コーヒーは嗜好性が高い。1
噂ってなんて恐ろしいんでしょう。
あっという間に広がった『パルフェ』での話。
なまじ、間違いじゃないだけに消しきれないでいる。
さらに困るのが、何故か否定的な声が少ないって事。
もちろん、エリオットを本気で狙っている令嬢達からの視線はキツイけど、皆んな好意的なのがおかしい。
マナー的に、あまり褒められたわけじゃないのに……。
あと、エリオットよ。
コイツが全く否定しない。
むしろ、わざと袖を捲ってブレスレットを見せびらかしている。
バカなの。噂に拍車をかけてどうするの。
恋人はどうした。カモフラージュのつもりか。
「お嬢様。今日はグラビエル領の視察日ですが、準備は宜しいんですか」
「分かってるわよ」
「イライラしているからって、俺に当たらないで下さい。
ついて行ってあげませんよ」
何故だ!
何故、私よりリアムの方が上からなの⁈
おかしくない?
ねぇ、おかしいよね。そうよね、マリエラ。
あっ、ちょっと待って。
どうして微笑みながら行っちゃうの。
マリエラ、おーい、私のお世話は?
まだ途中でしょー!
「……すみませんでした。
準備するから手伝って。動きやすい格好が良いわ」
「もう用意出来てます」
可愛らしいミドル丈のワンピースと帽子。
歩き易く、ストラップが付いたぺたんこシューズ。
派手過ぎない商家の娘スタイルだ。
ぐっ、完璧。
「髪は一つに纏めて。シニョンみたいなやつ」
「はいはい、分かりました。とりあえず着替えて下さい」
ゔぅー。
聞き分けのない子供みたいに対応された。
だいたいリアムだってエリオットと険悪な雰囲気が続いてるじゃない。
そっちを先にどうにかしなさいよ。
毎日毎日、両脇固められる私の身にもなって。
ケンカするなら、私挟まなくていいでしょ?
というか、不敬過ぎるのはやめてね。私まで罪に問われるから。
「さて、では行きましょうか」
「今からですと、約束の時間よりだいぶ早くなりますが」
「ちょっと寄ってくとこがあるから、大丈夫」
あらあら、「聞いてない」と顔に出まくってるわよ。
もう少し隠す事を覚えてくれないかな、ほんと。
「ロイド様を拾いに行くの」
「・・・は?」
――――――――――――
――――――
―――
いたいた。
「とめてちょうだい」
馬車を降りて、ボーッと突っ立つ人物の前へ行く。
「お待たせしました、ロイド様」
「ん、おはよう。シル」
「もしかして、眠れてませんの? 」
「うん。仕上げに朝までかかったから。
でも大丈夫。頼まれた物は出来たよ」
ぽん、と自分の荷物を叩いて差し出された。
これがそうなのねっ!
「ありがとうございます!
早速この後使わせて頂きますわ。
さあ、お乗りになって」
「あれ、なんだ。執事も一緒なの」
いや、当たり前でしょ。
「おはようございます、ロイド様」
「うん。ああそうだ執事君。オレの事は、気軽にユースルンと呼んでくれ」
え。全然気軽じゃない。
むしろ距離ある。
人懐っこいのか、人見知りなのか分からないな、ロイドよ。
「失礼致しました、ユースルン様」
おお、顔色変えずに対応するなんて。
やるじゃない、リアム。
「着く前までに使い方の説明お願い出来ます? 」
「いいよ」
ロイドに依頼していたコーヒーミルサー。
今までは石臼でゴリゴリ挽いてたけど、細かくなり過ぎちゃって、力加減が大変だったのよね。
やり過ぎるとエスプレッソ用になっちゃうし、時間かかるし。
そこでロイドにお願いして、改良を重ねてもらい、今日で3回目。
前回の時点で、かなり均一な仕上がりだったから、すごく楽しみ!
うふふ。ちなみに焙煎機はすでに完成している。
しかも誰でも使える様に、自動でミディアム/シティ/フレンチ/イタリアンの4段階で焙煎を調節出来る。最高!
もっと細かく調節したい時は、自分が張り付いていれば良いだけ。
まさに天才発明家の名に相応しい働き!
