~ボルドー家のお願い~
~ボルドー家のお願い~
フィリップとシーフヤが出て行った後に扉がノックされた。一応ここは家族用の部屋なんだけれどな。
「姉上、実は相談はまだあるんです」
なんだか嫌な予感がしてきた。だが、姉として弟の相談にならないわけにはいかない。
「いいわよ。どうせ外に待たしてあるんでしょう」
私が応諾するのを確認してからスウが扉を開ける。スウって結構気が利くのだ。おかしい。姉のアイルとかなりスペックが違うような気がする。
ねえ、アイル。そこで「ん?」みたいな顔しないで。今日はアイルとハッサムがちゃんと私の騎士として背後に控えているんだから。ハッサムはなんか恐縮していたけれど、多様性のアピールにハッサムを起用しているのはメリットも多いのだ。
公式の場で私の騎士としてマリンケ族の人が後ろに控えている。貴族社会では縁故採用が多い。だが、それだと本当に優秀な人材が集まらない。実際、ドカーケ初の代官はマリンケ族のノンリケだしね。
まあ、シーフヤについては色々思う所はあるが、ロッテンの問題はシーフヤと二人で解決をしてもらおう。
「失礼します」
そう言って入ってきたのは、智の令嬢であるベスト―ニャ・リーン・ポリシティと智の攻略対象であるカシムーン・ダイン・ボルドーだ。
後ベスト―ニャの後ろに仮面の男が普通いるのだが、額に傷がある男性が立っている。というか、この男性の顔に見覚えがある。仮面の男を倒した後に出て来るキャラだ。
でも、仮面の男を倒すと死亡するはずなのになんで生きているんだ?しかもあの仮面って呪いのアイテムだよね。あの呪いを解けるのってモカグリーンくらいじゃないの?
なんか色々と情報が追いつかない。とりあえず、カシムーンについて整理しよう。
カシムーンはボルドー家の二男だ。カシムーンの見た目は紫の髪をおかっぱにしているのだ。男性だけれど直毛でさらっとした髪にメガネという理知的なキャラだ。だが、結構感情豊かなのだ。まず、兄の事を愚鈍だと思っている。だが、兄は弟が優秀だからボルドー家を弟に次いでもらいたいために愚行を重ねているのだ。
だが、計算されつくされている愚行なのだ。大きな問題にならない、それこそ優秀な弟くらいしか気が付かないようなミスなのだ。そして、弟がため息をついて修正をするというレベル。つまり第三者に気が付かない愚行なのだ。
それって意味ないよね。ちなみに、この兄は珍しく学園にいる。今の生徒会長がこのカシムーンの兄であるソリューンだ。メガネこそかけていないが結構似ている顔立ちをしている。というか、愚鈍な人では生徒会長は務まらないんだよね。
この兄弟はきちんと話し合わせれば人間関係は解決するのだが、お互い避け合っているので、この二人の仲を取り持つイベントが結構面白いのだ。わざと一緒の空間を作らせるのを何回か実行すれば勝手に仲直りをしてくれるのだ。
お互いのわだかまりが無くなった後、カシムーンはボルドー家を支えるという決断をするんだよね。
これを主人公が行うことで好感度が上がるのだ。ってか、このイベントのことはスウに話した。結果がこれだ。
「まず、ボルドー家のことについて助言をいただいたのがドカーケ子爵と聞き感謝申し上げます」
カシムーンがそう言って頭を下げている。確かに私はボルドー家の問題の解決をしておくようにとナッカとスウには伝えたよ。なぜならこの兄弟の仲が悪いと違うイベントが発生するからだ。
ソリューンは3年生なのだ。1年以内にこの二人の仲を解決させておかないと、カシムーンは休みのたびにボルドー領に戻ってしまうのだ。そうなると信愛度を上げるのがかなり難しくなる。おそらくアンネはこの対応をレアアイテムで対処すると思ったんだよね。
だから、先にイベントを消化してナッカ、スウとの距離を縮めてもらおうと思っていたのだ。
「いえいえ、お互いすれ違っているだけだと思っていたので助言をしたまでです。実際に行動をしたのはカシムーン。あなたでしょう」
つい、ゲームにあるセリフを言ってみた。というか、つい反射的にそう言ってしまったのだ。
「私は兄と話し合いました。兄は優秀です。だが、ボルドー家はかなり厳しい立ち位置にもいます」
そりゃ、第二王子派閥だものね。確か第二王子の乳母がボルドー家ゆかりの人らしいのだ。そのため、ボルドー家は第二派閥に属している。ただ、ロンベルト王国の今の主流は第一王子派閥であり、その抑止力として第三王子派閥があるのだ。
