動き出した物語。4
「ジョシュア。今日から君のお姉様になる、ソフィアだ」
ついにこの日がやって来た。
お父様の後ろで、不安そうにこちらを見るジョシュア。
まあ、大変!
1つ違うだけのはずなのに、もっと幼く見える。
身体も小さいし、痩せ細って、肌や髪がガサガサだわ。
「はじめまして。貴方の姉のソフィアよ。
仲良くしてね」
手を差し出して、にっこり笑うと、ビクッと震えて後ずさってしまった。
握手が嫌だったのかな。
「安心なさい。ソフィアはとても優しい子なんだ。
困った事や分からない事があれば、お姉様に聞きなさい。
もちろん、お父様でもいいぞ」
下を向いたまま固まったジョシュアに、お父様はしゃがんで話しかける。
彼は、おどおどと視線を彷徨わせながらもコクリと頷いた。
「よし、まずは部屋に案内しよう!
それから身体を綺麗にして、新しい服に着替えるといい。
トゥメ、頼んだぞ」
「かしこまりました。ご案内致します、坊っちゃま」
ジョシュアはトゥメと共に彼の部屋へ。
私も一緒に行こうとしたら、お父様に止められた。
「お父様? 」
「いいかい、ソフィア。
ジョシュアはあの通り、成長が遅い。
孤児院に通うソフィアなら、理由は分かるな」
「……はい」
「接し方には気をつけて上げて欲しい。
彼は、恵まれない環境にいたせいで発揮出来なかったが、頭の良い子だと思う。
これからご飯をたくさん食べて、よく寝て、教育を受ければ、きっと化ける」
「はい」
「だから、ジョシュアが我が家で安心して、楽しく暮らせる様になるまで、気長に待ってやってくれ。
姉になるんだから、出来るね? 」
「……もちろんです!
早く健康で笑顔な姿が見たいわっ」
「そうとも! 手始めに夕食だ!
本当は豪華な食事を食べさせてやりたかったが、胃に刺激があるといかん。
今日は胃に優しいメニューのフルコースだ。
しばらくは続けなければならない。
ソフィア、我慢してくれるかい? 」
そんなのお安いご用だわ!
味のない重湯が毎日出てきたとしても、耐えてみせる!
可愛い弟のためだものっ。
「お任せ下さい! 」
「ありがとう、ソフィア。
では我々も部屋へ行こうか。
ジョシュアが気に入ってくれるといいんだが」
きっと大丈夫よ、お父様!
だって、男の子がいる領民達に聞き回ってたものね。
ふふっ。みんな言ってたわ。
「領主様が初めての息子にはしゃいでる」って。
家具だって、行商人にアレコレ注文して用意したんだもの。
ジョシュアは、きっと喜んでくれる!
「ジョシュア。どうだ、気に入ったか? 」
お父様が笑顔で部屋へ入ると、トゥメが苦笑して待っていた。
「どうした、ジョシュア。そんな隅で固まって」
「トゥメ、何があったの? 」
「それが、お部屋へご案内したら、この通り固まってしまわれて……。お声がけしても上の空なんです」
もしかして、趣味に合わなかったのかな。
シンプルな家具で統一してあるけど……派手好きとか?
もうっ、お父様ったら!
ちゃんと好みをリサーチしておかないと!
領民に聞く前に本人でしょっ。
「ジョ、ジョシュア……。気に入らなかったかい?
少し時間はかかるが、すぐ取り替えよう!
待っていろ、今行商人に連絡を―――いや、質や種類は落ちるが、とりあえず町の家具店に」
「そうよ、お父様!
ジョシュアに好きな物を選んでもらいましょう?
ねっ、ジョシュアもそれがいいでしょ? 」
「いえ、旦那様、お嬢様。それは何か違う様な」
違うの?
じゃあ、どうして固まってるの?
「(ダメだ、この親子。
ああ、奥様! 早く帰って来て下さいっ。私1人では不安で不安で……! というか、バークさんは何処行ったんですか!執事のくせにぃっ! いっそ、シェフにも屋敷の管理をお願いしようかしら)」
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――――――
―――
(ジョシュア視点)
俺の暮らしは、ある日一変した。
農家に生まれた俺は、完全なお荷物だった。
父さんは、畑。
母さんは、縫い物。
1番上の兄は、狩猟。
2番目の兄は、畑の手伝い。
俺は、狩りも畑も才能がなかった。
さらには、祖父さんが作った借金で家計は火の車。
働かざる者食うべからず。
何も家に貢献出来ない俺は、家事を手伝うしかない。
母さん以外は、呆れていたし。
役立たずの俺のせいで、食事が減る事を嫌がっていた。
気持ちは分からないでもない。
でも次第に減ってくご飯と、暴力に疲れてしまった。
「なあ、坊主。
俺が預言をしてやるよ。
明日の昼間、此処に来い。――そうだな。1台、馬車が通る。そのタイミングで魔法を使ってみろ」
道端で知らない黒ずくめの男に声をかけられた。
「アンタ誰?
