コーヒーは嗜好性が高い。3
ロイドを紹介してからの、物言いたげな視線が辛い。
「え〜、ではこの畑の持ち主で農夫のサントを紹介致します」
ビクターさんに案内されて、畑に程近い平屋へ寄ると、中から老夫婦が出て来た。
「サントと妻のヘレンです。息子が1人居るんですが、隣町に買い付けに行っているようで。
サントさん、このお方がシルヴィア様です。右の方がユースルン家のロイド様、左の方がシルヴィア様の執事です」
「ごきげんよう、シルヴィア・フォン・ヴェルトハイムです。
私の試みに畑を提供して下さり有難うございます」
夫妻に向かって軽くお辞儀をすると、慌てて止められた。
「そんなっ、頭をお上げ下さいませ!
ヴェルトハイム公爵家の方と領主様のお役に立てるとは、光栄でさぁ。長生きするもんです」
「まあ、嬉しいですわ。
これから宜しくお願いしますね」
「へいっ」
「栽培方法を伝授して頂いた後は、このサントに管理を任せます」
キャスティングはお任せするとは言ったけど、大丈夫かしら?
敷地も広いし、老夫婦だけに畑作業だなんて。
ギックリとか、熱中症とか。
「そうですか。作業は息子さんがされますの?
1人では厳しいと思うのですが」
「ああ、いえ。力作業は息子夫婦と有志でやりますが、土の出来を決める様な仕事や、チェックは彼が行います」
「へえ、お任せくだせい。こんな大事な仕事は、まだまだ若いもんには任せられませんからの」
フォッフォと笑うサントさんは、可愛らしいお爺さんという感じで素敵だ。
が、ますます心配だわ。
ガタイがいいわけでもないし、本当に身体を壊さないかしら。
「ま、まあ。頼もしいですわっ。ねぇ、リアム(これ大丈夫なの? )」
「左様でございますね、お嬢様。
ところで土の出来と言いますと、耕す作業などもサント殿が? 少々厳しいのではありませんか」
「(そうそう!)確かに。大変でしょう? お身体が心配ですわ」
「ホホッ、ご心配には及びませんでさぁ。
そこは魔法でちょちょいと」
「ああ、なるほど。問題ありませんよ、リアム殿。
サントは緑と土の2属性持ちです」
「そうでしたか。それは要らぬ心配を。
サント殿、失礼致しました」
ええっ⁉︎ そうなの?
魔法でちょちょいとって、ココ全部?
えーマジか、魔力量すごいな。
可愛いお爺さんが一気にヤバイ人に見えてきちゃった。
「いやいやー、よく言われるんですよお。
しかし、近頃はそうやって心配してくれる人も居ませんでしたから、嬉しいもんですな。ホッフォ」
「そりゃそうですよ。貴方も息子もココいらでは有名ですからね。誰も心配なんかしません。
ですので、心置きなく扱き使って下さって構いませんので」
ビクターさん、緊張解けたんですか。
貴方の上司置いてきぼりですけど。
何か軽くショック受けてません?
「へ、へぇ〜。安心しましたわ。
私としましては、無理のない範囲でやって頂けたら十分ですから。
困った事があれば、いつでも人員を送りますし」
「おお! 本当ですか! シルヴィア嬢」
「あ、いや、あくまで栽培に関してですわよ。
だからそんなに、目を輝かせないで下さい、ビクターさん(あと、サントさんに向けて言いましたからね。コレ)」
「ぁっそうですよね。失礼致しました(しゅん)」
ごめんなさい、ビクターさん。
美形に目が慣れ過ぎちゃって、普通のおじさんが落ち込んでも萌えないの!
だから頼られても無理よ。
基準が不純と云われても構わないわ。
だって事実だから。慈善事業じゃないのよ、選り好みするに決まってるじゃない!
