転生者仲間と正体。5
子爵にもメイド勢にも「何言ってるんだコイツ」みたいな顔をされながら、適温のお湯を入れた注ぎ口の細いティーポット、サーバー代わりの水差し、口の狭いティーカップ、ボウルを選んで子爵の待つ部屋へ戻った。
「お待たせしました。それではご覧下さいませ」
あらかじめカップと水差しには温めるために、お湯を入れておいた。
水差しのお湯をボウルに捨て、金魚すくいの枠のような物に布をかぶせてセットする。
「それは? 」
「この輪っかは『ハンドル』、布を『ネル』と言います。
こちらに、先程の豆を焙煎して少し粗めに挽いたものを適量入れます」
「(あの黄緑色の? 今度は真っ黒じゃないか。焦げたものを飲ませようと言うのか? )」
豆にいきわたるくらいお湯を注ぎ、蒸らす。
うん、膨らんできたわ。
「これはーーー嗅いだ事のない………しかしクセになりそうな香りですな」
蒸らし終わったら、4〜5回に分けてお湯を注ぎ、じっくり抽出して完成。
カップのお湯を捨てて、冷めないうちに静かに注ぐ。
「さあ、ご賞味下さいませ。お好みでミルクやお砂糖を加えるのもおすすめですわ」
「(まるで泥水のようだ。コレを飲めと?
しかし、目の前でこうも涼しげな顔で飲まれては、飲まぬわけにはいくまい。クッ)
コクリーーゔっ! 何だこの苦味は! 」
ありゃ、ダメか。
「卿にご用意頂いたジャムクッキーと一緒にいただくと美味しいですよ」
「(もしやバカ舌か?)ーーーむ、これは。(もう一口、、、何故だ。こんなに苦いのに菓子をつまむと美味しく感じる。いや、気のせいか)」
「いかがですか?クセになるお味でしょう?
単体でもイケますのよ。あくまで私の好みの量になってしまいますが、ミルクをこのくらい。お砂糖を少し。こうして軽くティースプーンで混ぜます」
くるくるかき混ぜて見せると、子爵も同じ様にミルクと砂糖を入れた。
あ、砂糖は少し多めなんですね。甘党?
それはさぞ苦かったでしょう、すまぬ。
「むっ! 美味い! まるで別物だ‼︎ 」
はい、美味しい頂きましたー!
「ちなみに、紅茶よりもコーヒーの方が甘い物を食べた時に太りにくいんだそうです(こそっ)」
「ピクっ。ふむ、それは本当ですか?
そんな効果が」
しげしげとティーカップを掲げ見て、少し興奮したように確認してくる。
「ええ。微々たる差ですが積り積ればと言いますでしょう? その時は、何も加えずストレートで召し上がると良いです。
それに、一時的に頭が冴えますから、お仕事が捗ります」
「何とっ! そんな効果まで!
うむ、見た目と味は少々独特ですが、そのような効能があるのであれば、価値は格段に上がりますな」
よしっ、ノッてきたわ。勝ったも同然!
あとは後日、ロベルトさんに詰めてもらえばバッチリね。
やっぱり収益と販路に関しては、私じゃ言いくるめられそうだし。
ここはしっかりwin-winの関係で行かなくちゃ。
まあ私の言うwin-winは6:4で私が得するけど。
「いかがです?
ティータイムにはもちろん、お仕事に追われる紳士の皆様にも喜ばれるとは思いませんか。
グラビエル領は、その原材料であるコーヒーの木の栽培に適しているのです。
収穫後は、私共が焙煎し、販売しますわ。
道具や淹れ方など、浸透するには時間がかかるでしょうから、製法や流通ルームに関しては私に一任して頂きます」
「……ふ、む」
「ですが、平民達も気軽に楽しめるまでに浸透したなら、基本の製法は開示します。
新たにコーヒーブランドを立ち上げたいと言う者が現れれば、流通の制限もしませんし、グラビエル領で自由に取引して頂いて構いません。
ただ、売上の何割かは頂きます」
「なっ! 独占しないと言うのですか⁉︎
それにそれでは、栽培方法まで流出してしまうのではっ」
するでしょうね。
でもしたところで、条件が揃わなきゃ植物は育たないから問題ないわ。
仮に、育てやすい土地が見つかったら、コッチから手を回せば良いのよ。
「育ててみませんか」って。
例えば、グラビエル領にはない違う品種の豆、とか。
子爵は嫌かもしれないけど、土地には限度があるし、
コーヒーの種類が増えれば、ブレンドだって作れる。
それだけじゃない。
競合他社が生まれれば、各々でさらに努力するはず。
当然、コーヒー文化は発展するわ。
それに私は、コーヒーが飲めれば充分だし。
気分によって、紅茶かコーヒーで選べる事こそ重要なのよ。
お金儲けは別にいいわ。
『シルヴィー化粧品』があるもん。
「栽培できる環境は限られます。
ですから、あまり心配されなくて良いかと」
「む、なるほど。
しかし、ヴェルトハイム家は良いのですかな?
