~SS「お盆イベント03」~
~SS お盆イベント03~
今日は盆踊りの日だ。といっても、この『剣と魔法のストーレンラブ』の世界には浴衣はない。ないのなら作ればいいじゃないとか思ったあなた。どこにそんなお金があるんですか。ドカーケは貧乏なんですよ。ぎりぎりで生活しています。
盆踊り会場に行く人は大体動きやすい服装をしています。スキニーパンツにTシャツのです。
時代感とかぶっ壊れているけれど、気にしたら負けなんです。そういうゲームですからね。浴衣って結構ニーズあると思うんだけれどな。どうして運営はそこに力入れなかったんだろう。そう思っていました。会場につくまでは。
まず、いつもはドレスかワンピースを着ているソフィアがピンクのフリルがついたシャツにハーフパンツなのだ。むちっとした二の腕が見えている。ついつまんでしまった。それに、すべすべの太もも。これは極上ですぞ。
「ちょっと、キールちゃん。どうしたのよ?」
「ごめん、ちょっと違う世界に行っていたわ。もうちょっとで戻ってこれなくなるかと思った」
そう、これはまだ序盤だった。次はレイリア様だ。制服姿もいいけれど、白いドレスやワンピースなど貴族という感じなのに、白いTシャツに金色で魔方陣の一部が描かれている。
ってか、あの魔方陣って防御系だよね。しかもちゃんと発動するタイプ。ズボンはスキニージーンズだ。足が細いからそのすらっとした体形がめだっていい。大きめのイヤリングもアクセントになっている。
なるほど。普段と違う服装を見せることがこのイベントのコンセプトなんだ。単純に浴衣を着せておけばいいだろう的じゃないことにびっくりした。
カチュアはなんというかロリポップな感じだ。ピンクとブルーというビビットなカラーのTシャツにダメージ加工したジーンズなのだ。しかもジーンズには小さい魔方陣が書かれている。これもおしゃれだ。多分、この魔方陣も単なるデザインではなく、ちゃんと効果があるやつなんだろうな。
シルヴィアはすごかった。Aラインのワインレッドのミニワンピにズボンなのだ。いつも凛々しいからこそ余計にかわいく見える。
わが人生に一片の悔いなし。手を挙げてガッツポーズしたくなった。
「ああ、お待たせ」
振り返るとそこにはルーファス王子がいた。金髪碧眼。黒いシャツに金の刺繍で魔方陣が描かれている。しかも、いつもはしていないサングラスをしている。ズボンはジーンズ。そしてチェーンがついている。不良っぽい。いつも優等生なのに、このギャップは何?
こういうギャップに弱いのよ。ルーファス王子って受け担当でしょ。こう強そうに見えて押し倒される展開が楽しみです。好物です。
「ああ、こういう恰好はなれないな」
赤い目に赤い短髪のレオニードがそこに立っていた。白いシャツに赤で十字が描かれている。ああ、ただの赤じゃない。黒く淵どられている。よく見ると黒いのは文字だ。防御特化が組み込まれている。ズボンは真っ黒。筋肉質だからシャツから見える二の腕がたくましく見える。
「そうだね。こういう服装ってなれない」
青い髪をくくり肩に少しかけているのはターメリックだ。紫のボーダーシャツに白いズボン。元々線が細いからボーダーシャツを着ても太く見えない。いや、それでも細く見える。よく見たらそのボーダー柄にも文字が書かれている。こっちも防御特化か。
あれ?私って地味じゃない?そう思っていました。もじもじしながら出てきたアイルを見るまでは。
オレンジのショートカットのアイルは白い無地のシャツにカーゴパンツだ。アイルの武器はそのたわわな胸だ。私は絶壁だからこそ思う。服でごまかせなくなるとそれだけで辛いのだ。
「結構な人数だな。はぐれたらここで待ち合わせしよう」
中央広場前にある銅像。魔物を倒す英雄の銅像だ。おじいちゃんがモデルなんだよね。恥ずかしい。
出店が並ぶ中央広場に向かいました。周りは人、人、人です。でも、今日の私はソフィアがいます。ソフィアの腕にしがみつき歩いています。
「キールちゃん。暑くないの?」
そんなの関係ない。そんなの関係ない。この二の腕は誰にもやらぬ。
「暑いけれど、夜だと涼しいよね」
ちょっと暑いけれど、こんなにソフィアに堂々とくっつけることはそうない。平和だなって思っていました。レイリア様に声をかけられるまでは。
