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12の奇跡はアニマが導くっ!!     ~拾った猫が美少女に変身する奇跡~  作者: Local
プロローグ~奇跡の始まりですっ!!~
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Episode-2 黒猫は変身するものだと知る

※気に入らなかった文を修正しました

 




 時の流れとは、何とも不思議な物である。


 今朝は通勤や登校する者で賑わっていた街道も、お昼時を過ぎれば人の少なさに何処か物寂しさを感じてしまう。


  時たま空を飛ぶ雀の明るい鳴き声が、溜まりに溜まった寂寥感に追い討ちをかけるように響いていた。



「………はぁ………」



 そんな寂しさに包まれた街道を、一緒に帰る筈だった幼馴染み達に置いていかれた神城かみしろ達也たつやが、溜め息混じりにとぼとぼと歩いていた。


 気分を滅入らせ辿々しく歩きながらも、一歩一歩確実に、自宅への距離を縮めていく。



「………ったく、これだから入学式は………虫酸が走って仕方がねぇ」



 ただ座って、話を聞いて、時々席を立ってはまた座る、の繰り返しだった入学式。


 普通なら『新たな学校生活の華やかしい幕開け』と連想される行事なのだが、儀式的な時間が大の苦手な達也の前ではただの『拷問』としか認識されない。


 一時間強の長く苦しい戦いを乗り越えた体は既に満身創痍。もう一度でも強い衝撃が来れば、たちまち精神が崩壊してしまうだろう。


 それほどのストレスを、この比較的大きな身体一杯に溜め込んでいた。



「新しい門出がどうの、新しい仲間がどうの………長ったらしく話されなくても見りゃ分かるっつーの………」

 


 負のオーラを滲ませながら歩くその姿は第三者から見れば非常に怪しく見えてしまうものであったが、今の達也に周囲の視線など気にしていられる余裕はない。


 たった一つ、先の見えない暗闇の中向かうしかない彼の目標が、俯く頭を更に重くしていた。



「………佳祐けいすけ叔父さん、一体何処にいるんだよ………」



 彼の叔父で天才科学者、神城佳祐の失踪事件から早三年。


 警察は勿論、達也も諦めずに捜索を続けているが未だに足取りを掴めていない。


 警察ならまだしも、達也は高校一年生になったばかり、探すことのできる行動範囲は高が知れている。それは達也自身が痛いほど理解していた。





 ーーーーもし、佳祐叔父さんが見つからなかったら。





 突如として頭に浮かんだ不吉な言葉を振り払い、自らの拳を力強く握りしめる。



「絶対見つけ出すから………絶対無事でいてくれよ」



 達也の持つ精神力と意志の強さは、常人が持つそれを遥かに上回っている。自分に関することへの決断力と、それを達成するまで消えることのない執着心と闘志を持つ、数少ない人間の一人だった。



 しかし、そんな達也にもまた、心の迷いは存在する。



 入学式ジゴクでの校長の話、その中で唯一頭に残っていた言葉をそっと呟いた。


 

「………人生に張り合いを、ねぇ………」



 口にした途端、秘めていた迷いがぶくぶくと、大きく膨れ上がっていく。



 この三年間、佳祐の捜索以外に関心を寄せる事なく日々を過ごしてきた。学校行事には必要以上に打ち込まず、捜索の妨げになるという理由で部活動にも入部しなかった。


 そんな中学生らしからぬ我慢の連続が、達也の感覚を麻痺させてしまったのだろう。彼は自分でも気づかないまま、自分と佳祐に関すること以外の『何か』に期待するのを止めてしまっていた。