せっかくの旨みがなくなってしまいますが」
「ええ。話した通り、何割かは頂きます。
取引条件によって前後するでしょうが、1〜2割ぐらいでしょうか」
「……我々に有利過ぎるのではありませんか。
後からアレコレ言われても困りますぞ」
いや、6割ウチが儲かる予定です。最終的に。
「その様な事は致しません。
はじめに言いましたでしょ?
お父様に好きにして良いと言われている、と」
「?? 」
「私、ただ飲みたいだけであって、この際利益は二の次で良いのです」
「――は? 」
「ベーヴェルンでは、なかなか手に入らなくて大変ですのよ? いつでも飲みたいではありませんか」
「っ、まさか、そんなことで」
大事、大事。
いつでも飲めるって大きいよー?
「はい。
グラビエル卿には、悪い話ではないでしょう?
あ、それとテレサ様は少しお借りしますね。
お薬の副作用があったら大変ですから。
事業の詳細は商会の者を遣いにやりますので、また後日に」
「(始めからテレサが目的で、こんな話をっ?
馬鹿な、ヴェルトハイムに何のメリットがある!
この醜聞を広めても、王族派のローレヌ家がダメージを受けて終わり……。まさか派閥内で争いが?
いや、ヴェルトハイムは政に関わらない。
それに私が落ちれば、コーヒーの話はパーになってしまう。醜聞を広める可能性は極めて低い。
では、何だ。本当にただテレサを救う為だったのか? )」
「グラビエル卿? 」
はて。この沈黙はどう捉えたら良いのかしら?
決定打にかける、とか?
んー、これ以上詳しい事を私が決める訳にはいかないし。
どうしましょう。
「(はぁ。お嬢様は本当に抜けている。ランドルフ様を助ける為と言っていたが、多少お嬢様の行動に奇抜さはあれど、むしろ周囲からは褒められるだろう。公爵令嬢と殿下が、友人の為に命を救ったと。
そもそも、取引なんて要らないんだ。自分が許される立場にいると理解してないな、ポンコツは。
子爵も裏に何があるか考えているんだろうが、無駄ですよ。俺のお嬢様はアホなんで)」
「……少し、考えさせて頂きたい。
大変魅力的なご提案だとは思いますが、かなり大掛かりな事業になりそうですな。
他の者とも、話がしたいところです」
え〜っ、即決じゃないの?
私のコーヒー生活はっ!
ロベルトさんに何としても、話をまとめてもらわないと。
それか他の土地探す?
いや、でもジーモとランドルフに迷惑かけないようにしなきゃだし。
宰相が恐いし。
やっぱり子爵にはのんでもらわなきゃマズイよね。
令嬢連れて行きたいのに。
「分かりましたわ。
では、次回お返事を聞かせて下さいませ。
――そうそう。お父様もコーヒーを気に入っておりますの。たまに殿下からコーヒーを分けて欲しいと仰られる事もありますのよ」
「っエリオット殿下とヴェルトハイム公が……」
「ええ。もっとも、殿下は紅茶の方が好まれますから、どなたがお求めなのかは、存じませんが、ね? 」
「それはっ、つまり!(陛下がお求めと言う事かっ)」
「とりあえず、本日はお暇しますわ。
テレサ様の事は逐一報告させますので。
あ、いつでも会いに来て下さって構いませんよ。
卿のお嬢様ですもの」
「は、はい。
宜しくお願い致します」
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子爵との話を終え、何だかてんやわんやしているテレサの部屋に戻り、ジーモやメイド達を蹴散らかして帰宅した。
三者三様の視線が痛いです。
リアム〜〜、助けて!
「(諦めろ、ばーか)」
――この陰険執事がっ!
評価&ブクマ有難うございます!
今回はネルドリップ式で書きましたが、羊はペーパー派なので、下準備などの描写を省きました。
本来は、ネル(布)が新品の場合、コーヒー粉と一緒に煮てから水洗いなど、色々手順があるようです。
次回はいよいよ「ジーモとランドルフ編」まとめに入ります。
また、番外編も書き進めているので、近々更新出来ればと思います。
宜しくお願い致します。羊




