色々頑張ってたら、太子忽に目を付けられた
本日2回目の投稿となります。
一気に半年を経過させております。
色々と知識チートが進んでいる感じです。
最後の方で、今までとちょっと違った展開になりますので、
是非、お楽しみ頂ければ幸いです。
引き続き、感想等お待ちしております!
何卒、よろしくお願いいたします。
「風英。太子忽様が君に会いたがっているんだけど……」
突然、鮑叔が、俺にそんな話を持ってきた。
鄭における鮑叔の実質的な主である、鄭国の太子の忽様が、俺に会いたがっているらしい。
「えっと、何のために……ですかね?」
「そりゃぁ、紙とか油とか味噌とか醤油とかとかの話じゃないかな」
まぁ、そうなるか。
管仲をはじめとした仲間たちと、精油の実験や油料理の試食をしてから、既に半年以上が経過していた。
この間にやったことといえば……
1.簀桁(紙を漉くための道具)、漉き舟(原料の繊維と水を入れる水槽部分)の製造と工夫による、紙の生産の効率化及び品質の向上
2.くさび締め方式の搾油機を試作しての、植物油の生産実験
3.醤油と味噌の生産実験
4.酵母液づくりの検証
などが挙げられる。
風花の【元の時代のインターネットに接続できる検索機能】を駆使して、結構頑張ったのだ。
今や、件の倉庫は、木工所のような様相になっている。
この時代、青銅は使われるようになっているもの、製鉄技術はまだ確立されていない。
なので、色々な機械や器具を工夫するための材料は、木材に頼らざるを得ないわけだ。
まぁ、製鉄技術があったとしても、木材の方が扱いやすいから、結局同じ道を選択したかもしれないけどね。
製紙の道具である簀桁は、笹を編んで簀を作るのに苦労した。目の細かさを均一にするのが、非常に難しいのだ。
これは、手先の器用な管仲が活躍してくれて、何とか形になったとはいえ、大量生産を実現するには、いずれは職人を雇うか育成していかなければならないだろう。
くさび締めの搾油機は、原理が単純で、機械の構造もシンプルなので、大きな問題なく試作機を作ることが出来た。
搾油機を大量生産すれば、植物油の大量生産も問題なく出来るようになるだろう。
課題は、原料となる菜種の大量生産かなぁ……この辺は農家の人に丸投げしたい。
醤油づくりと味噌づくりは、大豆が割と簡単に手に入ることが分かったので挑戦してみたのだ。
麦麹を黄酒の酒蔵から手に入れる事ができたので、これも割と順調に結果を出すことができていた。
その結果、俺の料理の幅がかなり広がって、食生活の改善は順調に進んでいる。
最後の【酵母液の作成】だが、これは【パンづくり】のためにチャレンジしているのである。
イースト菌が無いからね、天然酵母のパン作りをしようと思ったのだ。
つっても、単純に果物を水に漬け込んでるだけなので、発酵待ちをしている段階、というわけだ。
今のところ、これらは俺、風花、銀影、管仲と、時々鮑叔の5人で頑張っている。
外部の人間を入れるのは、まだちょっと恐い。
情報が漏れるのを避けたい、というのもあるのだが、やはり勝手を知らない世界で、他人と縁を結ぶのは、かなり気力と覚悟が必要なのだと、この半年で俺は知った。
特に、管仲には多いに活躍してもらっている。
管仲が以前に提言してくれた通り、紙は現在、一部の限られた人に対してだけ、高額で流通させる状態を保っている。
管仲の予想を上回る価格で販売することが出来ていて、値段は【1枚2両(1万円)】が相場になっていた。
これは、俺たちが紙の品質向上に成功している結果でもあるのだろうけれど、管仲の手腕に拠るところが大きいといえるだろう。
販売先の厳選や、交渉、商品価値の見極めなど、管仲に任せておけば、問題なく事が進むのだ。
お蔭で風英一家の財政状況は、かなりウハウハな状態になっていたりする。
植物油、醤油、味噌は、あくまで検証段階にあって、まだ市場に流すつもりはない。
ただ、これらを作った料理の研究は、鮑叔の屋敷の料理場でも行われていた。
俺が研究しても良いのだけれど、現地の料理人にチャレンジしてもらった方が、現地の食材、現地の舌に合った物を作ることが出来ると思ったからだ。
植物油は、既にこの時代に存在しているものだし(俺は製造の手間を軽減しているだけ)、醤油、味噌にしても、既に醤が存在しているので、所詮は大豆で新しい醤を作っているだけに過ぎない。
だから、これに関しては、情報が他に漏れても問題ないと思っているのだ。
だけど……
「ああ、そういえばこの前、太子忽様が鮑叔さんの屋敷で、夕餉を食べていかれたんでしたっけ?」
「そうそう。かなり感動されていたね。油と味噌と醤油を使った料理にね」
「あちゃー……」
「そうでなくても、呼び出しは時間の問題だったと思うよ? 紙が今、貴族の間でかなりの噂になっているからさ」
仕方ないかー。
鮑叔さんの主ってことは、半ば俺の主みたいなものだもんな。
今まで会っていなかったことの方が、不自然だとも言えるのだ。
「いつ参じれば良いですかね?」
「突然で悪いんだけど今日だね。今晩いらっしゃる予定。悪いけど今日は、こっちの方に泊まって貰えるかい?」
「分かりました」
折角なので、今晩の料理は俺が作らせてもらうことにした。
王子様のご機嫌を取って、悪いことはあるまい。
用意したメニューは
・川魚の甘露煮(味醂は無い)
・回鍋肉もどき
・味噌汁
である。
ちょっと、味が濃いものが多いけれど、酒の肴になるだろうから問題ないだろう。
間に合えば、天然酵母のパンも提供したかったところだけれど、残念だが酵母液がまだ完成していなかったので、今回は見送った。
「これを……お前が作ったというのか?」
上座からの迫力のある声が、俺に向けられる。
何この人? 超恐いんですけど!?
