだけカチュアと会ってお茶会もしているのに。まだ、信愛度が足りなかったのかな?
「そ、そうね。でも、いいの?馬の取引をクルル商会がすべておこなって。ドカーケの取り分も用意するけれど、専用の商会を立ち上げることだって十分できる取引量になるのよ」
そんなゆとりありません。ドカーケは発展したけれど、治める人が発展してないし増えてもいないので毎日大変なんです。
「私には今のドカーケで手いっぱいですからね」
「そうね、ここまで短期間で発展させるなんて普通じゃないもの。じゃあ、落ち着いたし、ちょっと料理を食べたいわ。名物を用意しているのでしょ?」
もちろん、いっぱいあるわよ。おなかにたまるのならドカーケ焼きがいいけれど、実は会の最後で出す予定のパスタがある。ユーラシア王国に香辛料が結構あるなんて思ってもみなかったのよね。ポリシティ商会が提案してきた時には小躍りしてしまった。
そう、『カレー』が食べられるのだ。だが、米がない。だからパスタにカレーをかけるのだ。納得いかないが他にいいものがない。
いや、アイルにいったらカレーパンが出来上がった。このカレーパンは今日のお土産で配るのだ。
「じゃあ、ちょっと最後に出す予定のものをカチュアに出してあげて」
「かしこまりました」
ええ。香辛料はユーラシア王国から買ったけれど、ユーラシア王国にも『カレー』は存在しなかった。つまり、この世界で初の料理だ。まあ、あの転生者のアンネも知っているだろうが。
あ、そうだ。アンネの身柄を今から押さえてカレーを食べさせないであげよう。ちょっとした意趣返しだ。レアアイテムで好き勝手やってくれているしね。
「そうね、アンネとその家族をどこかの部屋に呼んでおいてもらえるかしら。後、集まったらカグーイ王妃にお声がけを。夜会のどこかで話しをしてみたいと言っていたからね。ちゃんとその場を作ってあげましょう。ふふふ」
「キール。ずっとあなたの事がわからないけれど、今のあなたはわかりやすい」
「ええ、うちの魔王ですから」
ちょっと、カチュアとユーフィリアで何意気投合しているのかしら。
ちなみに、カチュアはカレーパスタを食べた瞬間にレシピを求めてきた。香辛料がユーラシア王国から購入していること、その購入先がポリシティ商会であると知って悩んでいた。そんなに苦手な先なのだろうか?
「あの商会は本当に非効率すぎるのよ。恨みだけで動く相手は意味不明だし」
ポリシティ商会はカチュアに言われて思った。確かに効率で動いていない。感情が先に出るんだよね。今回の香辛料も色々もらって初めてカレーができるってわかったし。
「まあ、香辛料は私が大量に買うからカチュアに売るわよ。どうせ馬の受け入れと一緒になるだろうしね」
戦争ではなく平和的に貿易でユーラシア王国とは関係を構築したい。香辛料も鉄鋼石とおなじくかなり安く売ってもらっている。あの国大丈夫なのだろうか?
「まあ、キールがそれでいいならいいわよ。でも、たまには欲を出した方がいいわよ。そういう意味ではノースドカーケのノンリケはちゃんとわかっている。あれは代官より商人向きね」
ノースドカーケの代官候補であるノンリケは私と違って商会に色々と指示を出している。その中に賄賂というものもあった。ノンリケに聞いたら「賄賂も払えないくらいの小規模な相手は信用できません。先払いと同じようなものです」と言われた。
ちなみに、賄賂として受け取った金はすべてノースドカーケの運用費用に使っているらしい。私腹を肥やしていないのだ。それはスティーブとともに確認した。だが、商会や商人は違う。その賄賂によって確かに優遇されているのだ。だが、その額が高すぎるわけでもない。
「商人はもうけを外に出さずにため込む癖があります。だからおいしい餌で引き寄せてたまに浄財させてあげないといけないんですよ」
ノンリケはそう言っていた。娘のカティがサポートをしている。多分、ノースドカーケは大丈夫だろう。農地改革もかなり進んでいる。
「キールお嬢様。隣の部屋にアンネたちを呼びました。後、もう少ししたらカグーイ王妃も来られるようです」
アンにそう言われた。気が付くとユーフィリアとアンはうまくサポートしあっている。いつの間にかいなくなり、いつの間にか戻ってきているのだ。忍者みたいだ。とりあえずこの動きはメイドではないと思う。
「わかったわ。移動します。カチュア。そのカレーはレシピもあるけれど、香辛料を手に入れる必要があるのよ。どうする?」
