~ジャネットと精霊~
~ジャネットと精霊~
ジャネット・ロー・メディス。
メディス家は貴族でない。メディス地方の馬は体が大きく馬力が高い。そのため、輸送でも戦場でも多く使われる。そのメディス地方一体を取りまとめているのがメディス家だ。
誰もがその馬を求めるがメディス家との取引は限られたものしかできていない。
ユーラシア王国は古くから盟約があるらしく取引が出来ているが、他の国や商会は取引が出来ていない。だからこそ、クルル商会はどうにかして縁を繋ごうとしたのだ。
それが婚約だ。この婚約は政治的圧力で成立したものだ。だが、婚約をしたからといってすぐに取引が可能になるわけじゃない。
だから、カチュアはユーラシア王国に赴いて交渉をしていたのだ。だが、メディス家というのは異質なのだ。どう異質かと言うと目の前にいるジャネットが物語っている。
「ジャネット・ロー・メディスさん。今宵は当家の夜会にお越しいただきありがとうございます」
スカートを少し摘み軽く会釈する。だが、ジャネットは無反応だ。私の周囲を眺めている。
「不思議な人。あなた、どうして、体に二つ、魂がある?」
またこの話しか。ってか、ジャネットはなんだか片言で話すのだ。この子よくわからないのよね。
でも、確かに言われて気になってきた。私がこの世界に転生したと思っていたけれど、この体には『キール・テル・ドカーケ』という存在が確かにいるのだ。だが、私にはその存在が掴めない。
「あなた、その子、声、聞こうと、しない。精霊も多い。この地。無視できる。すごい。そこのも、声、聞かない。ダメ」
ジャネットはいきなり立ち上がったと思ったら窓に近づいていく。勝手に窓が開いたと思ったら優しい風が吹いた。髪が風に流されていく。夏の温かい風のはずなのになぜか涼しさを感じる。なんだか頬にあたる風に違和感がある。これはなんだろう。
「これで、無理なら?諦める」
ジャネットがそう言ってくる。そう言えば、ゲームにもあったな。こういうシーン。確か主人公は目を閉じて集中して精霊を感じるんだ。私も目を閉じてみる。
風が頬に当たるが何かが違う。なんだろう?変な感じだ。手を伸ばしてみる。だが何もつかめない。
なんだかバカにされている気分だ。ゲームだと精霊の声が聞こえるのに。私には何も聞こえない。仕方が無い。手のひらに魔力を込める。
イメージは粘着テープだ。ねばねばしたものイメージする。なんかできた気がする。手を大きく振り回す。多分、この辺にいるはず。そう思って手を勢いよく振った。
『ちょっと、これは反則だヨ』
手に感触がある。目を開けると手のひらに小さい小人に蝶々のようは羽をつけたものがへばりついていた。服は緑色。
「規格外、でも、捕まえた。一応合格」
合格がもらえた。確か合格がもらえないと商談成立しないんだよね。って、私が商談進めるの?
「そこの、ダメ。こっちなら馬売る」
ジャネットがそう言っている。
『ちょっと、僕を無視しないでヨ』
そう言えば手のひらにずっと妖精が引っ付いていたんだ。ってか、これどうすればいいんだろう?私は手のひらにいる精霊を見た。結構かわいい顔をしている。緑のとんがり帽子に緑の髪、白い肌。目はなんか銀色で大きい。ほっぺたはぷにぷにだ。ちょっとつついてみよう。
『ちょっと、くすぐったいヨ。ってか、早く解放するか契約してヨ』
そう言えば、精霊を捕まえたら契約できるんだった。確か、真名を念話で聞くんだったな。
『ねえ、君の真名を教えてよ。そうじゃなきゃ契約できないでしょ』
念話は得意じゃないが魔力を込めて思いをぶつければ伝わるのだ。ただ、ちょっと出力の制御が得意じゃないんだよね。
『大音量すぎるヨ。僕の名前は(******)だよ』
え?聞き取れないんだけど。これ大丈夫なのかな?とりあえず、発動させてみる。
『キール・テル・ドカーケの名において******と主従契約を締結する』
あれ?おかしいな魔力の紐みたいなものは伸びているのになぜか精霊にうまく巻きつかない。もう面倒だ。これ力技でなんとかならないかな。精霊をこの魔力の紐でつなぎとめればいいんでしょ。
ゲームだと光の紐みたいなのが精霊の腕に巻きつくのだ。だが、こんな小さい精霊の腕に巻きつかせるのは至難の業だ。それに結構魔力で粘着している。あ、そうか。まず手すべてをこの紐でぐるぐる巻きにして、それから粘着を取ればいいんだ。そうすれば逃げられない。
『ちょ、ちょっと待ってよ。これおかしいヨ』
とりあえず、うまく行った。
『契約完了!』
