魅惑の香り、その名もカレー。3
コーヒー豆は重いから、屋敷に直接持って行ってもらう事にした。
あとは香辛料ね。
「ねぇ、コレとは全く違うけど、香りが強い食材ばかり取り扱ってるお店知らない?
例えば、インデニア国の商品とか」
「インデニアですかい?珍しい国を知ってますねー、王都ではまず無理でさぁ。
あーでも、もっと東の変わった調味料なら知ってますよ!」
「教えて頂戴!なんなら赤い実も買うわ。ちょびっとなら」
「ハハっ、面白いお客さんですねぇ。
まるでお貴族様みたいだ。まあ、お貴族がウチの商品買うわけないかっ」
「「「・・・・・」」」
――――――――――――
――――――
―――
ココがさっきの人が言ってたお店ね。
なんだか壺がいっぱい。
店員さんはどこかしら。
「あの、変わった調味料があると聞いて来たのですが」
「あー、はいはい!すぐ行きますー!」
――――っっっ!!!
これはっ‼︎エリオットやお兄様に負けず劣らずのイケメン!
「おっ、お客さんか?
悪いな、今親父出てるんだ」
しかもワイルド系ときた!
艶のある黒髪は前髪かき上げスタイル。
深紅の瞳に似合う、ニヒルな笑み。
体格はまさに成長期?
とても良いポテンシャルをお持ちね。
思い返せば7年間、綺麗系ばかりに囲まれてきた。
7年振りのちょっと乱暴な感じの美青年、滾るわっ!
カメラ、カメラをココに!
ワイルド美青年×ふわふわヒロイン
アリよ。萌えるわ。
「構いませんわ、貴方をお持ちか………あら失礼。
商品を見させていただいても?」
「おお、良いぞ。そっちのお兄さん方じゃなくて、嬢ちゃんがお客だったのか。驚いたな」
「「嬢ちゃん………」」
わお、お兄様はともかく、トマスまでカルチャーショックを受けてらっしゃる。
私もただのシルヴィアだったら、驚いただろうな。
もしかしたら怒ったかも。
「ええ。それで貴方のお名前は?
私の事は、シルヴィーと呼んでちょうだい」
「俺は、ビルク。で、何を探してるんだ、シルヴィー?」
「「呼び捨てっ……」」
仲良いわね、2人とも。
「珍しいもの、全て見たいわ」
「わりと全部珍しいと思うけどなー、、これとか?」
「コレはっ‼︎」
醤油!
「あとこれも俺は好き」
「まあっ!」
鰹節!
日本の調味料ばかりたくさんっ。
味噌も乾燥昆布まである。
という事は――――
「お米はっ?こんな小さい粒々の穀物!」
「ベイ穀の事か?それだったら朝飯の残りがあるから食う?」
「いただきます!」
「シルヴィーっ、落ち着きなさい。
食事は家ですれば良いだろう?
あまり迷惑をかけてはいけないよ」
う゛、たしかに厚かましかったかも。
「俺は別に構わないよ。あまりもんだし。
で、食うの、食わないの」
「そのっ、ご迷惑でなければ……ぜひ」
「シルヴィア!」
ごめんなさい、お兄様っ。
お米が私を呼んでるのよ。
「まあまあ、良いじゃん。小さい女の子が食べたいって言ってんだし。
不安ならあんたらも食えば?
そうか毒味してやろうか」
「いや、結構だ。すまないが、妹の分だけ頼む」
「りょーかいっ。そこ、座ってていーから」
ビルクは、店の隅にちょこんと置かれたベンチを指差して待つように言う。
おっこめ、おっこめ、おっこめー♪
「お待ちどう、スープは熱いから気を付けろよ」
おおぉーーっ‼︎
玄米おにぎりだ!
湯気が立つスープはお味噌汁!
きゃー‼︎ まんま日本食じゃないっ!
「ふーっ、ふーっ。……はふ、はふっ!
―――ビルクさん、お嫁にきませんか?」
「「シルヴィーっ⁈ (お嬢様っ⁈)」」
「ぁ゛ー、シルヴィーが大人になったら嫁にもらってやってもいいぞ?」
「あら、残念ですわ」
* * * * * *
「おー、おかえり親父」
「店番助かったよビルク。
おや?ウチの商品が減ってる……
角ん家の婆さんがまた買ってくれたのかい?」
「ちげぇの、平民の服着てたけど貴族だな。ありゃ。ちっこい嬢ちゃんが、いっぱい買ってってくれたよ」
「ええっ⁇ お貴族様がかい?
そりゃないだろうっ。――で、大丈夫だったのか?」
「ん?ああ……クスっ。プロポーズされたわ」
「はっ?
お前がちっこい女の子にか?」
「俺がちっこい女の子にされたんだ♪ 」
「へー、変わった子だねえ。」
「父さん、兄さん。ただいまーっ」
「「おー、おかえり!」」
次話は、「カレー。4」と「シルヴィア以外の視点」です。