第二王子派閥は弱い立場だ。その力をレイリアは取り込もうとしている。中立だったロードスタ家はカカオの加工という産業を手にした。
ボルドー家も何かを手にしたいと願っているのは知っている。なぜかと言うとドカーケ領への視察依頼が来るからだ。
見に来るだけならいいじゃないかと思うかもしれない。だが、ドカーケ領はかなり機密が多い。
それにここ最近はカグーイ王妃のおかげで別荘を建てる貴族が増えたのだ。もちろん、ドカーケに別荘を作る許可はドカーケ領主が出すのだが、建造物の許可はグルニクル家になる。
まあ、簡単に言うと第一王子派閥の人たちしかドカーケに別荘は作れないのだ。そして、温泉やマッサージ。新しい化粧水や乳液も数が少ないので限定販売となっている。これも第一王子派閥にしか広がっていないのだ。
ただ、格差をつけないためにカカオがあるのだ。カカオの原産地は第三王子派閥筆頭のルークセニヤ公爵だ。
そう、第二王子派閥には今の所何も恩恵はない。唯一あるのはユーラシア王国とのパイプだが、ここ最近ドカーケもかなり懇意にしてもらっている。
まあ、安く購入させてもらっているユーラシア王国の鉱石はドカーケ領の外に出ませんがね。売れば利益が出るのはわかっているけれど、ドカーケ領内ですべて消費できているのだ。それだけ資材をドカーケは求めている。
カシムーンは続ける。
「かといって、いきなり鞍替えをすることもできません。ボルドー家はユーラシア国と海洋取引をしていますから」
ルークセニヤ領と共に港町で有名なのがボルドー領だ。ルークセニヤ領との違いは軍港でないということだ。その理由は一つだ。ルークセニヤ領は平地が多いが、ボルドー領は傾斜が多く、物流に難があるのだ。
だから港湾工事も進まないし、山間部が多いため小麦の生産も少ないのだ。
「それに私は知ったのです。学園に来て私が知っている世界は狭いのだと。ボルドー領は山間部だから発展させることはできないと思っていた。だが、ナッカ殿に言われ、海もない山しかないドカーケ領が栄えていると言われました。その理由も。その発展にはドカーケ子爵の柔軟な発想があったと。今では学園ではナッカ殿やスウ殿から色々と学ばせてもらっております。だが、その知識もこの地に来てまだまだ足りないものだと痛感しました」
なんかカシムーンの目がおかしい。これ洗脳されていないか?大丈夫?私はスウを見たらサムズアップされた。あ、これ絶対に洗脳というか調教済みでしょ。うん、理解した。
カシムーンはさらに続ける。
「私はドカーケで学びたい。未知を既知に変えたい。だが、私がボルドー家のままであれば、ドカーケは私を受け入れない可能性が高い。それに、習得した技術や知識をボルドー領に使うのではと思われるかもしれない」
いや、別にかまわないけれどね。技術を独占なんかしたら妬み買うだけだし。というか、結構レイリアとカチュアには色々と伝えているけど、第二王子派閥のボルドー家には情報いかないのかも。こればっかりは私にはどうしようもない。ごめんね。
「だから、私は家族と婚約者であるベスト―ニャとも話し合いました。そうするとベスト―ニャからもこう言われたのです」
私はベスト―ニャを見た。ベスト―ニャは猛禽類を思わせるような鋭い目つきをしているのだ。長い髪を一つに括っているため余計に目つきが鋭く見えるのだ。
前髪は作られていない。おでこ全開のおでこちゃんだ。髪はカシムーンより明るめの薄紫の髪をしている。それと大きな輪のイヤリングをしているのが特徴だ。
「はじめまして。ベスト―ニャ・リーン・ポリシティと申す。父がお世話になっている」
ベスト―ニャが頭を下げたが、会釈程度だった。本当は頭を下げたくないのが良くわかる。そう言えば、このベスト―ニャお抱えの奴隷狩りを狩ったのを思い出した。簡単な相手と思っていたんだろうな。ごめんね。あなたの部下だった人たちは北の要所でもう別人のようになってますよ。
「ポリシティ商会とは今後もよいお付き合いができればと思っています。ドカーケに支店も出していただいておりますし」
結構な出資もしてもらっている。多分それ相当の相手が支店長として着任するだろう。
「ええ、私が卒業したらドカーケ支店に赴任するのでよろしく」
はい?ドウイウコトデスカ?
