転生者仲間と正体。4
「シルヴィア、まずはその瓶取ろうか」
はい、すみません。
瓶を外して、肩をポンポンと叩く。
見た目には変化ないけど、効いてるのかな。
「こほん。テレサ様、瞳は開けられますか」
私の声に反応して、瞼がピクッと動いた。
そしてゆっくりとテレサ・フォン・グラビエルは目を覚ました。
おぉっ、疑ってたわけじゃないけど実際見るとチートね。我ながら。
寝たきりで栄養がとれなかったからか、動かせるのは目と唇だけ。それに唇は動いているけど、かすれて音になっていない。
リハビリは長くなりそうね。
とりあえず、流動食が食べれるようになる事が、第一目標かな。
「ぁっ、ああ゛! 」
ベッドの側で泣き崩れたジーモと、呆然とする子爵。
さらに置いてきぼりのランドルフ。
三者三様の表情が洋画のワンシーンの様で、少しおかしく見えた。
ジーモに焦点を置けば、感動の場面間違いなし!なわけだけど、困った。
前世から考えれば、まだ子供な彼は、
今の私からしたらだいぶ大人である。
くっ、不謹慎だけど萌えるっ。
年上男性が恥もなく泣く姿って、クルわ。
ギャップ萌え? いや、違うな。ギャップじゃないな。
加護欲、、、もはや母性がそうさせるのかっ?
ねえ、そうなのっ?
あー、あと30分はこのままで良いわ。
………ダメよ、シルヴィア!
不謹慎極まりないし、リアムの視線が冷たいっ。
心なしかエリオットからも冷気を感じる。
早くこの場を離れなきゃ、令嬢としての何かが終わる気がする!
退避よ、退避。
「テレサ様にお土産も渡せた事ですし、戻って本題に入りましょうか」
「本題、今…ですかな? 」
「(ですよねー、今じゃないよね。確実に)ええ、もちろん。今日はその為に来たのですから」
「ですが、まずは説明を――」
「説明、ですか?
お土産を差し上げただけですけど。
とりあえず、テレサ様の事はメイドの方にお願いしましょう。
ジーモ様も手伝われるでしょうし、心配ご無用ですわ」
「いや、」
「あら大変、グラビエル卿の貴重なお時間が10分もロスしてしまいましたわっ。
私のお話を聞いていただかなくては!
……それとも、何か不都合がありまして? 」
まあ、普通の親だったら話どころじゃないわよね。
寝たきりの娘が目を覚ましたんだもの。
喜びと心配で、とても平常じゃいられないわ。
残念ながら子爵は違うようだけど。
「ゔ、いえ、不都合などございません。
娘を助けて頂き、何とお礼を申せば…(何だ? 何が望みなんだっ! いや、まて、そもそもどこまで知っている? )」
「お礼だなんて、そんな。
私はただ、卿のお役に立てればと思っただけですもの」
「それは、それは。……お礼は後日お贈りしましょう」
子爵は全く納得していないみたいだけど、渋々テレサの部屋から離れた。
でも、この話を聞いてもそんな顔でいられるかしら?
あ。ちなみにエリオットに丸投げしといた。
「それで、私に話とは? 」
「ええ。ぜひ私の新事業にグラビエル卿のお力をお借り出来ないかと」
「新、事業…?(なんだ、やはり子供だったか。ふん、私の助けが欲しいと。安く見られたものだ)」
「はい」
「とても興味深い話ですな。
しかし、何故わざわざ私に? 娘の事まで調べて来たという事は、公爵には協力を得られなかったからではないか? だから金策の為に、弱みがある当家を選ばれた」
「はあ」
「さすがはシルヴィア嬢。貴方が大人になられた時が楽しみですな。
ですが、事業ともなれば別です。見込みのない、いえ、旨みのない話に手を貸す程、暇ではないのですよ。これでも領地を任された者ですからね。領民の為を思えば、あぁ、少し…難しかったですかな? 」
どの口がっ―――落ち着くのよ。
舐められた方が良い条件で交渉出来るわ。
今日の暴挙をチャラにする為に用意しただけだから、最悪、子爵に全ての利権を渡してもと思って来たけど、やめよ。
きっちり、利益は取ってやる。
「ふふっ。そうですね、何を仰っているのか分かりません。私には難しいようですわ」
「ハッハッハッ。素直というのは素晴らしい事ですぞ。
では、話は終わりで良いですかな? 」
「いいえ? 私、お父様に反対などされていません。この件に関して、好きにして良いと許可も頂いております。
