入学式と事件の香り。1
学園には開式の15分前に着きました。
何よ、あんなに急かさなくても良かったじゃない。
今日は、ベーヴェルン王立学園 中等部の入学式。
ついに中学生かぁー。
私は12歳、リアムは13歳だけど、一緒の学年に入学する。
前世を思い出してから、もう5年経ったのね。
2年前からは、魔法も習い始めたし、精霊とも大っぴらに話せるようになった。
あと、残念なお知らせが1つ。
リアムは変わってしまったわ。
5年前は、あんなに可愛いから、本当にビルクの弟なのか疑ったくらいだけど、ヤツは間違いなくビルクの弟だった。
最近はますます生意気に……いえ、口うるさく?
なってしまったし、言葉遣いも悪くなった。
しかも!私の前以外では完璧なところが憎たらしい。(13歳にしては)
学園という、階級社会に苦労するがいいわ!
クラスは貴族科、執事科、武芸科に分かれていて、
貴族科は、名前の通り貴族が入るクラス(中等部は子爵家以上がメインで、高等部からそれ以下も入る事が多い)
執事科は、貴族科に入学した生徒の関係者(私とリアムの関係)や、使用人一家の子供、ごく稀に優秀な平民が入るクラス
武芸科は、貴族でも嫡男以外で武力に優れた者や、騎士団・軍人の子供(将官以上の位は貴族科に行く場合も)、ギルドや貴族から推薦された平民が入るクラス
「じゃあ、終わったら合流しましょう。
いい?リアム。揉め事は起こさない、関わらないが鉄則よ。もし絡まれたら……そうね、私の名前を出しなさい」
入学式の席はクラスごとに分かれるし、その後教室に行くから、終わるまで会えない。
「心配性ですね、お嬢様は。
俺としては、お嬢様の方が心配です。
変な行動をとらないか考えるだけでも、
胃がキリキリと………聞いてます?」
「ええ。聞こえてるわ。
さっさと自分の席へ行きなさい。
ボッチになっても泣き付いて来ないでね(シッシッ)」
今からでも遅くはないわ。
この学園で、有望な執事候補を見つけてチェンジしてやる!
私の席は、、、あそこね。
入学式といえば体育館のイメージだったけど、
講堂というより劇場かしら?
ココでオペラの上演があっても不思議ではないわ。
座り心地も良い。お尻痛くない。
2時間コースでも大丈夫よ!
ちなみに保護者席はないみたい。
保護者は参加しないのが主流らしいわ。
――あらっ、お隣さん可愛らしい子ね。
後で声をかけておきましょう。
「只今より、ベーヴェルン王立学園 中等部の入学式を開式致します。
まず始めに、学園長による式辞です」
「コホン。新入生の諸君、入学おめでとう。
今日君達に会えた事を誠に嬉しく思う。
この学園に入学したとは、つまり将来見本となるような立場でいなくてはならないという事だ。
君達はいつでも見られている。
それを忘れずに過ごして欲しい。以上だ」
「続きまして―――――」
ふむ。入学式って眠いわ。早く終わらないかしら。
「続きまして、生徒会によるオリエンテーションです」
――――キャアァっっ‼︎ ザワザワ
ビクッ!
え、何?
「新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます。
生徒会長のエリオット・ファン・ベーヴェルンです。今から私達、生徒会メンバーが簡単な説明をするので、眠くても我慢して聞いて下さいね」
エリオット!
うん、キャアキャア言われるのも分かるわ。
彼も5年でますますイケメンになった。
14歳の成長期だから、身長もグンと伸びたしね。
最後の言葉は寝ようとした私に対する注意かしら。
目が合った上に、笑ってなかったもの。
目敏いわね。
「では、説明は私から。
副会長のランドルフ・フォン・ローレヌだ。
まず、この学園についてだが――――
―――以上、規則と伝統を守って勉学に励むように」
ついに、生ランドルフ!
すでにゲームの面影があるというか、ほぼ完成されてるというか。
知的なイケメンも良い‼︎
最後の「励むように」のキリっとした表情、
もう1回見たい!
ワンモアプリーズ!
「(ん?今お嬢様が変な思考に走っている予感が)」
「(シルヴィアは何で僕の時より、ランドルフにキラキラ瞳を輝かせているんだ)」
「はーい、最後に僕からこの後の説明をするよぉ!
生徒会会計のジルベルト・フォン・ユースルン、よろしくね。
式が終わったら、各クラスに移動してもらって、担任の先生から説明を受けて解散!
あっ、シルヴィア・フォン・ヴェルトハイム嬢と
エリザベス・フォン・メディス嬢は、
終わり次第、生徒会室に来るように!」
はい?
「只今を持ちまして、閉式致します。
新入生の皆さん、指示に従い、移動を開始して下さい」
リ、リアム!
執事科の方を見やると、リアムもこちらを向いていた。これぞ以心伝心ね!じゃない!
どうしよう〜!
ん、口パクで何か言ってる。
えーっと「ど、ん、ま、い?」
お前も連れて行くからな!
生徒会室に!
キッと睨んでやったら、鼻で笑われた。
まだゲーム始まってないけど、クビにして良いかな?