「もらうわ。でも、これは簡単に再現できなさそうなのはわかる」
ええ、結構大変でした。なんとなく知識はあったけれど、再現までにはアイルが無茶苦茶頑張ってくれた。だから、初期のレシピは謎でしかないし、カレーからほど遠い味だ。
「これはドカーケ名物にしたほうがいいかもしれない」
アンから受け取ったレシピを見てカチュアはそう言った。まあ、ドカーケでしか作れない、食べることができないものを目指していた私にはありがたいことだ。
「じゃあ、またね」
「ええ、また面白いものを期待しているから」
カチュアはメガネのふちを触りながらそう言ってきた。これはカチュアの信愛度が上がった証拠だ。カレーの威力は大きいと改めて思った。
隣の部屋に入ると空気がむちゃ悪かった。まず、アンネは私をにらみつけている。この子に攻略の後どういう展開になるのか教えてあげたいが、私の想像している相手なら教えても「だから何?」と返されるだけだと思う。
そして、横にアンネの兄のドーソン、そしてドーソンの恋人のメイサがいる。私を見るなり満面の笑みを浮かべて声をかけてきた。
「今宵はこのような夜会におよびいただきありがとうございます。私どもロードスタ家としては感謝しかありません」
ドーソンは笑顔だ。作り笑いなのがわかるのは少し顔が引きつっているからだ。だって、私が部屋に入ってくるなりドーソンとメイサは立ち上がりあいさつをしてくる。だが、アンネは座ったままだ。どちらかというとふんぞり返っているような座り方だ。
実際、ソファとかは深く座るとあんな風になるんだよね。だから、就職活動の時とかソファは浅く座るようにと教わるのだ。
「いえいえ、喜んでいただいてよかったです。それで、今回こちらにお呼びしたのはお話ししたいことがあったからなんです」
そう言った瞬間に扉があいた。ご満悦な表情をしたカグーイ王妃が現れたのだ。
「こ、これはカグーイ王妃。」
すぐさまドーソンとメイサは片膝をついて臣下の令を取る。さすがにアンネもまずいと思ったのか動いたが、その二人の行動を見てからソファから立ち上がり片膝をついた。もちろん私はわかっていたのでカグーイ王妃が入室した時に速攻で片膝をついている。
「今日は公務で来ているわけではありません。だから楽にしてください」
カグーイ王妃は笑いながら私の近くに寄ってきたソファに腰かけた。少し遅れてから私たちも顔を上げ立ち上がる。顔を上げたらすでにソファにアンネが座っていた。この子大丈夫なの?さすがに貴族社会の最低限の礼儀を守らないといけないでしょ。
ドーソンなんて真っ青な顔色になっている。横にいるメイサも同じだ。
「この子がキール子爵の言っていた子ね。面白い子じゃない」
私が横に座りユーフィリアがそっと出してくれたダンデ茶をカグーイ王妃は飲みながらそう言ってきた。だが、口調は穏やかだが目つきが鋭い。まるで獲物を狩る鷹のようだ。
「カグーイ王妃。愚妹は礼儀を知らず申し訳ございません。何卒ご了承ください」
ドーソンが頭を低く下げている。というか、その様子を見て悦に浸っているアンネが怖い。まあ、自分をいじめていた兄がペコペコしてるのを見ているのが楽しいのはわかる。だが、今のアンネの状況は非常にまずい。ここにいる人は、ただの温和なおばさんじゃないからだ。
強力な権力者なのだ。カグーイ王妃の機嫌を損ねてしまったらその貴族は社交界に出ることもできないし、領地運営だって支障をきたすはずだ。
「まあ、こちらから無礼講と言っているのです。少々くらい大目に見ますわよ。それで、あなた。ロードスタ家のアンネと言ったかしら。あなたも不思議な魔力の持ち主よね。そうね、一つの体に二つの魂を無理やり押し込んだ感じがするわ。ちょっとあなたの事を教えてくれませんか?」
やはりこのカグーイ王妃は何かに気が付いている。そして、徐々にアンネに近づいている。これは恐怖だ。自分に向けられているわけじゃないのに圧を感じる。だが、アンネはこう言ってきた。
「あなたが国母なのね。ゲームだと名前と姿画でしか見たことがなかったら興味があったのよ。でも、端役でしょ。物語の主流にあなたはいないの。この国で偉いかもしれないけれど、それは私には関係ないことだわ」
どんな強心臓の持ち主よ。というか、この子ひょっとしてこの世界を『ゲーム』としてしか認識していないのかしら?