もちろん、コーヒーやヴェルトハイムに関わる事なら別だけど。
にしても、魔法で出来ちゃうなら便利ね。
ひょっとして、精霊達の力をそこまで借りなくても大丈夫かも。
「相談なんだけど、1カ所前倒しで植えてしまう事は可能かしら。一応、苗を持って来てはいるの」
「ホォ、構いませんよ。領主様と領主代理が宜しければ」
「いかがですか、子爵」
「ふむ。栽培に関してはさっぱりですから、全てシルヴィア嬢にお任せしましょう」
「ありがとうございます! すみません、どなたか馬車に積んである苗を運んで来て下さる? 」
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「お待たせしましたあ! 」
「皆さん、ありがとう。
では、サントさん始めましょうか。
子爵はどうされますか?
しばらく畑仕事になるので……」
絶対、暇になるよね。
私達が作業してる間、この人達ずっと立って見てるって事でしょ?
畑の中で。
「そうですな。お手伝いしたいところですが、素人の我々が居ても邪魔になるだけだろう。
よし、ビクター。我々はこの夫妻の家で待たせてもらうとしよう」
「そうですね。そうさせて頂きましょう。
宜しいですか、シルヴィア嬢」
「ええ! 分かりましたわ(むしろ助かります!)」
「ほいじゃ、ヘレンが漬けた果実酒でもいかがですかい。
ウチの妻は料理も上手でねぇ。
質素ですが、領主様もきっと気に入って下さいますよ」
ひ、昼間っからお酒ですか?
子爵も心なしか目を輝かせているし。
「うむ、ぜひ頂こう。
領民の食事を知る良い機会だ。
なあ、ビクター」
「左様でございますね、旦那様」
ビクターさんまで乗り気だな、おい。
「……ロイド様はどうされます?
子爵とご一緒されますか」
「や、オレも手伝う。
土魔法は得意だから役に立つと思うよ。
いいでしょ? シル」
「ええ、もちろん。
頼りにしてますわ、ロイド様」
「うんっ」
グハッ―――!
耳と尻尾が見える、見えるわ!
なんだか嬉しそうな顔してるし、ぽわぽわしてる。
まさかのワンコ属性にシフトチェンジですかっ!
そうなんですか!
ありがとうございますっっ‼︎
「こほん。お嬢様、あまりゆっくりされると日が暮れてしまいます」
「ハイすいません」
子爵とビクターさんをヘレンさんに任せ、私達は畑に戻った。
「ヴェルトハイム様、どれくらいの柔らかさにしやしょうか。肥料もいくつか用意してみたんですけどねぇ」
「サントさん、シルヴィアで構いませんわ。
そうね……では、ゆっくり耕してみてもらえる?
良い塩梅になったら止めるから」
正確には精霊達がだけど。
「へい。わしはサントとお呼び下せい。
いっそサント爺とかでも、フォフォッフォ―――…これぁ、失礼しました。忘れて下され」
えっ、呼んで良いの?
呼びたい。だって絵本に出てきそうな、可愛いお爺さんなんだもの。
お爺ちゃんって感じ。…何言ってんだろ、私。
「素敵ですわ! 採用しましょう。
サント爺、サントお爺様、サントお爺ちゃん……
さあっ! どれが宜しくって? 」
「ぇ、へぃ。そ、それじゃあ――――そのっ、サントお爺ちゃんでお願い出来ますかな。
息子夫婦はまだ子供がいなくて、孫にそう呼ばれるのが夢なんでさあ」
いくらでも呼ばせて頂きますとも!
なんなら、従業員全員に呼ばせましょうか!
「私のことをお孫さんだと思って、どうか気軽に接してちょうだい。敬語も要らないわ、ねっ、サントお爺ちゃん」
ぎゅっとお爺ちゃんの両手を握って訴えると、オロオロと戸惑いながらもコクンと頷いてくれた。
厳格なお爺様とは違う、“田舎のお爺ちゃん” GETしましたー! いぇーい!
あっもちろん、お爺様も大好きよ。