わかっていましたよ。アイルの監視ですよね。してますよ。本当はソフィアと一緒がよかったのに、アイルに「一緒にまわりましょう」って声かけましたよ。断られましたが。
「キールちゃんも大変だね」
ソフィアがねぎらってくれるだけで頑張れます。もう、どこまでも。
ただ、レイリア様が思うほど今日のアイルはルーファス王子を狙っていないように感じます。どちらかというとシルヴィアとまわりたいみたいです。
「射的勝負しないか?」
「いいでしょう。受けて立ちます」
という感じで挑んでいます。まあ、ルーファス王子を狙うならシルヴィアと仲良くなる必要がありますからね。この夏祭りイベントはシルヴィア、レオニードと仲良くなるにはかなりいいイベントですから。
「ねえ、キールちゃん。私あれやりたいの」
私の天使であるソフィアが指さしたものはヨーヨー釣りでした。というわけで二つゲット。水風船をぽよぽよさせて遊んでいます。
何事もなく平和だと思っていたら聞いたことがある大きな声が響き渡った。
「ちょっと、おかしいじゃない。これって外れ無しのくじよね」
ガイアク侯爵令嬢が何やらもめています。くじ引きですね。あんなの当たりません。みんな知っています。しかも宝石やアクセサリーとか、こんなところで当たる方がびっくりです。
「嬢ちゃんさあ、こっちだって商売なんだよ。わかるよね」
わかってください。わかるべきです。わかろうよ。いいからわかれ。
「この王都でこんな商売を認めたらダメです。ロンベルト王国がダメになります。そう思いますよね。ルーファス王子!」
あちゃ。一番ふったらダメな人にふりましたね。レイリア様の表情が無になっています。ルーファス王子は苦笑いしています。ルーファス王子も腹黒と言われていますからうまいこと解決してくれるだろう。
「ガイアク侯爵令嬢。今日はお祭りです。祖霊に感謝をして、私たちが平和で元気なことを伝える場です」
ルーファス王子ははぐらかそうとしている。もっと良い手があるかも知れません。
「だからこそです。悪は倒さないといけません。そう思いますよね」
悪って何だろう?この場合だとガイアク侯爵令嬢かな?
「とりあえず、ここで話していたらほかの人に迷惑だから移動しようか」
「しません。この悪をのさばらせるわけにはいきませんから」
仕方がない。どうにかするか。私は二人に近づきながらこう言った。
「このビーズのアクセサリーってかわいいですよね。もらってもいいですか?」
ガイアク侯爵令嬢がゲットしたアクセサリーをねだりに行った。びっくりしていた。ええ、空気読まないですよ。レイリア様が目で私に訴えているんですから。
「あなた、こんなのが欲しいの?」
「ええ、ほしいですわ。今日の雰囲気にぴったりですもの。そう思いませんこと?」
私の問いかけにソフィアも乗ってきてくれた。
「そうですね。このピンク色のもかわいいと思いますわ」
ガイアク侯爵令嬢は5回くらいくじ引きしたみたいだ。とりあえず、その中でも外れそうな二つを選んでほめてみた。
「なら、あげるわよ。こんなのがいいなんて。本当に」
そう言いながらガイアク侯爵令嬢は離れていった。よかった。
「あんがとな。嬢ちゃん。さすがにいいのはあげられないがお礼にこれをやるよ」
そう言って店主が渡してくれたのはターコイズブルーの石だ、しかも未加工。大きさはあるから加工すれば色々使えるかも知れない。
「お気持ちだけ受け取っておきますわ。だって、私は特に何もしていませんもの」
欲しいがここで受け取ると大変だ。だって、ここは学園内の中央広場。周囲にいるのは学生。特別に何かをもらってしまうより断った方が安全だ。誰がどこで見ているのかわからないですしね。特にガイアク侯爵令嬢のお友達に見られたら後が大変です。
「ああ、そうか。なら1回だけサービスで引かせてやるよ」
引いたのは12等のビーズアクセサリーでした。さっきガイアク侯爵令嬢から分捕ったやつの色違いですね。そんな予感していました。はい。
いたって平和な夜店を通り抜けると、櫓があり、周囲を取り囲み踊っている人たちがいた。私はどうしても夜会のダンスは苦手だけれど、この夏祭りの踊りは好きだ。
なぜかって?