「そうなんですね。それは楽しみです」
ってか、このベスト―ニャは絶対にトラブルを起こす。野心家だし自信家だし、それにカチュアにものすごくライバル心を抱いているそのカチュアは頻繁にドカーケにやってくるのだ。もめそうな未来しか見えない。
「そう、婚約者がドカーケで働くのなら私もドカーケで働きたい。士官は可能でしょうか?」
カシムーンがそう言って来た。なるほど。それでこの流れなのか。ナッカを見る。
「姉上。カシムーンは優秀です。是非とも検討ください」
文官候補は確かにありがたい。というか、カシムーンなら代官が務まるのではと思っている。ただ、ポリシティ商会の支店があるのがセントラルドカーケなんだよな。任せるなら西だろうな。
東はカシャーク領と川があるが接しているので色々と起きそうだし。
「わかりました。ただし、このセントラルドカーケでの勤務でなくなります。それについてはいかがですか?」
「大丈夫だ。カシムーンが赴任した先に新たにポリシティ商会の支店を作る」
まあ、ベスト―ニャとカチュアの激突が避けられるのならそれはそれでいいか。でも、簡単に支店を作られるのもまた違う気がする。それにウエストドカーケにそこまでの土地余っていないよ。
区画整理では厳しいから上に建物を伸ばすか。マナナンガルならできるだろう。それにウエストドカーケの地盤はちょっと固いらしいから上に建物を伸ばしても大丈夫だろう。とりあえず代官候補ゲットしたと思っておこう。
色々と雑談も終わり、カシムーンとベスト―ニャも退席した。というか、あの二人もかなり仲いい感じになっていてびっくりした。退席してからナッカがこう言って来た。
「姉上が言われていた仮面の男ですが、モカグリーン嬢の協力を得て無効化しました。ただ、仮面は壊せましたが、当人がベスト―ニャの騎士にそのままなりました。どうやら愛着が湧いたらしいです。ちなみに、一度手合せをしましたがそこまで強くなかったですよ」
ナッカが優秀過ぎる。というか、あの愚弟がここまで成長するのかと思った。いや、スウ、こっそり横でサムズアップしなくていいですよ。スウが頑張ったのは知っていますから。
次の来客は想定していた相手だ。モカグリーンとメリドだからだ。週に1回のペースでこのドカーケにやってくるからね。といっても逢引の邪魔はしていない。監視役にメイドを一人つけているけれどね。
メリアンネが一押ししたメイドだ。メイドという雰囲気が一切しないが。ちなみに、どういう雰囲気かと言うと気配がまったく感じられないのだ。
名前をクレアという。基本的にモカグリーンを見張らせているのがこのクレアだ。クレアは実はグルニクル家の遠縁だ。
そう、クレアは転移魔法が使えるのだ。だが、転移できるのは自分だけ。誰かを転移させることはできないのだ。どうしてこのクレアを思い出したかって。そりゃ、モカグリーンとメリドが部屋に入って来た時にうっすらとクレアの気配を感じたからだ。
集中してようやく感じられる気配。しかもしているのは隠密行動。これってメイドじゃなく忍者だと思うんだよね。
ただ、この世界に忍者と言うジョブが存在しないんだ。悲しいことに。まあ、この二人を呼ぶと言う事はこの場にもう一つ呼ばないといけない人がいる。
そう、マナナンガルだ。




