ジーモとランドルフ。7
すき焼きを気に入ったらしい ランドルフは、3度もおかわりをして帰って行きました。
良いのよ。喜んで頂けて。
私は、トマスに頼めばいつでも食べられるから。
別に私のおかわり分がなくなった事は、ちっとも気にしてないわ。ぐすっ。
「トマス、君は本当に素晴らしいね。
今度王宮にも作りに来てくれないか? 」
「あはは。ありがとうございます、殿下。
ただ、お嬢様の舌を満足させるのに手一杯でして」
「そうか、残念だ」
ちゃっかりスカウトするのもおかしいし、
私が世話の焼けるお嬢様だから無理、みたいな断り方もおかしいし、いつまでも帰らないエリオットは何なの?
「殿下、お帰りにならなくて大丈夫ですか。
それに夜道は危険です。マルニーさんは若くないんですよ」
「うん。リアムは僕の安全というより、マルニーが無事に帰れるかが、1番重要なんだろう」
「はい」
即答はいかんよ。
ゲーム始まる前に、不敬罪で断罪されそうで恐いわ。リアム君や。
マルニーさん、嬉しそうにニマニマしてないで、注意して!
弟子が貴方の主人に無礼を働いているわよ。
「エリオット様。外も暗くなりましたし、帰りましょう。
リアムも心配してくれている事ですし」
マルニーさん、喜びがダダ漏れてちゃってる。しまって。
「最近、僕は本当に王子なのか分からなくなるよ」
「何を仰ってるんですか、殿下。
ついに頭がおかしくなりましたか」
やめて! もうその辺にして下さい、リアム様。
私まだ死にたくない。
あれか、執事は世を忍ぶ仮の姿で実は王様なのか。そうなのか。そうであれ。そうでなければ黙りなさい。
「はあ、まあ良い。帰るから、少しだけシルヴィアと2人にさせてくれ」
お説教かな。怒られるよね、これ。
「かしこまりました。では我々は席を外します(ご愁傷様です、お嬢様)」
副・音・声 ‼︎
減給だけで済むと思うなよ!
「あの、エリオット様……リアムが大変なご無礼を」
「別に構わないよ。いつもの事だから」
“いつもの事だから” すごいパワーワードですね。
「さ、左様でございますか。
では、何のご用件でしょう」
「シルヴィアは、いつからランドルフと仲が良くなったの? 」
は?
仲良く見える場面なんてあったかしら。
「話がよく……」
「君は貴族らしくないよね。好きな事を思うままに行動している。その一方で、シルヴィア・フォン・ヴェルトハイムは誰よりも貴族だと、いつも思い知らされる」
彼はどうしちゃったの。
語り入ってない?
「嫌な話だが、ローレヌ家の問題は珍しい話ではない。よくある話だ。君がでしゃばる必要性がどこにある?
四大公爵家のヴェルトハイム家とローレヌ家に溝が生まれる方が、僕は問題だと思うよ」
ありゃ、ガチなお説教だった。
子供のお前は引っ込んでなさい、という事ね。
だけど、サラ夫人死んじゃうのよ?
それが分かっているのに止めないなんて…日本人には無理っす!
「エリオット様が仰っている事は、理解出来ます。
しかし、このままでは良くないと思うのです。取り返しのつかない何かが、起こる気がして――」
「それを君が気にかける必要はないし、起こったとしても気に病む必要はない」
「私は嫌ですわ!
預かり知らぬところで起きた事なら、気にも止めませんでした。
ですが、同じ学園の先輩で、彼は貴方の友人でしょう!
殿下は、私に見て見ぬふりをしろと仰いますの? 」
「っ、ああ、そうだ」
「なっ⁉︎ 」
「君は何も分かっていない。
言っただろう。よくある話だと。
どんな結末を迎えるのか、ある程度想像はつく。
それでもダメだと言っているんだ。
――僕と婚約者になりたくないと言っていたな」
今、関係なくない?
さっきから回りくどくて気持ち悪い。
「話を逸らさないで頂けます? 」
「急に公爵夫人を招いたり、今日みたいにランドルフを訪ねたり。あの香水だってそうだ。
言ったはずだ。君にその力がある限り、王家は君を離さないと」
入学式の日の事?
何て言われたっけな、たしか……
〜「シルヴィア、君に謝らないといけない。
僕の卒業と同時に婚約を解消する約束だったけど、
王家はきっと、その力を野放しにはしないだろう」〜
ああ。言われてたわ、うん。
「それが何ですの」
「君はランドルフの為に、その力を使おうとしている。実際は、もう使っているが」
「? 」
「何で君は今も自由でいられるんだろうね」
「自由で――っまさか」
言ってなかったの!
私が〈祈り〉の魔法が使えるって事。
「あくまで、ヴェルトハイム領内で、僕の前だったから何事もなく終わっていただけだ。
ローレヌ家は王都だ。王都で力を使えば宮廷魔術師がすぐに感知する。
まして、宰相の前だからな」
「あっ」
てっきり、エリオットはもう報告していると思ってた。
王家が何も言って来ないのは、すぐに囲うつもりがないからだと。
だから、人前で大っぴらに使わなければ問題ないって。
勝手に、思って…違うわ。
【緑の一族】がどんな目に遭ったか 聞かされていたのに、自分は大丈夫なんて、どこかで軽く考えてた。
エリオットは私を――――
「シルヴィア、君が僕の手の届かない所で力を使うのなら、僕は君を守れないよ」
――――ずっと守っていてくれたんだ。
「それでも、ランドルフの為に自分の存在を危険に晒すのか」
だけど。
「それでも! 知っていて何もしないのは、シルヴィア・フォン・ヴェルトハイムではありませんわっ」
「……」
「ですから! どうかこれからも私を!
――っ守って下さいませっ‼︎ 」
おおお、自分で言ってても、とんでもないな。私。
わがままプーにも程があるぞ。
絶対友達になりたくないタイプだわ、こういう子。
「……ブッ」
「あ、あの? 」
「くっ、ハハハッ!
そう。そうだね、仕方ない。
んー、君が婚約者でいる限りは全力で守ってあげよう。陛下からも」
「ぇ゛」
「あーでも、約束の中等部卒業までだと、あと1年もないな。残念だ、守ってあげられなくて」
こっ、この!
感動とトキメキを返せ!
腹黒ー!
「少し、意地が悪いのではなくて? 」
「んー? シルヴィアは対価もなしに、守れって言うのかい? ワガママだねぇ」
くっ。ぐうの音も出ない。
「僕も出来れば守ってあげたいんだけど。
ねぇ、シルヴィア。僕に君を守らせてくれない? 」
「〜〜〜っ、宜しくお願い致します」
ゔぅっ。
不覚にも、かなり不覚にも!
カッコイイと思ってしまった。
ニヤニヤと性格の悪そうな顔をしているのに、輝いて見える。
そんな優しい瞳で見ないでよぉっ!
* * * * * *
(オーベロン視点)
「爺様っ、しるゔぃーとえりおっと!」
「やめておけ。今はそっとしておくのだ」
「ええ〜!遊ぶ、遊ぶのぉ!」
まるで、あの日に戻ったようだの。
これでは彼奴の言う通りではないか。
シルヴィアがただの娘であれば。
エリオットがただの貴族であれば。
何か違ったのであろうか。
あの時、我があのまま吾子を捨ておけば、オリヴィアはアキラと添い遂げられたのでないか?
「お主は何を選ぶのだ、オリヴィア」