「え〜っと、豆を入れて中挽き、中細挽き、細挽きのメモリに合わせる」
「まあ! 中細挽きまでっ⁉︎ 」
「精度上げてたら、出来た。で、スイッチ入れたら終わり」
「つ、使ってみても? 」
「え。ここで? まあ良いけど」
「リアム、豆。豆! 」
――ブォン
明らかに電源に繋いでいないのに、電動の如く一瞬で均一に仕上がった。
「ふほぉぅー! 」
「ん゛ん゛っ、お嬢様」
「はっ、つい興奮のあまり…。
失礼、完璧ですわ! ロイド様!」
「シルに気に入ってもらえて嬉しい。
頑張った甲斐があった」
「ええ、とても気に入りました。
して報酬はいかほど? もちろん希望に沿えるよう、努力しますわよ」
「んー。シルが決めて」
それはある意味難しくないかい。
だって、私がロイドの技術に値をつけるって事でしょ?
安過ぎても高過ぎても良くない。
かと言って相場も分からない。
それに元からある物じゃないし。
う〜ん、この電動の様な仕上がりって、ロイドの魔法が埋め込まれているからなのよね?
技術代+魔法代+開発費で―――いくらかしら。
ロベルトさん、どうして一緒に来てくれなかったの。
「出店に向けて準備があるので、お嬢様しっかりお願いしますね」と、にこやかに片手を上げて去って行った彼が憎い。
「よく考えてからでも宜しくて?
あ、希望があったら いつでも仰って下さいね」
「まあ、考えとくよ」
「ちなみに、ユースルン卿はご存知ですの?
もしこれから、同じ物をたくさんとなると、それなりに金額も動きますし」
「大丈夫。あの人はあんまり興味ないから。
オレ個人の趣味に関しては、自由にやって良いって言われてる」
放任主義バンザイ。
感謝しますわ、ユースルン卿。
ただ、発明家がマッドサイエンティストになるのは教育が良くないかと思います。
人に手を出すのは止めさせるべきだと思います。
あれ、不安になってきたな。
「あの、今の機械系以外に、人体実験的なアレはやってませんよね」
「あー、そんなに興味ないかも。
まあ必要になったらやるけど」
まだセェーーッフ!
「きっとこの先もしない方が良いと思いますわ。
ほら、色々作ってもらいたい道具もありますし」
ボールペンとか、アイスクリームメーカーとか。
ハンドミキサーも欲しいわ。オーブンがあるのに、ハンドミキサーがないっておかしいと思うの。
「それって、シルがこの先も面倒見てくれるって事? 」
「? 依頼はするつもりですが」
「ふーん。良いよ、今回は材料費だけ頂戴。
その代わり、オレをシルの専属にして」
「専属ですか?
ですが、ユースルン家はどうなさるおつもりで? 」
おいおい、お家騒動になるよ。
絶対怒られるよ、私が。
「問題ない。シルはずっとオレの面倒見てくれれば良いだけだから」
「いやいや、何の解決にもなってませんわ」
「大丈夫。兄さんいるし。
兄さんも応援してくれると思う。
母さんも夫人も家に迷惑かけなければ文句言わないから」
言うでしょ。ロイドほどの技術者を逃すのは、大きな損失になる。
私だったら、絶対引き留める。
「それは、ずいぶん大事になりそうなので、保留で」
「そう? 残念」
ヤバいなこの自由人。
何がきっかけで飛び火するか分からないわ。
手綱握れるかしら。恐いんですけど。
ジルベルトきゅん、弟を引き取りに来て下さい。
そして黙らせて下さい。
「ロイド様、グラビエル領に着いたら、くれぐれもお静かにお願いしますね」
「うん? 」
「お願いし・ま・す・ね! 」
「うん」
分かってるのかな、この子。
うわ、グラビエル領が見えてきちゃった。
不安しかない。
ロベルトさんを無理矢理連れて来るべきだったわ。
私、会頭だし。私絶対だし。
そうよ、私偉いのよ。なのにリアムもロベルトさんも、私を何だと思ってるの?
金蔓か? 金の成る木なのか?
みてなさい、ボーナスカットしてやるから。
給料明細を見て、悔いるがいいわ。
評価&ブクマ有難うございます!
私は豆にもよりますが、フレンチ〜イタリアンローストが好みです。
次回も宜しくお願い致します。羊