そりゃ、知らない脂ぎったおっさんに抱きしめられることもない。一人で踊れるからだ。適度な距離って大事だよね。横にいるのはソフィアだ。癒し系だよね。踊りながら水風船がぽよぽよしている。平和だ。
すでにルーファス王子とレイリア様は貴賓席に移動されている。もちろん、その場所に入れるのは限られた人だけだ。アイルは招待されていないから入れない。
あの場所に入るにはルーファス王子とのイベントをいくつかクリアして、親密度を上げておかないといけない。けれど、周囲に味方が少ないと妬まれるのだ。
というわけで、アイルを見ると、今回はターメリック、カチュアと一緒にいるようだ。何やら輪投げで盛り上がっているみたいだ。輪投げに戦略があるのかわからないが二人のメガネ組はカーブを描きながら投げている。意味不明だ。だが、勝率は高い。
楽しいひと時。そう、思っていたらどうやら貴賓席で何かがあったらしい。
トラブルメーカーは何人か存在する。アイルは無自覚だから扱いが難しい。ガイアク侯爵令嬢とかは悪意があるから対応が解りやすい。
「騒がしいね」
「大丈夫だよ。だって、レイリア様にはシルヴィアが付いているから」
私は踊りながら周囲を観察していた。そういう癖が何故か身についている。レイリア様の後ろにひっそりとシルヴィアとレオニードがいたのだ。本当の騎士みたいだ。騒がしいのは貴賓席の入り口付近だ。そこにいたのはパワハーラン子爵令嬢だ。
あの人は面倒な人だ。できれば関わりたくない。女性だが、顔立ちが男性っぽい。いや、男性にしか見えない。短髪だからなのか、骨格からなのかいかつい顔をしているのだ。
顔だけではない。体系もそうだ。どうしてか女性というより男性のように見える。それくらい鍛えているのだ。
だが、剣技などの授業ではシルヴィアには勝てない。パワハーラン子爵令嬢は力任せに剣を振り回しているだけにしか見えないのだ。
今だってそうだ。係員をつかんでは押し返しているだけだ。
「ちょっと近くに行ってみようか」
野次馬的な思いで私は移動した。気が付くとアイルも横にいた。
「何があったんだろうね」
「なんとなく想像つきますが」
入り口付近でパワハーラン子爵令嬢が叫んでいた。
「ちょっとこの付近で休憩していただけじゃない。中に入っていない。何が問題なのよ!それにあなた。私を押したでしょ。怪我したらどうしてくれるの。あ、服汚れているじゃない。責任とれるの?どうなの?」
相変わらずだ。パワハーラン子爵令嬢はこうやってまくし立てて相手を困らせて楽しむ癖がある人だ。関わりたくない。絶対に。他の人も適度な距離を取って見守っている。
そう思っていたら空気を本当に読まないアイルがパワハーラン子爵令嬢に向かって歩いていった。
「ねえ、この場所で休憩ってなにもないよ。なんでここに来たの?」
いや、貴賓席から出てくる人を捕まえたいからでしょ。パワハーラン子爵令嬢は婚約者がいない人ですし。まあ、そういう意味ではアイルも同じなんだけれど、アイルはちょっとつかみどころがないからな~
「ど、どうだっていいでしょ。それより、何よ。あんたもここに来たってことは誰狙いなのよ?」
それ、聞いちゃいます?アイルは確実にルーファス王子狙いですよ。行動見ていたらわかりますもの。その無謀っぷりとダメっぷりをどう伝えたらアイルが理解するのか毎日頭を悩ませていますもの。
「誰って?ここに誰もいないじゃない」
はい、見事に会話かみ合っていません。大丈夫なのかしら。
「これから出てくるじゃない。ここで騒いでいたら悪目立ちするのよ。もう、関係ない人はどっか行ってよね」
いや、騒いでいるのはパワハーラン子爵令嬢ですよ。その見物に人が集まっているだけです。そう、思って見守っていたらシルヴィアがそっと私に近づいてきた。
「これ、長引きそうか?」
うん、吐息が首筋に当たります。恋に落ちていいですか?
「多分、まだかかるんじゃないですかね?」
そう言うとシルヴィアが困った表情をしていた。
「実はな、そろそろお開きをしてレイリア様が自室に戻りたがっているのだ。そのちょっとその前に花摘みに行きたいそうなのだが、その時間がかかるのはちょっと困るんだよ」
トイレですね。生理現象は仕方ありません。これを速攻で解決しなきゃいけないんですか。溜息しか出ません。乗り気じゃないですが、行きますか。
「パワハーラン子爵令嬢。残念ながらすでに目立っておられます。人も集まってきてしまっています。だから」
「だから、何よ。あんたたちがどっか行けばいいだけでしょ」
仕方がない。
「アイル、行きましょ。それにここに私たちがいるため、貴賓席の人たちは違うルートから移動される可能性もありますしね」
確かにそういうルートもある。それは襲撃されるとか、何か事件があった時のための別ルートだ。父親であるリックから教わったことがある。
「え?ちょっと待って。それってどういうこと?」
そりゃ、パワハーラン子爵令嬢としてはここで騒いだ結果、お目当ての人が違うルートで移動している可能性があることを初めてしったのだ。
「警備上、違うルートについては開示されていないけれど、考えたらわかるでしょ。それにほら、警備している人たちの顔を見たら私が言ったことが真実かどうかわかるんじゃなくって」
私はパワハーラン子爵令嬢に笑顔で話しかけた。優しく、ゆっくりと。警備している人たちは素直だ。目が泳いでいる。
「もう、時間を無駄にしちゃったじゃない。やってられないわ」
パワハーラン子爵令嬢が大股歩きで動き出した。ふ~よかった。
「ありがとうございます」
警備の人にお礼を言われた。いや、あなたのためにやったんじゃないんだからね。なんかツンデレみたいなセリフだ。だって、ちょっと離れた所からレイリア様の視線を感じたからだ。
まあ、公爵令嬢が学園の片隅で事を済ませるなんてことできませんものね。優雅に、でも素早く歩かれるレイリア様も素敵です。声はかけません。お急ぎですものね。理解しています。
夏祭りも平和に終わりを迎えた。後は送り火だけだ。
もう、何も起きないよね。そう信じたい。
まだ続きます。
浴衣は回想(SSシリーズ)ではなく本編でいつか掲載します。




