秘密?
「ん?」
業間休みに入り、外に駆け出すものや、仲のいい者同士が群がりだす。その喧騒が遠くに聞こえる南校舎3階の廊下で大浦がしゃがんでいる。
普段はほとんど通らないこの廊下に、特に意味もなく来た大浦が見つけたものは、床から10cmほどのところから、まっすぐ天井まで続く縦線だった。建てられてそこそこの年月が経つこの小学校には、当然ながら多くの亀裂が壁にできている。しかし、大浦が見つけたものは縦にまっすぐ、しかも天井まで続く。これまで見たことがない亀裂だった。
指で触ってみると、感触がある程度には隙間がある。ぐっと力を入れると、少し向こう側へ動いたような気がした。
「ん?」
両手で壁を押して見た。小学3年生の力でもあっけなく、壁が回転ドアのようにぐるりと回った。思ってもみない反応だったので、勢い余って転んでしまった。壁はそのまま半回転し、がちゃんとなにかが引っかかったような音を立てて止まった。
真っ暗である。
「おー。」
さっき回転したであろう壁を叩いてみるが全く動かない。
「困った?」
立ち上がると、目印があるわけでもない真っ暗闇の中を歩き始めた。ごん。
鈍い音がした。大浦の頭が何かにあたった。おそらく頭があるであろう場所を押さえる。
押さえながら歩き出すと、またすぐに肘をぶつけた。
「ふむ。」
肘と頭を押さえながら少し考える。少しすると、何かないかと手探りで何かを探し始めた。手で触れられるのはおそらく壁なのであろう平らなものばかり。ぶつかっても痛くないようにゆっくりと動かす。
ふいに右手の甲に何か平らでないものが当たった。
とりあえず引っ張ってみる。目の前に光の筋が現れて大浦は目をつむった。
目を開けた大浦の前には二畳ほどの小さな小部屋があった。右手には古びた木の机が一つ、置かれている。目の前には小さな部屋に不釣り合いな大きな窓と白いレースのカーテン。
大浦が机を触ると指に凸凹の感触が伝わった。よくよく見ると落書きが所々にある。椅子に腰掛ける。軋む音が思いの外大きい。すり減っているのか、大浦が動くたびにガタガタと揺れる。
机は天板が開く様になっていた。両手で持ち上げると一冊の古びたノートがあった。
「ほお。」
表紙にはうっすらとなにか書いてあるが大浦には読めない。中を開くと達筆な字で何かが書かれている。今では習わない旧字体の文字がたくさん並んでいる。
「ふむ?」
よくわからないがとにかく読み進む。紙が乾ききっていて簡単に破ける。捲るたびに破ける音がする。飽きたのか半分も行かないうちに捲るのをやめて元の場所にしまう。天井を見上げると校舎の中なのに見慣れない木の天井。窓の方に目をやると眩しくてその先が見えない。それでも目を凝らしているとなんとなく校庭が見えるような気がした。ただぼんやりしていてどこなのかはよくわからない。
見ているうちに意識が少しずつ遠くなっていく。細い大浦の目がもっと細くなっていく。手を枕にして凸凹の机の上で眠りについた。
大浦が目を開けると目の前には机と、その先に本棚。図書室だった。時計に目をやるともう3時間目が始まっていた。
「ん?」
焦る様子もなく淡々と図書室を出ていく。教室へ行く途中、ずっと目線は窓の外だった。