確かにゲーム要素は多い。でも、実際に人に触れることもできるし、キャラクターには感情も自由な意思もある。
「ふむ。そのげぇむというのはよくわからぬが。私のことを端役と言い切る胆力はすごいわね。それで、あなたはこれからどうするつもりなのかしら?」
ダメだ。カグーイ王妃が怒っているのがわかる。顔は笑っていて、言葉遣いは丁寧だが、背景に修羅がいる。赤いオーラを身にまとっている。これは危険だ。危険がヤバい。
「まあ、これから私が行おうとしていることを理解している人がいますからその人に聞けばいんじゃないですかね」
アンネは私を見て挑発してきた。まあ、ここまでドカーケを発展させたのを見たら私が相手だってそりゃわかるよね。でもね、私とあなたの違いはこの世界を単なる『剣と魔法のストーレンラブ』というゲームという認識か現実の延長線上とみているかの違いだと思うのよ。
「本当に申し訳ございません」
ドーソンがアンネの頭を掴みお辞儀をさせようとする。けれど、アンネがびくともしない。だって、ドーソンのレベルは3だし、ステータスもモブキャラ設定だ。今はオール3のステータスだ。これではレベルが90に届きそうなアンネの頭を下げさせることはできない。
「まあ、いいわ。という事は、あなたはこのドカーケ子爵と敵対するということでよいのかしら?」
「ふん、敵でもなんでもないわよ。眼中にないし。最後に笑うのは私ですから。あなた、乱数調整とか再現とかできないでしょう。これからの世界は私の都合のよいように改編してあげるわ」
確かに乱数調整とか再現とかいまいちわからなかった。けれど、それで何をもたらそうとしているのかはわかっている。
アンネがしようとしているのはユーラシア王国がロンベルト王国に攻め入るという状況を乱数調整して再現しようとしているのだ。それも回避できないくらい綿密に。
それはシステムのバグをついた方法だから回避ができない。イベントとは違って絶対に発生させることができるのだから。でも、この世界がゲームではないからこそできることがある。
「楽しみだわ。こんなに発展させたこの街ががれきの街になることを私は見ることができないなんて。まあ、せいぜいモブキャラに囲まれて、その日が来ることをガタガタ震えながら待っているといいわ」
アンネはそう言ってダンデ茶を飲み終わると立ち上がり部屋から出て行った。ドーソンは真っ青になりながら謝罪をして出て行った。横にいるカグーイ王妃がその様子を見て笑い出した。
「なるほど。あんなのが敵というわけね。それでドカーケ子爵としてはどうするつもりなのかしら?」
気が付くと新しく淹れなおしたダンデ茶が机の上に並べられていた。ユーフィリアの仕事は早い。私も一口飲む。手が震えている。さすがにあんなにわかりやすく敵意を向けられることはそうそうない。慣れないものだ。だが、ダンデ茶を飲むと落ち着いてきた。
「そうですね。彼女はおそらくユーラシア王国と接点を持ち、戦争を起こさせるでしょう。そして、それは私にはどうやっても回避できない手段です」
「わかっていても回避できないのね」
普通に考えたらおかしいと思うだろう。だが、それまでの準備とか交渉とか関係なくただ攻め入るという事実だけが再現されるのだ。
「ええ、攻め入る方も操られたかのような感じだと思ってください」
この世界でイベントを強制的に『再現』するという事は現実世界だと催眠とか誘導とか洗脳とかそういう類に映るだろう。しかもその場所にいないはずの相手がいきなり現れるのだ。
『再現』とは、システムに組み込まれたイベントをフラグや途中経過をすべて無視して発生させることができるバグ技だ。ただ、この『再現』にも問題はある。イベントが確定した上で『再現』をかけることができないのだ。
わかりやすい例だとマナナンガルの解呪を行い灰になることが確定した後だと、マナナンガルが助かるイベントを『再現』することができないのだ。
イベントが確定してしまえば、そこから回避する『再現』を行うことができないのだ。そして、この再現はプレーヤーしか行うことができない。それに、『再現』をするには一定の条件もクリアしないといけない。この『再現』にはこういう噂がある。『再現』はデバッグ用に作られた任意の時にイベントを発生させるものだと。だが、簡単に『再現』できたらゲームがおかしくなる。だから、一定の行動をした後でないと『再現』が発動しないのだ。
私が思い悩んでいるとカグーイ王妃がこう声をかけてきた。
「ならば今すぐあのものを捕らえ処罰すればよいのでは?」
確かにそれが一番手っ取り早い。だが、問題もある。それはカグーイ王妃も気が付いているはずだ。
「その罪状は何になりますでしょうか?非礼をしたからということで『不敬罪』にしますか?」
この世界はどこまで行っても『剣と魔法のストーレンラブ』なのだ。相手を処分するにはそれ相当の『証拠』や『状況』が必要なのだ。まあ、捏造してしまえばいいという事でもあるが、おそらくカグーイ王妃は立場上面と向かってそういう事は言えないだろう。
それに、単純な処罰だと逃げられてしまうし、どこにいるのかわからない状態で『再現』をされる方が困る。
「ふむ、ドカーケ子爵はその方法を望まぬということか。ならば任せよう。その手腕を振るうがよい」
ってか、任されてしまった。まあ、こればっかりは相手の『再現』を逆手に取るしかないのだ。
今回の『再現』でできることは『攻め入る』という結果だけだろう。その場所にいきなり兵が現れる。現れた兵はシナリオが進行中のためそのまま行動に移る。
これは回避できない。本来ならば『攻め入る』場所は何か所かに分かれる。だが、アンネの性格からすべてのイベントフラグを『再現』するのではと思っている。
それこそ、ユーラシア王国出身の彼女たちが戦場に立つというイベントすべてを行ってくると思っている。
仕組みはわかっている。ただ、私には行うための知識もないし、もう一つ私は『主人公』じゃない。だから、その『再現』を受け入れるしかないんだ。
「最善を尽くします。だが、それまでにお願いがございます」
そう、ゲームのシステム上のバグをついてくるのなら、こちらはゲームにない進行を行えばいいのだ。
だが、そう簡単にいかないのがこの『剣と魔法のストーレンラブ』という世界なんだ。