精霊と契約したらゲームだと画面が光ったんだ。だが、なんか光り方がおかしい。それにぐるぐる巻きだったはずなのに、光った後の精霊はなんだか大きくなっているんだよね。
でもぐるぐる巻きのままだ。逃げられるかと思ったのでさらに魔力を込めたんだよね。
「キールお嬢様。その魔力ですが、やはり魔王がここにいるように感じるので出力を抑えてもらえますか?」
ユーフィリアにそう言われた。魔王って、どちらかというと私より周りのほうが魔王っぽいんだけれど。
スティーブとかユーフィリアとか。
でも、なんかそう言われたら仕方が無い。魔力を抑えてぐるぐる巻きを少し減らしていく。というか少しずつ魔力を解除するのが難しいので一気に解放してみた。契約は成功しているから逃げられないだろうし。
『ってか、逃げられないヨ。まさか精霊の一部じゃなく全部を捕まえるなんてありえないんだヨ』
解除したらさっきは手のひらサイズだったのがバスケットボールくらいの大きさになってる。そのまま大きくしたような感じだ。
「キールお嬢様。この面妖な生き物はまさか精霊ですか?」
まあ、そう言いたくなるよね。目が人のそれと違って銀色の塊なんだよね。白目が無いんだ。しかも小さな六角形にわかれているんだ。昆虫みたいだと思った。羽も蝶々みたいだし、精霊と言うより昆虫のモンスターっぽい。
『ちょっとそれはひどいと思うヨ。ってか、僕に名前をつけてヨ』
ああ、そうか真名は捕まえたものにしか話したらダメなんだよね。
「精霊の一部じゃなく全部捕まえる。規格外。怖い存在」
名前を決めようと思っていたらジャネットに怖がられていることがわかった。しかも私から離れてカチュアに抱きついている。
「だ、大丈夫よ。キールは友達、ね」
あれ?カチュアさん。なんであなたまで私に脅えているんですか?
『多分、普通精霊なんて目に見えないからだヨ。というか僕を具現化できるくらいの魔力を注ぎこむなんて普通じゃないんだヨ』
そうなの?まあ、確かにゲームだと手のひらサイズだったものね。でも、風の精霊でしょ。無難に名前は『ウィンディ』かな。
『まあ、変な名前じゃなくてよかったヨ』
しまった。インパクトある名前にすればよかった。
『もう変更聞かないんだヨ』
なんかこの語尾の『ヨ』が結構耳に残る。この音だけスタッカートな感じなんだ。でも、これで私も魔法が使えるんだよね。ちょっと試してみたい。
「ダメ。それ危険」
ジャネットが腕を使って大きくクロスしている。
「キール様。なんだか嫌な予感しかしません。もし、使うとしても魔力は最大限押さえてくださいね」
ユーフィリアにもそう言われた。はいはい。とりあえず、部屋の中だと問題だから窓から上空に向かって魔法を発動させよう。ウィンディ。そよ風出せるよね。あれやってみたい。ゲームにあったからやってみたかったのよね。
『ゆっくり魔力を手に集めてから『そよ風』って言えば発動するヨ』
ウィンディもそう言っているので、手に魔力を集める。
ってか、どれくらい集めるんだろう?とりあえず、そよ風っていうくらいだからそこまで多くなくていいか。手が魔力で温かくなってきた。夏なので当たり前だがこの温かさはうれしくない。
とりあえず早く解放しよう。今ならできそうな気がする。上空に向けて魔力を解放した。
「そよ風!」
あれ?おかしい。なんからせん状の空気の渦が突風となって上空に向かって行った。しかもすごい音もした。なんだこれ?全然そよ風じゃない。ウィンディどういう事?
『・・・・なんでそよ風でこんなことになるんだヨ。ご主人様は企画外だヨ』
そう言うなりウィンディは姿を消した。逃げたな。追いかけてやる。そう思っていたら肩を掴まれた。
「キールお嬢様。精霊魔法は絶対に使わないでくださいね」
そこに魔王、じゃなかったユーフィリアがいた。背後のオーラはもう魔王そのものだ。
「馬の取引。言い値でいい。だから友好」
ジャネットがそう言って来た。
「なら、取引はこのクルル商会を通してね。それで商談成立ね」
私はそう言ってジャネットに向かって手を差し出した。だが、ジャネットは私の差し出した手を不思議そうに見ている。おびえながら人差し指だけを出してきてちょんと触れてきた。
「成立でいい。強いものに従う。これルール」
おかしいな。ゲームだと主人公が精霊と契約をして和やかな感じで商談成立だったはずだ。こんな雰囲気じゃない。ずっとジャネットがおどおどしている。
これ大丈夫なのかな?後でフォローの手紙を入れておこう。でも、この風の精霊のおかげで助かったのだ。それはもう少しだけ先の話し。