 それが悪いことだとは微塵も感じなかった童心の頃なだけあり、少しだけ"大人"になった今の自分には少なからずの後悔がーーーーー有ったり無かったり。



 暫くそれについてぼうっと考え込んでいたが、徐に前髪を掻き上げた後、自分に言い聞かせるようにポツリと小さく呟いた。



「………ま、どうでも良いか、そんなもん。さっさと帰ろ」



 体が軽くなったのを感じた達也は、神城家へ通ずる街道を早歩きで進み始めた。






 ーーーーーーーーーーーー






「………」



 急ぎ気味で自宅に向かっていた筈の達也の歩みが、ピタリと効果音が出そうなくらい綺麗に止まる。



 眼前の状況、少なくとも自身の目に初めて収まる光景だった。



 彼を通させまいと言わんばかりに足元に佇む者、それは………



「みゃあぁ!」


「………黒い、猫?」



 一匹の小さな黒猫。


 くりくりとした愛らしい目を持つ真っ黒な猫が、品を感じさせる優雅な座り込みで目の前に立ち塞がっている。


 あまり、というよりは全く、猫の事には詳しくない達也だったが、その猫が"ただの黒猫ではない"ことは容易く理解できた。



「珍しいな………猫ってなんか付けられんの、苦手なんじゃねぇのか?」



 その場に屈み込み、目の前の黒猫をゆっくりと観察し始める。



 まだ子供なのか、普段見かける野良猫に比べると小さな体躯。達也を見詰めるそのつぶらな瞳は、どういう原理でそうなっているのか気になる程綺麗な緋色に染まっている。


 これだけでも充分珍しいのだが、最も注目すべきはその身に纏われた"衣服"。


 まるで人が着るような"ブレザー"の黒ベストと、ご丁寧に尻尾を通す穴が開けられたスカート。頭には既に猫耳があるというのに、白い"猫耳ベレー帽"を被らせられている。



 装飾品を付けられるのを嫌うという猫にとって地獄と言っても良い程の、装飾品のオンパレードだった。



「見れば見るほど不思議な猫だ………」



 観察を一通り終え、突いた膝を上げてゆっくり立ち上がる。


 そして周囲で歩くまばらな通行人には聞こえない程度の小さな声で、そっと猫に語りかけた。



「………飼い主が心配してんぞ、さっさと家に戻れ」



 すると黒猫は、彼の言葉を理解したかの様に頷き、「みゃー」と愛らしい声をあげる。


 その姿を見届け「よし」と頷き返し、達也は家に向かって歩き出した。






 ーーーーーーーーーーーー






 猫の観察から五分ほどが経過。



 自宅の屋根が見え始める距離まで来た達也は、えも言われぬ満足感を感じつつ、同時に、心底不満げに顔をしかめさせていた。


 今正に抱えている問題、何とも希少的な確率で起きる問題なだけあり、引いてしまった自らの凶運が疎ましくてしょうがない。


 戻れと言った、確かに言った。なのに、何故、何故ーーーー



「………どうしてこうなった………あの猫め………」



 先程観察した黒猫が彼の後をぴったりとマークし、とことこと付け回してきてしまっている。



 達也が歩き出すと猫も歩き出し、止まって振り返ると猫が止まる、という、何とも不思議な『だるまさんが転んだ』を繰り広げていた一人と一匹。


 此方がどんな手を使って追い払おうとしても黒猫は諦める気配すら見せず、とうとうこうして、家の近くまで連れてきてしまった。



「どうすっか、あいつをこのまま飼うわけにはいかねぇし………」



 うーんと唸りながら進むも、その間も黒猫はずっと付いて来ている。


 早くどうにかしないと、と心で叫ぶも空しく、思案に暮れて閉じていた目を開ければ見慣れた玄関の扉が目の前に。無策のまま目的地に辿り着いてしまった。


 こうなってしまえば仕方がない。大きく深呼吸をした後、荒療治に出る覚悟を決める。この長い鬼ごっこを早く終わらせてしまおう、と切に願いながらドアノブに手を掛け、大きく深呼吸を一つして集中力を高めていく。



 息を吸って、吐く。この猫の裏をかく為のタイミングを掴み、その一瞬に全てを解き放つ。



「………おらっ!!」



 威勢の良い掛け声と共に、勢い良くドアを開け、勢い良く中に入り、勢い良くドアを閉める。


 幸運にも、ドアハンドルを握る手に残った感触の中に、何かを挟んだ感触はなかった。



 ーーーー作戦成功。



 どうやら黒猫を挟むことなく、むしろ一歩動く暇さえも与えず、閉め出すことが出来たようだ。ホッと安堵の溜め息を吐き、酷使した肩をゆっくりと回す。



「なんとかなった………作戦大成功、ってところだな」


「みゃー! みゃー!」



 隣から聞こえてきた同意と祝福の声に、達也は酷く満足気に頷いた。



「うんうん、やっぱそう思………………っ!?」



 あまりのショックに体が固まってしまう。


 先程あの黒猫は一歩も動いていなかった。しかも、達也絶対に入れさせない、という一心でドアを動かしていた。そんなハイスピードで動くドアを掻い潜り、玄関の中に入るのは至難の技、否、"ただの猫"には不可能だ。


 なのに隣から"あの"愛らしい声が聞こえる、一体どういうことなのだろう。


 声がした方向を、ぎこちないロボットのようにして振り返る。



 そこには、なんとーーーー





「にゃん?」



 先程の重装備黒猫が、不思議そうに首を傾げながら鎮座していた。



「………嘘だろ」



 余りのショックに青ざめ、呆然と立ち尽くす達也を嘲笑うかのように、黒猫ははしゃぎながら廊下を駆けていった。


 

「あっ!おいこら、待てっ!! どうやって入って来やがった!?」


 

 逃げる時に『待て』と言われて待つ者はいない。黒猫はスピードを殺さない見事な体重移動で体を曲げ、悠々とリビングへ侵入していった。



「ーーーーーっちぃ、逃がすかっ!!」



 後を追うようにリビングに走り込んだ達哉は、"衝撃の光景"を見ることとなった。





 その、光景とはーーーー






 白い猫耳ニット帽からはみ出る長く綺麗な黒髪を低めのポニーテールにしてまとめ、髪の色と同じ黒を基調にしたブレザーをそつなく着こなす少女が、『自分に向かって飛び掛かってくる』、そんな光景。




 ーーーーなんだ、これ。世界が、物凄くスローモーションだーーーー



 

 そんなことをぼんやりと思ったその時には、少女の体が慈悲もなく激突してきていた。



「………にゃあっ!!」


「どわっ、ぐふぅっ!?」



 少女と達也の体が鈍い音を立て、リビングのカーペットへと倒れ込む。


 此方がなんの受け身も取れず背中から思い切り倒れ込んだのに対し、少女は達也の腹の上に跨がるようにして着地することによって、膝を少々打ち付ける程度で済ませていた。


 理不尽な痛みに眉を潜めて苦しんでいると、混乱した様子の少女が焦点の合わない目をふらふらと四方八方に向ける。



「………うぅ、いたた………勢い余って空中で変身しちゃいましたぁ………」



 身長から察するに歳は達也とそう変わらない十四、五歳程。


 幼いその外見は中学生を思わせるが、その痛みに歪んだその顔は、達也の両隣に住む幼なじみ達に負けないほど端麗でーーーー






ーーーーとても可愛らしい、少女であった。





 

次回予告


こうしてめでたく章名通り、プロローグに戻った達也


 突如として現れた少女、桜の正体とは?

そして桜から言い渡された衝撃の事実に、彼は決断を迫られていた………



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