アレン・フォン・ヴェルトハイムの憂鬱。1
*本編関係ありません
「はあ……」
学園のカフェテラスに1人座る男子生徒を、女生徒達は遠巻きに眺めていた。
「まあ、ヴェルトハイム様が溜息を。
悩ましいお姿も魅力的ですわぁ〜」
「ええ本当に。いったい何に思い馳せていらっしゃるのかしら」
「公子は既に、公爵様のお仕事を手伝っていらっしゃるとか。きっとお仕事に関する事ではなくて」
「あら、考えたくはありませんが、あの憂いを帯びた横顔―――誰か、女性の方を想っていらっしゃるのではないかしら」
「まあっ! 何という事を!
ヴェルトハイム様に決まった方はおられないはずですわ! 」
「それがおかしいのではありませんか。
公子というお立場で、容姿・頭脳・運動、全てが達者。
とっくに婚約者が決まってもおかしくないですわ。
だというのに、決まらないという事はつまり――」
「「「つ、つまり? 」」」
「…――許されぬ恋をしている。と考えるのが普通かと」
「「「そっそんなっ! 」」」
――――――――――――
―――――――
「はあ……」
シルヴィーが中等部に入ってからというもの、手紙の頻度が下がっている。
彼女はそれでなくとも忙しい人間だから、仕方ないと言えばそれまでだ。
いや、仕方ないわけがない!
兄とのやりとりも ままならないのであれば仕事は直ぐにでも辞めさせるべきだ。
そして兄妹の仲を深めよう。
「考え事か?
オレで良ければ相談に乗るぞ」
「ジーモか。
シルヴィーがな……」
「やっぱり、やめておこう。
君の妹の話はウンザリだ」
あ?
シルヴィーの話がウンザリなわけないだろ?
天使の話だぞ。
むしろ天使の生活を知れるというのに、何の文句がある。
「失礼な。お前はシルヴィーに会った事がないから、そんなふうに言えるんだ。
まあ、無理もないか。
帰ったところで、むさ苦しい弟が居るだけだもんな」
「いや、ランドルフはむさ苦しい部類ではないぞ。
想像するだけで、気持ち悪い。
アイツは良く出来た弟だ」
「ふ〜ん」
その何でも諦めた様な顔、何とかならんのかね。
中等部より、マシになったと思ったが気のせいだったか?
「何だよ、その目は」
「別に。
早く家、出たらどうだ。子爵家にだってコソコソ通ってるんだろ。あまり褒められた事じゃないな」
「っ、解ってる」
「解ってない。いつか限界が来る。その前に出ろ」
「さすが公子様が言う事は違うな。
全部正しいってか⁈ 」
「そうではない。
だが、この件に関しては当事者の君より僕の方が理解している。
心配するな、優秀な補佐官として雇ってやるぞ」
貴族という鎖に囚われ、ジーモは自分で生き辛くしていっている。
それはとても愚かだ。
「考えておく。
で、妹ちゃんがどうしたんだ」
何だ、照れ隠しのつもりか?
可愛い奴め。
よしよし、天使の素晴らしさを共有してやろう。
「そうか。飲み物は奢ってやる、何杯でも飲め」
「なあ、おい。何分話すつもりだ? 」
「馬鹿なのか、分で終わるわけがないだろう。
次の授業、何時だ?
僕は終わった(正確にはあるけど、自習だから問題ない)」
「・・・フィンドル教授の座学が5時から」
「ああ、じゃあ問題ないな。
とことん、話に付き合ってくれ」
「5時から授業あるって聞こえてないのか」
「フィンドル教授とシルヴィーの話なら、シルヴィーの方が有意義だ。
座学が1回抜けたって、何の弊害もない」
「本気で言ってるのか? 」
「サボっていいものと、そうでないものの違いくらい心得ている。安心しろ」
「こんなヤツが学年1位だなんて、許されるのか。
シルヴィア嬢が聞いたら泣くぞ」
シルヴィーが?
………ないな。これは父の教えだし、シルヴィーも要領よく手を抜くタイプだ。
むしろ、「私も上がったらその授業サボろう」ぐらいにしか思わないんじゃないか。
「僕の天使は、同じ人間とは思えないぐらい出来た存在だが、手を抜く…ごほん。学ぶ姿勢に関しては、実に合理的な考え方をする。
したがって、天使は何も言わない」
「(つまり妹も同類なんだな。――“天使” とは何をもってそういうのか)」
2週間後、ジーモは何の相談もなく休学した。
だから、言ったのに。困った友人だ。
まあ、助けを求められない限り、助けてやる義理もないが。
「あ、あのっ。ヴェルトハイム様、どこかご気分が優れないので? 」
しまった。グループ授業があまりにつまらな過ぎて、意識を別にやってしまった。
「すまない。少し考え事をしてしまった。
ありがとう、ハルマン嬢」
「ま、まあっ。そんな、とんでもありませんわ/// 」
んー、頬を染められる覚えはないんだが。
最近やけに距離が近いな。
ジーモが居る時は、間に入ってくれたんだけどな。
昼も放課後も待ち構えられてるし。
いったいどうしろと。
「最近、ハルマン嬢と仲がいいですね。アレン殿」
いいえ、全く。
にしても、嫉妬か? たしか幼馴染なんだっけ?
まあハルマン嬢は侯爵家、彼は子爵家だから叶わぬ恋か。
大丈夫だ。
僕と彼女がどうにかなる予定は生涯ない。
頼むから、突っかからないでくれよ。
今、クッション役が居ないから。
「そうかな?
同じグループだから話す機会は増えたけど」
「やだっ、モルトったら。
でもそうだったら嬉しいですわ、なんて(ちらっ)」
うげっ。
いや、女性には紳士にが鉄則だ。
シルヴィーは、僕の事を紳士的な王子様だと評価してくれている。
どこから、漏れて彼女の耳に入るか分からない。
だから常に完璧なアレンお兄様でいなくては。
と、好きにさせ過ぎたかもしれない。
「ねえ、お聞きになった?
公子様とハルマン侯爵令嬢の噂」
「聞いたわ。ハルマン様もお茶会で否定なさらなかったらしいじゃない」
「じゃあ事実ですの⁉︎
たしかに公爵家と侯爵家であれば自然な組み合わせではありますね」
僕が気づいた時には、噂が独り歩きを始めていた。
シルヴィー、どうか不甲斐ない兄を許してくれ。
評価&ブクマ、感想 有難うございます!
今週中に本編の方も更新出来るよう頑張ります。
宜しくお願い致します。羊




