~フィーバルとお話ししました~
~フィーバルとお話ししました~
「というわけで、ロッテンはクルル商会所属からドカーケ所属になったから」
雪はまだ若干残っているけれど、カチュアは定期的にドカーケに来てくれるようになった。新しいスコーンを食べたらすぐに「レシピ」を求めてきたけれどね。
というわけで、新作のスコーンを食べながらカチュアはフィーバルを呼び出してロッテンの所属が変わったことをさらっと伝えていた。
今回は新作スコーンじゃないけれどアンは後ろに控えている。アイルはこっそり後ろで食べている。
小さく作りこんだクッキーもどきはおいしそうだ。お菓子のカントリーマアムっぽい感じに仕上がっているんだよね。一個食べたけれどおいしかった。ちなみに、その試作品はカチュアには出していない。
「そうですか。それで僕はどうなるのですか?」
フィーバルは不安そうにカチュアを見ている。
「このままよ。このままドカーケで知識を得て、経験してもらって、後でクルル商会のために活躍してもらうのよ。そうね、できればキールがどうやって新しいものを考え付いているのかを盗み出してほしいかしら」
え?それを本人目の前にして言います?そう思っていたらカチュアが私に向かってこう言ってきた。
「だって、キールってごまかすの上手でしょ。学園にいた時はまさかこんなに化けるなんて思いもしなかったもの。私ですら見抜けなかったんだから。そんな相手なんだから誰かが側にいた方が効率的でしょ」
そう言ってスコーンを食べていく。おいしそうに食べている。
「お言葉ですが、キール様を見ていても発想の瞬間はわかりません。僕には荷が重すぎます。それに、僕はロッテンを支えるよう言われてユーラシア王国を出てクルル商会に所属したはずです」
そうだったよね。フィーバルってサブキャラだったから扉絵コンプ以外でそこまでイベント回収していなかったのよね。いや、したと思うけれど記憶があやふやなのよ。ちょっと興味外だったし。それに気が付いたら勝手に攻略が終わっているキャラなんだよね。
かわいいキャラで、知的キャラだけれど、クールキャラじゃないし、どちらかというと守ってあげたいタイプなのよね。正直私のタイプではない。
「だから、ロッテンはもうドカーケ所属よ。そしてあなたはクルル商会所属。だとしたらあなたがやることはクルル商会に益をなすことだけよ。それだけ。もう、同じこと言わせないで非効率だわ」
あ、やばい。メガネを拭きだした。これはカチュアの機嫌が悪い証拠だ。このままだとフィーバルに何かが起きる。
というかドカーケに影響が起きるようなことはしないで。お願いだからね。
「簡単に言うとフィーバルは期間限定でドカーケにいるけれど、ロッテンはこの先もドカーケにいるという感じね。フィーバルはそれとも、ずっとドカーケにいたいの?」
「居たいです」
断言してきた。あれ?フィーバルのイメージってなかなか決断できないキャラだったのに。おかしいな?
「あら?ロッテンだけじゃなくフィーバルもキールはほしいって言うの?この子は優秀だからあげたくないのよね。報告書もまとまっているし、私が知りえなかった情報もあるのよね。例えば、今アイルが食べているものなんかの情報ももらっているわよ」
カチュアがそういってアイルを見つめた。こっそり食べていたのにばれてしまった、やばいみたいな顔しているけれど、そもそも護衛騎士がこっそりおかしを食べている方がダメだからね。
「しょうがない。アン。まだ余っているわよね。カチュアと私に出せるようにして」
「レシピもお願いね。改良前のレシピしかフィーバルはいつも入手できないのよね」
アイルが改良すると画期的に変わるのだ。その過程はすごいものだ。パンとかもちゃんと酵母が含まれてふわふわになっている。
けれど、私が愛して止まない日本食は再現できない。まあ、米もなければ、醤油も味噌もない。うどんっぽいものは再現できたけれど、塩、鶏がら、とんこつ、にぼしから出汁はとってくれたけれど、醤油、みりんなどがないから『もどき』にもなってくれない。
まあ、鍋はいい感じでおいしいのができたけれど、牛乳ベースの鍋とか日本食という感じが全然してくれない。まあ、おいしいから問題ないけどね。ただ、米が食べたいだけ。
「まあ、それは仕方ないですよ。レシピを渡さないからカチュアが会いに来てくれるじゃない。私はそれがうれしいのよ。いつもありがとう」
そう言って私はダンデ茶を飲んだ。手にはカントリーマアム風のクッキーがある。かなり再現できていると思う。チョコチップもおいしい。カチュアとの信愛度は大事だ。もし、マイナスになってしまったらドカーケ領が大変なことになる。
「本当に、キールは無自覚だから困るんですよね」
カチュアは少し顔を赤くしてこういってきた。あれ?何かあったかしら。まあいいか。
「何のこと?でも、このチョコを入れたのいいでしょ。まあ、値段が高くなってしまったから大量には作れないけれどね」
大量に作れないはずなのに、なぜかアイルは大量生産をしている。なぞだ。
「そうね、チョコレートの改良レシピをアイルからもらったおかげでかなり楽に作れるようになったものね」