「シルヴィア様、教室に向かわれないのですか?」
私がリアムを睨み付けていると、お隣さんが声をかけてきた。声まで可愛いわ。
「ええ、参りますわ。あの失礼ですけど?」
「あっ、ごめんなさい!
私、アンネ・フォン・ランドと申します。
シルヴィア様は入学前より有名でしたから、
お会い出来て光栄ですわ」
ランド伯爵家の?
という事は、エリオットの婚約者候補だった子ね。
お顔を存じ上げてなかったわ。申し訳ない。
「まあ、ランド伯爵家の!
たしか、鉱石がたくさん採れるんでしたよね?」
「はいっ!ご存知でいて下さったのですね!
嬉しいですわ!」
「え、え。おほほ。」
それ以上の事は、あまり知らないわ。
リアムに調べさせなきゃ。
「さて、皆さん。
改めてご入学おめでとうございます。
担任のウリム・フォン・スカルティです。
主に皆さんとは、歴史学の授業でお会いする事になるでしょう。
では順番に自己紹介をお願いしますね。
そうだな、1番左手前の君から」
次々と自己紹介が進んでいくけど、名前が紛らわしくて覚えられない。
あと5人で私の番ね。フレンドリーに笑顔よ、シルヴィア。
「エリザベス・フォン・メディスですわ。
皆様どうぞよろしく」
エリザベス、相変わらず気の強そうなお顔で。
「シルヴィア・フォン・ヴェルトハイムです。
どうぞ気軽に声をかけて下さいまし(決まった!)」
「「「(ムリだよっ)」」」
「あの方が殿下の――」「『シルヴィー化粧品』を創られた方なのでしょう?」「少し近寄りがたいオーラをお持ちね――」「王妃様のお気に入りなんだとか」
皆さん、聞こえてますよ。
特に「近寄りがたい」と発言したのは、どなた?
こんなにオープンな令嬢は居ないでしょうに。
「――はい、覚えられたかな?
今日はもう帰っていいですよ。明日から授業始まりますから、ゆっくり休んで下さいね。
シルヴィア君とエリザベス君は、生徒会室にね」
1回でクラス全員覚えるなんて、無理ゲー。20人よ?
「シルヴィア様、ごきげんよう」
「アンネ様、また明日」
もう帰ってしまうの? 私も一緒に帰りたいわ。
「「「エリザベス様、ごきげんよう」」」
「ええ、ごきげんよう。皆様」
すでに取り巻きが居るだとっ!
恐るべし、エリザベス・フォン・メディス!
「シルヴィア様、私達も生徒会室に参りましょう?」
「そうですね。ご一緒致しますわ(行きたくない)」
リアムまだかしら。エリザベスと2人でなんて嫌よ。
エリオットとの婚約だって、どう思われているか分からないのに。
「お嬢様、遅くなり申し訳ありません。
お迎えに上がりました」
「リアムっ!(待ってたわ!)
エリザベス様、彼は私の執事で、執事科に入学致しましたの。一緒に連れて行ってもよろしいですか?」
「まあ、同年代だなんて……シルヴィア様の執事は、ずいぶん若くてらっしゃるのね」
素直に驚いているのか、嫌味なのか読めないわ。
後でリアムに聞こう。
この小1時間で、聞きたい事だらけになってしまった。
―――コンコン
「どうぞ」
「ごきげんよう、殿下、生徒会の皆様。
メディス公爵家のエリザベスにございます」
さすが四大公爵家。素晴らしいカーテシーだわ。
自信が溢れていて、とても綺麗。
「ああ、呼び出して悪かったね。
中に入って、シルヴィアも」
「「失礼致します」」
「皆様、ごきげんよう。
先程はお疲れ様でございました。
執事を同席させても?」
「リアムも来ているのか。入って来るといい」
「失礼致します」
室内には、壇上で話していたエリオット、ランドルフ、会計さん以外に2人。
これまたイケメン。
「3人とも座りなよぉ、お菓子食べるー?」
さっきは、衆人環視の中で呼び出されたせいで、
ちゃんと見ていなかったけど、うん。素晴らしいわ。
あざと可愛い系の生徒会会計……萌える。
自分の魅力を理解してやっているところがすごい。
「それでご用件とは?」
「頼み事があるんだ。生徒会は僕を含めて4人が3年生、1人だけ2年生で活動しているんだけど、次代が1人しか居ないのが問題でね。
君達に生徒会を手伝ってもらいたい」
「「もちろんですわ!
お断りしますわ!」」
「「え? 」」
エリザベス、正気なの⁈ 断るタイミングよ!今は!
手伝うだなんて勘弁願いたいわ。
1年のうちから、働かされなきゃいけないなんて嫌よ。
絶対、面倒ごとの塊じゃない。
それに学校でまで、エリオットと一緒に居すぎたら、
婚約解消の流れが上手くいかないかもしれない。
それは、困るのよ。
「(シルヴィア様ってバカですの⁈
公爵家の者が生徒会に入るのは、当然の事。
それを、1年の段階で殿下自らが誘って下さってるんですのよ!
どこに断る理由がありますの!)」