ああ、それと。会頭が幼子で不安に思われるのは当然ですが、幸い大手にも負けない優秀な従業員がたくさん在籍していまして……取引相手の方に損をさせるなど、あり得ませんわ」
「っ何を(親バカと言えど公爵だぞ? ガキのごっこ遊びにヴェルトハイムの名を許したと言うのか⁉︎ )」
「もちろん、領民の方にも喜んで頂けると思います。
雇用と収益が上がるのですから、ね」
「……ハァ、いくら公爵家のお嬢さんとはいえ、あまり嘘をつくのは良くありませんよ。
まあ良いでしょう。話を聞いたらお帰り下さい」
「はい、やっとお話出来ますわね。
今回お願いしたいのは、コレの栽培です」
テーブルの上に包んでいた苗木と生豆を置き、開けて見せる。
「これは? (植物の栽培だと? はなから利益などないではないか! 特産品であればまだしも、コレで稼げるつもりか。――何と言うか、肩透かしだ。警戒する必要などなかったな。うむ、可愛らしい事ではないか。しかし、公爵も困った方だ。親しい間柄でもない我が家をママゴトに付き合わせるとは)」
「コーヒー豆の木です」
「コーヒー豆。はて、初めて聞く名前ですな。食用ですか?」
「飲料用です。正確に言えば、食用として用いられていますが、あまり需要はありません。
私は、コレを第二のお茶として普及させるつもりです」
紅茶文化が根付いたベーヴェルンで、お茶の代わりを売り出すのは難しい。
ハーブティーでさえ珍しいのだもの。
けれど、不可能ではないわ。
だって、紅茶文化が根強い英国は、元々コーヒーが嗜まれていたのよ。
当時、コーヒーハウスが女人禁制で、紳士・淑女が楽しめるようトーマス・トワイニングが紅茶専門店をオープンしたはず。
貴族に親しまれていたコーヒーなら、この世界の貴族にだって受け入れられるわ。
「これは、大きく出ましたな。黄緑色の豆を潰したものが紅茶に優ると言いたいのか、お嬢さん」
あら、ちょっとご立腹かしら。
生豆の状態じゃ無理もないか。いや、焙煎後でもゲテモノと思われそう。
「こちらを焙煎して、芳ばしくした豆を挽いてから濾すんです。苦味が強いので、甘い物と一色に召し上がると美味しいですよ」
「全く想像がつきませんな。それに甘い物には紅茶と決まっているではありませんか。
貴族が変化を嫌う事はご存知でしょう。
仮に味が良かったとしても、受け入れられなければ価値はない」
「卿の仰る通りですわ。
ですので、宜しければカップとお湯を頂けませんか?
今、この場でお淹れします」
初対面の人の家で不躾な気がするけど、
淹れたてが1番だから仕方ない。
本当は挽くところからやりたかったのを我慢しただけ良しとしてもらいましょう。
家でリアムに微妙な顔されたのよね。
「使用人からすれば、他家の…公爵家の令嬢がわざわざ持参で飲み物を用意するのは気分が悪いです。
しかも、豆を挽く作業なんてビックリされますよ。
貴族がやるのか⁉︎ と」
前世だったら、むしろ意識高い系の趣味に入るんだけどなー。
そんなに変かしら。
「それは構いませんが……君、彼を案内してあげなさい」
「かしこまりました」
側に控えていたメイドに指示を出し、リアムを案内してくれるみたい。
淹れるの私だけどねっ。
リアム、おまけだから。
まだ私の方が上手いから!
むしろコーヒーくらいしかリアムに勝てるのないから!
「こほん。では私も」
「え? ああ。シルヴィア嬢は、よほど従者の事を信頼している様ですな。
ご安心なさい。そんなに時間はかかりませんよ」
ブハッ――、と隣から小さな音がした。
いや、この人は何が言いたいの?
何、この生温い空気。何故っ。
つかリアム、気付かれてないとでも思ってるの。
肩震えてるわよ。
おい、笑うな。
解説をモトム。
「えぇ〜と、まぁそうですね。もちろん信頼しておりますわ。
あの、とりあえず私も案内して頂きたいのですが。
卿に召し上がって頂かなくては」
「え? 」
「え? 」
「まさか、貴方が淹れられるのですか⁈
ソレではなく? 」
「ええ、そのつもりですけど」
あら、また微妙な、というか静まり返ったというか。
プッ――
聞こえてるからな、リアム。
お待たせして申し訳ありません!
お読み頂き有難うございます。