ん?そんなこと指示したっけ?そう思っていたらアイルが「どうしても食べたくて提案しました」と小声で言ってきた。チョコレートが広まるのはいいことだ。
「それで、フィーバル。あなたはどうしてドカーケに移りたいの?ロンベルト王国随一の商会を出て片田舎に行きたいなんて意味不明よ」
そうそう。私もそう思っていた。ロッテンと違ってフィーバルはユーラシア王国に戻ることだってできるはずだ。
「ドカーケというわけではありません。私はキール様の側にいたいのです。この人の発想は僕にないものばかりです。そして、新しいことを立ち上げる、作る楽しみをずっと経験させてもらえます。だから僕はキール様の側にいたいです」
まあ、新しいものに着手はいっぱいしている。最近はタケノコ狩りの後に作ったペペロンチーノ風パスタとかはまったしね。
特にアイルが。タケノコは結構な量を収穫したから領内でも人気メニューになったね。これで、お好み焼き風のドカーケ焼きに引き続いての名物料理ができたのだ。
後は道路整備も進んでいる。この後はハッサムと共に移動を開始する。といってもセントラルドカーケに行って、一度ノースドカーケ、そしてさらに奥の北の要所への視察も行うのだ。この時にクロスボウとバリスタの納品と運用テストを行うのだ。
北の要所にはスティーブの父親もいるらしい。挨拶をしないとって思っている。
「ふ~ん、新しいことね。まあ、キールのおかげでクルル商会も新しいことをいっぱいするようになったのも事実だけれどね。そうそう、レイリア様が言っていたけれど、あの噂はどうなの?ちゃんと手は打ってあるのかしら?」
ドカーケがロンベルト王国に対して反意ありという噂だ。これはユーラシア王国の暴走でもあるのだけれど、どう解決させるのか決まってはいない。
「出所はわかっているのだけれど、まだ対処ができていないの。というか、出所はユーラシア王国なのよね。どうしたらいいのかしら?」
「出所がわかっているのなら、そこを攻めればいいじゃない。なんだったら、そこにいるフィーバルを使えばいいじゃない。フィーバル。たまには祖国に帰ってみたいよね。ちゃんと従者も付けてあげるし、家族にも会わせてあげるわよ。まあ、その家族はちょっと大変なことになっているでしょうけれど」
そういうとフィーバルはわかりやすいくらい反応した。ロッテンの家族は確か投獄された後に死亡したというのはゲームの中で知っている。
けれど、フィーバルの両親については知らない。いや、何かあったはずだ。確かそう。
「貴族位をはく奪され、使用人となっていると聞いています。その貴族に会いにいけというのでしょうか?」
フィーバルはカチュアをにらんでいる。だが、その怒りを抑えるだけの冷静さはあるみたいだ。いや、すでにアイルがフィーバルの後ろに移動し、フィーバルの肩をやさしくたたいている。だが、殺気も出ている。これは何かあったら倒すという合図でもある。
「そんな無意味なことはしないわよ。ただ、ちょっとユーラシア王国に入り、噂をもみ消してきてくれたらいいんじゃないかしら。といっても、フィーバルだけじゃ困るから誰かサポートが必要だろうけれどね。それに先に情報を取って置いた方がいいわよ。後で何が起こるかわからないしね」
なるほど。確かに出所がわかっているのなら対処方法として誰かを送り込むのも一つか。
「でも、どうしてフィーバルなの?」
「だって、そりゃこの子ドカーケ所属じゃないでしょ。今ドカーケの誰かがユーラシア王国に入って暗躍なんてしているなんて噂が広まったら大変なことになるわよ」
そうなのだ。だからうかつに動けなかったのだ。というか、提案したらスティーブに止められたのだ。
「でも、カチュアいいの?」
「いいわよ。だって、優秀って言ってもいっぱい私の周りにはこの子レベルの子ならいるからね。それに、ちょっと個人的に知りたいのよね。今回の噂は何かがおかしいから」
ユーラシア王国の動きは元々ゲームで決まっている。それにドカーケが巻き込まれるだけ。ゲームの流れだから回避できないと思っていたけれど、そうじゃないのかもしれない。
「ねえ、クルル商会は表立って動いて大丈夫なの?」
「ダメに決まっているじゃない。ウルグ商会があるでしょ。あそこをうまく使いなさい。特にウルグ商会のトップは切れ者だから安心できるわ」
ウルグ商会のトップはセアドではない。セアドから聞いている。セアドの祖父がかなりの切れ者でまだまだ現役だということも。
「というわけだから、修行だと思って頑張ってきてね。その間にロッテンがそろそろ独り立ちできそうでしょう。もう、色々と気を遣う必要もなくなっただろうしね。あの子」
カチュアが怖い。どこまでわかった上でフィーバルとロッテンを送り込んできたのだろう?そして、どこから情報を得ているのだ?
「ありがとうございます」
とりあえず、困ったときは感謝するのが一番だ。フィーバルについてはセアド経由でお願いをしたらすんなり承諾が得られた。私も春のうちにやらないといけないことを片付けていこうと思ったのだった。




