1 ジェリス寮
金色の長い髪をたなびかせる、姉のような存在。ラキ·ホーリィ。
青みがかった黒の髪をポニーテールにしている、いつも明るいつっこみ役。ホノリス·ミンクル。
ピンクのさらさらしている髪を、自分の性格のようにふわふわさせている妹分。サキカ·ククリファス。
そのサキカのじつの姉で、オレンジ色の髪を短く切り揃えている少女。イル·ククリファス。
漆黒の髪を長く伸ばし、落ち着いた雰囲気で、冷たくも見える黒い瞳という、クールビューティーの代名詞のような容姿を持つ少女。ユイカ·ゼロリアス。
そして、黒くツンツン気味の髪と誰の目も引く、右目が藍色、左目が金色のオッドアイを持つ少年。リク·ヴェルド。
この6人が、ここ「ジェリス寮」のメンバーである。
_____
世界で一番でかい大陸、ルキウス。
そこにあるルキウス魔導大学園(略してルキウス学園と皆呼んでいる)こそ、リク達の通う学校の名前である。ルキウス学園では、主に魔術を学ぶ。
魔術とは、魔力を使って様々な現象を引き起こす事だ。
この魔力自体は、誰でも持っている。けど魔術は、何故か分かっていないが、生まれつき使えるか、使えないか。そして、どんな種類の魔術か、ということまで決まっていて、どれだけ頑張っても、これは変えられないのだ。
その魔術を習う学校自体はたくさんあるが、(というより、そうじゃない方が少ない)そのなかでも、ルキウス学園は五本指に確実に入るほど、有名な学園だ。
まず、規模がでかい。生徒数は、魔導学園最大クラスの約5000人で、学園自体が1つの街として機能しているから、土地もそこらの小さな街より断然大きいし、学園に関係無くてもたくさんの人が生活している。
さらにルキウス学園は、学校として特殊な、全年齢制を採用している。
全年齢制とは、入学テストに受かれば、赤ちゃんでも、老人でも同じように勉強できる、という制度だ。これがあるから、ラキが16才、サキカが13才、後は15才のリク達でも一緒に入学出来たのだ。
なにより、世界で唯一の「ステータスルーム」を使用している学園だ。
ステータスルームとは、入るだけでその人の魔力量や力などの『ステータス』が分かる、部屋の形をした魔道具(魔力を流して使う道具)のことだ。ルキウス学園は、これを入学テストと寮の指定に使っている。
つまり、ステータスルームルームに入るだけで、合格不合格や、その人が入る寮が決まるのだ。
寮にはそれぞれ適正値があり、それを満たした人がその寮に入るのだ。逆に言えば、適正値を満たしている人がいなければ、その寮には誰も入れない。
例えば、ジェリス寮のように。
ジェリス寮の適正値は、ずばぬけて高い。そのせいで、この数十年間入れる人がいなかったほどだ。
そこに一気に6人入ったのだから、嫌でも注目が集まる。
おそらく、皆とても強いのだろう、と。
実際、ランキングなんかをしたら、トップ10に確実に入るだろう。
リク以外の5人は。
リクの実力はひいきめに見て、下の中ぐらいだ。とうていジェリス寮に入れるレベルではない。
確かに、リクの使う魔術、『魔造』はすごい。魔力を『編む』ことであらゆる現象を引き起こすというのは、魔術は一人一つと決まっている今、普通の人にとって、喉から手が出るほどうらやましいのだ。
それに、リクは魔力量がとても多い。常人の軽く3倍はあるため、ちょっとやそっと使った程度じゃ、びくともしない。
が、それだけなのだ。
どれだけ魔術が凄くて、魔力量が多くても、そのアドバンテージを帳消しにするほど、魔術を使いこなせていないのだ。本来ならあらゆる現象を引き起こすため、上手く使えば腕を生やしたり、雷雨を起こしたり出来るのだ。しかし、リクに出来るのは、せいぜいかすり傷を治したり、ちょっとした電流を流すといった、小規模なものだ。
結果、最初はリクのことを、すごいのではと思っていた人も、今ではリクに「落ちこぼれ」のレッテルをはり、見下しているのだ。
そうしてリク達が入学して、2ヶ月もたつ頃には、リクの「落ちこぼれ」も定着してきた。
そんな、ある日のことだ。
リクの物語が加速し始めたのは。
_____
ジェリス寮のご飯は、基本的にユイ(ユイカのこと。みんなユイと呼ぶ)か、サキカがつくることになっている。ちなみにユイだと和食、サキカだと洋食をつくってくれる。なお、そのほかの家事は他の3人が(リクは自分の服の洗濯ぐらいしかやらせてもらえない)分担している。
その日の朝食の担当は、ユイだった。リクは朝は米派なので、嬉しそうに少し微笑みながら食卓についた。
「リクお兄ちゃん。おはようです」
「ああ、おはよう」
これはサキカの言葉だ。特に血が繋がっているわけでは無いが、昔からリクのことを「お兄ちゃん」と呼んでいるのだ。
いただきます、と言いご飯を食べ始める。
今日も美味いな、と思いながら食べていると、不意にイルが
「そういえば今日、魔術の実技テストだったなぁ」
と、呟いた。
「え、イル忘れてたの?」
なんて言うホノ(ホノリスのこと。ユイのように略している。)は覚えていたみたいで、昨日少し練習していたのをリクは見ている。
「ちょっとどわすれしていただけだよ」
「本当かな?完全に忘れていたんじゃなくて?」
「本当だよっ」
ガタッと音をたてて立ち上がるイルを、制したのはユイだった。
「分かったから。食事中に立たない。行儀悪いよ」
「分かったよ~ユイ」
と座るイル。ユイにはかなわないのだ。
「ホノも、あんまりからかわないの」
「う~~。ユイが言うならしょうがないなぁ」
ホノに釘をさすのも忘れない。
その光景を楽しげに見ていたリクは、
「あまりしゃべってないで早く食べろ。遅れるぞ」
というラキの言葉で食事に戻る。
「ラキ姉、おかわり」
「ああ。いっぱい食べないと力が出ないからな」
おかわりをついでくれたラキに、
「ありがとう、ラキ姉」
と、笑ってみせるリクは、心の底から楽しそうにしている。
_____
これがジェリス寮の日常であり、リク本来の日常だ。
だが、学園では……