太子様、王子様っていうんだから、ちょっとナヨナヨした男を想像していたんだけれど……もうこれ、無頼の者じゃん。
ブライアンって呼んじゃうよ?
無造作な総髪に、厳つくて堀の深い顔。
本来、成人した貴族なのだから、冠を被るべきはずなのだが、屋敷に着いた時点で早々に脱ぎ捨てられていた。
かたっ苦しいのはお嫌いらしい。
着ている深衣は、明らかに上質であったけれど、柄の無い黒の染め付けで、太子忽の【凄み】を増すのに一役買っている。
乱暴に着崩されているから、胸や腹の一部が見えているのだが、引き締まった良い身体をしているのが分かる。
王子様なんだから、良いものを食ってブクブク太れ! この野郎!
そういえば、管仲が『太子忽様は武勇に優れた方だ』と言っていたような気がする。
そんなことを、ぼーっと考えていると、案の定、怒られました。
初対面の太子様の前で、ボーっとしちゃいかんよな。
「何を呆けておる? さっさと答えぬか!!」
「は、はいぃぃぃ! お、俺、いや、私めが作りましたにごじゃりまするー。ははぁー」
思わず平伏する俺である。
下手を踏めば、物理的に斬り捨てられそうで、超恐い。
「あー。風英。大丈夫だよ。太子様は、こう見えて気さくで気安い方だから」
「こう見えて? どう見えているというのだ、鮑叔よ」
「それを聞きます? 僕には【金持ってる破落戸】に見えますね」
「呵っ! 言いよるわ!」
あれ?
鮑叔の失礼を笑い飛ばしている辺り、本当に気安い人なのかも知れないな。
ちょっと肩の力を抜いてみるか……
「俺の作った料理はお口に合いましたでしょうか?」
「うむ……旨いな。少し味が濃いが、むしろ酒に合って良い」
うん。狙い通りだぜ。
「大豆から新しい醤を作っているそうだな?」
「はい。あ、その節は、工場に使う建物をご紹介いただきまして、ありがとうございました」
「ああ、構わぬ。近頃噂になっている【紙】なるものを作ったも、お前だとか?」
「俺……だけの力ではありません。仲間の、なにより管仲さんの助力が大きいです」
「管仲……だと?」
太子の機嫌が一気に悪くなるのが、見た目にも空気にも分かった。
ピリっとした空気が流れて、寸秒の静寂が広間を包みこむ。
「だから、いつも言っているじゃないですかー。管さんは優秀な人材だって」
鮑叔の明るい声で、張り詰めた空気が弛まった。
俺を含め、思わず呼吸を止めていた人たちが吐き出した息が重なって、ホッという音がリアルに聞こえた。
ちなみに、この広間に居るのは、
太子様とお付の人1名。鮑叔、鮑叔の侍従(名前は忘れた)、俺と銀影の合計6名である。
銀影は、護衛というか、俺の侍従ということで、同席を認められていたのだけれど、正直、無理やり付いてきた、というの方が正しい。
何かと面倒そうだから、彼女には男装してもらおうと思ったのだけれど、胸が宝パイすぎて隠せなそうだから、それは諦めた。
「鮑叔よ、何度も言わせるな……奴は好かん」
ふむ。
太子はどうやら管仲が好きじゃないらしい……なんでだろう?
って、分からなくもないか。
陰気で、自分を飾るようなタイプでもないからなぁ、管仲さんって。
太子とはいかにも合わなそうな気がする。
「だが風英、お前は悪くない。俺の部下になれ、士に取り立ててやる。商家の出身だとかいうお前にしてみれば、存外な出世であろう?」
「ええ!? 俺を、士族にしてくれるのですか?」
どう……なんだ?
そりゃぁ、太子の家臣になれたとしたら、すごい出世なんだろうけど……太子が王様になるかどうかは分からないって、管仲が言っていたっけ。
この時代、普通に王の長子が次の王になるのだと思いきや、そうじゃないパターンも割と多いらしい。
優秀な子が選ばれる場合もあれば、太子同士で争いが起こって、負けた太子は亡命……みたいなことも結構あるのだと聞く。
だから、太子忽は現王の長子だけれど、王になるかどうかは、これから次第というわけだ。
というか、俺は自由に生きていきたいんだよなー。
なんか、最近じゃ、金もガンガン入ってきているし、太子の家臣になるメリットって、実はそんなに無い気がするんだよね。
「ふんっ! 俺の下では不満というわけか……。鮑叔といい、俺の周りには有能だが生意気な奴らが多すぎる」
「不満……というわけではないのですが……」
「構わん。取り繕われるのは好かん。かといって、お前を邪険にするつもりも無いから安心せぇ。だが、気が向いたら俺の仕事を手伝えよ?」
「は、はぁ……。分かりました」
太子がさっぱりした性格の人で助かった。
案外、良い王様になるのかもしれないな、この人。
その時になって、俺は後悔することになるのかもしれないけれど、自由で安全な方が、やっぱり良いやね。
「では、俺はそろそろ帰るとしよう」
太子が腰を上げて、俺たちに背を向ける。
「1週間後、鄭は斉に軍を出す。山戎(異民族)が国境を侵しているらしいので、その救援にあたるためだ。大将は俺だ! 鮑叔、風英、共に来い!」
不穏な命令を放った太子は、俺たちの返答を聞かずに屋敷を出ていってしまった。
問答無用とはこのことか……。
ん? というか、俺ってば、戦争に征かねばならないってことですか???




