ジーモとランドルフ。8
あの後、何事もなかったかの様にエリオットは帰って行った。
ゲーム開始前の婚約破棄という、素晴らしいフラグ折りを、思いがけぬ形で潰されてしまった私はどうしたら良いのでしょう。
失敗は許されないわ。
尊い、私という犠牲の元に成り立つのだから、ランドルフとジーモには崇拝するほど感謝してもらいたい。
―――コンコン
「お嬢様、湯浴みの準備が整いましたよー」
「あれ、マリエラ? 」
「はい。リアムはオーベロン様に絡まれ…いえ、お相手をしているので、私が代わりに」
オーベロン様がリアムに、ねぇ。
意外。
* * * * *
(リアム視点)
厄日なのか、今日は。
あのお嬢様は、何で面倒ごとばかりに巻き込まれるんだ。
エリオット殿下の執着ぶりも凄いが、目の上のたんこぶはロイド・フォン・ユースルンだな。
ちっ。思い出すだけでも鬱陶しい。
天才発明家だか何だか知らないが、お嬢様に付き纏うのはやめて欲しい。
だいたいお嬢様も何であんなヤツをそのままにさせておくんだ。
午前中のメディス嬢とヤツの衝突が、実際どんなものだったかは分からないが、俺があの場に居たら必ずメディス嬢を勝たせたのに。
入学して1ヶ月ばかりだというのに、お嬢様の周りは賑やかだ。
余計な虫を惹き寄せてどうするつもりなのか。
とりあえず、お茶と夕食の準備だな。
「おー、リアム聞いたぞ。
お嬢様がお客さん、連れて来たらしいな。
せっかくだ、新作を披露して驚かしてやるかっ!」
「それは構いませんが、そのお客さんが誰だか分かってるんですか」
「さあ。ま、でも学園のお嬢様だろ? 」
「ええ、学園の生徒ですが、残念ながらご令息ですよ。
ローレヌ公爵家のランドルフ様です」
「ローレヌって、宰相の? 」
「はい」
「………あー、それは、殿下が悲しむんじゃないか? 」
料理長は一体 何を想像したんだ。
「殿下もご一緒です。
ランドルフ様は殿下の側近候補筆頭ですので、そんな心配は不要です」
「あ、そうなの。
んで、殿下また来たのか。
もういっそ食費請求するか、王家に」
悪くないな。考えておこう。
「では、宜しくお願い致します」
「おー。…なぁ、リアムは大丈夫なのか? 」
「何がですか? まあ休日は欲しいところではありますが」
「いや、気にしなくて良い。
ほら、働け!執事!マルニーさんにちくるぞ」
ふん、マルニーさんは料理長より俺の言葉を信じるに決まっている。
「スチュワートさんに言い付けるぞ」
「さっ、料理長 準備に取りかかって下さい。
私はお茶の準備をせねばなりませんので」
「へーへー。
頑張れよ。お嬢様の為に、執事として」
本当にイラつく事ばかりだ。
ああ、頭痛がする。
「分かってますよ。それぐらい、初めから」
どうやら、ローレヌ家の問題に本格的に首を突っ込むらしい。
バカはどこまでもバカだな。
「はあ、まあ良い。帰るから、少しだけシルヴィアと2人にさせてくれ」
問題ない。
お嬢様と殿下は婚約者だから。
殿下がお嬢様を大切にしている事は、よく分かる。
だから2人きりになろうが、何だろうが安全だ。
俺と居るよりも。
「じゃあ、帰るよ。シルヴィア、また明日 学校で」
「え、ええ。また明日」
この雰囲気は何だ?
今までこんな事はなかった。
お嬢様は何を照れているんだ?
まさか粗相を……ではないな。
殿下の彼女を見る瞳が普段の何倍も愛おしそうだ。
――今日は厄日だ。
俺の大事な大事な お嬢様が、初めて女の顔をした。
湯浴みの準備を整えなくては。
「小童。ちと顔を貸せ」
「……かしこまりました。
すみません、マリエラさん。湯浴みの準備お願いします」
「あらあら、オーベロン様に?
いってらっしゃい。お嬢様には伝えておくわ」
「ありがとうございます」
オーベロン様が俺に用とは何だ?
ベッドメイクも蒸留水もスチュワートさんがしたはずだが。
「いかがされましたか」
「うむ。お前は小娘をよく分かっておるからな、聞いてみようと思ったのだ」
「はあ」
「小娘は、エリオットとやらを好いておるのか」
「は? 」
「ちと、気になってな。
だがアレは自分の気持ちに疎そうだ。
だからお前なら分かるかと思うて」
頭痛がする、心臓の音がうるさい。
息が苦しい、胸が痛い。
「さあ。存じ上げませんが、婚約者ですから多少の好意はあるのではありませんか」
「ふむ、そうか。
時間をとって悪かった。
人の心は移ろい行くものだ。未来は分からんぞ、小童よ」
それでも未来は決まってる。
俺とお嬢様の関係は、一生変わらない。
「頭の片隅に入れておきます」
「人の子は難儀よの」
* * * * * *
湯浴みを終えてもリアムは顔を出さなかった。
そんなに長話しているのかしら。
それとも今日の事、怒ってる?
んー、謝りに行った方が良いのかな。
リアム怒らせると恐いし。
でも謝って、近々宰相の家に乗り込むぜ!なんて言ったら、火に油よね。
間違えなく雷が落ちる。
ここはマルニーさんに仲介してもらって、リアムのご機嫌取りをすべきか。
「精霊達」
「なぁに」「シルヴィアよんだ? 」「しるゔぃー遊ぶの? 」「爺様よぶ? 」
ご機嫌取りの鉄則は、リサーチ!
とにかく、リアムが欲しがっている物を探してプレゼントするのよ!
流れはこうよ。
「リアム、いつもお世話になってるから、コレあげるわ」
「っコレは!ありがとうございます!お嬢様!
欲しいと思っていたんです」
「そう、喜んでもらえて良かったわ」
「お嬢様っっっ泣」
ふっ。ベタだけど、完璧だわ。
「今度新しい蒸留水作ってあげるから、リアムの様子見て来てくれない?
バレないように、こっそりと。
それで、趣味とか好きな物とか、欲しそうな物を調べて欲しいの」
「リアムのしゅみ? 」「リアムの好きそうな物? 」「蒸留水」「あたらしいのぉ!」「飲みたぁい」
「ええ、お願い出来る? 」
「リアムのしゅみ、おせわ!」「リアムの好きなもにょ、しるゔぃー!」
「それは趣味じゃなくて、お仕事なのよ。
ねっ、お願い」
「いいよ」「リアムみてくりゅ」「こっしょり、みる!」
頼んだわよ!
「シルヴィア、もどったぁ」「しらべた」「リアムちらべた」「つれてきた!」「えらい? 」「ほめてぇ」
え、もう戻って来たの。
仕事がはや……い゛っ⁉︎
「お嬢様、説明して頂けますか 」
「ひっ」
魔王降臨。
ブクマ&評価 有難うございます!
誤字報告いつも助かってます。
有難うございます。羊