それに何で魔法の事を知ってるんだ。
誰も知らないはずなのに」
「名前は言えないんだ。悪いな。まあいつか会えるさ、そん時に教えてやるよ。
明日だ。騙されたと思って行ってみな」
「意味分かんない。
それに魔法は? 」
「んー、知ってるから、としか言えないなあ。
お前、今のままで良いのか?
きっと人生変わるぞ。抜け出したいなら、自分で選択するんだ。
じゃーな。ヤンデレジョシュア」
「やん、で?
えっ、つか何で名前っ―――あ、おい! 待てよっ」
怪しげな男は、あっという間に消えて行った。
夢でも見たのか?
だけど、俺の名前も魔法が使える事だって知っていた。
翌日、言われた通りの時間に地図の場所へ行った。
「本当に馬車が来た……」
何をすれば良いか分からなくて、慌てて水魔法で小さな鳥の形を作ってみる。
そうしたら、馬車の中の人と目が合った気がした。
変なの。カーテン閉まってたのに。
「嘘つき」
結局何も起こらなかった。
むしろ、家事をサボったせいで酷い目に遭った。
そう、思っていた。
「ジョシュアっ! 来い! 」
10日程経った頃、朝から父さんに呼びつけられた。
また機嫌が悪いんだろうか。
居間に行くと、父さんと母さん、そして知らないおじさんがいた。
ここいらでは全く見ない、高そうな服を着て、隣には従者の様な人が付いている。
何でウチに金持ちが?
「男爵様、コイツがジョシュアです。
あの〜、兄の方が出来が良くて、コレは本当にポンコツなんですが」
男爵っ⁈
お貴族様なのか、この人!
「いいや、彼がいいんだ。
君、ジョシュアと言ったかな。どうだ、君さえよければ我が家に来ないか」
「え? 」
「男爵様! ジョシュアはウチの大事な子なんです! 」
ナニソレ、白々しい。
男爵が言ってる意味も分からないし。
父さんがニヤニヤ笑っている意味も分からない。
「それはそうだな。
この家に貸した金、全額帳消しにしよう。どうだ? 」
「それは……本当ですかいっ? それなら。
っいや、しかし! 本当に大事な息子なんです。いくら借金を帳消しと仰られても」
借金がなくなる?
どうして父さんは渋るんだ?
これで生活が楽になるのに。
「大事、か。
(とてもそんな風には見えないが)分かった。少しばかり謝礼も贈ろう。但し、それ以上であれば、この話はなかった事にする」
「へっ⁉︎ いや、そんな! とんでもない。充分です!
なっ、ジョシュア。さあ、ご挨拶なさい。これからお前がお世話になるお方だ」
俺がお貴族様の家で働くって事?
大丈夫だろうか。
「どうだい、家には妻と娘がいてね。妻は実家の用事で今はいないが、2人とも優しいから心配ない。
娘のソフィアは可愛い子でね。いい姉になると思う」
姉?
子供が生まれるのか?
俺は、その子供の世話をすれば良いんだろうか。
「あ、の。俺は、何をすれば良いんでしょうか」
「ん? そうだな、まずは生活に慣れてもらって、追々勉強はしてもらおうかな。あとはマナーやダンスも習って……とりあえず、そのくらいだ。ひとまずは」
「勉強、させてもら、えるんですか? 」
「おや、勉強が好きなのかい?
それは素晴らしい。ラカンスター家の子になるんだから、基礎は身に付けないといけないからね」
「ラカンスター家の、子? 」
「そうだよ。君には私の息子になって欲しいんだ」
息子………そうか、父さんは俺を売るのか。
さっき渋るフリをしたのは、借金だけじゃなくて、もっとせびろうとしたんだ。
だから珍しく俺にニコニコ笑ってるんだ。
俺は何をさせられるんだろう。
でも断ったところで変わらない、か。
「……分かり、ました。一生懸命頑張ります」
「おおっ! そうか! ありがとう。
では、来週迎えに来よう。すまないが、それまでに準備と別れを済ませておいてくれ」
「は、い」
「だ、男爵様!
出来の悪い息子ですが、宜しくお願い致します。
その、もしご期待に添えなかった場合、借金の方は――(コイツがドジ踏んだら、金もなかった事にされかねない!)」
「はあ。安心したまえ。反故にする事はない。
しかし、この家とジョシュアの関係は切ってもらう。いいな」
「はいっ、もちろんです! 」
「父さん……」
こうして俺は、ラカンスター邸の前に立った。
田舎の男爵領だから、気負わなくて良いって言ったのに。
男爵の嘘つき。
立派な屋敷じゃないか。
しかも中から、美少女が出て来た。
そしてパンクした。
部屋に案内された。俺専用らしい。
ふかふかなベッドや机、鏡まである。
やはり、パンクした。狭い所で落ち着きたい。
ソフィアの性格は、9割父親の遺伝だと思います。
ちょこっと設定
〈ジョシュアの家族のその後〉
ジョシュアが抜けた後も、さほど生活は変わりません。
借金はなくなりましたが、そもそも返済が滞っていたので、帳消しになったおかげで貯金が増える!的な事にはなりません。
どんまい。




