第七話:リュイスの日記、宿なし家なしえるえる
立ち枯れの冬の空。
「ちきう」とコールの平和条約()が決まってから、早一週間。
リュイスは路頭に迷っていた。
「お腹すいタ。」
エイリスの厳しめの意向により、自分のケツは自分で拭けということで、宿もご飯も全て現地調達になったのだ。
弍本通貨、一ヶ月五千円という財布の紐を締めまくったお小遣いにより、リュイスたちELFの生活は詰んでいた。
「マウルもどっか行っちゃったシ、ボクどうすればいいノ?」
くぅ〜となるお腹を抑えて、リュイスは言った。
現地住民は新たな統治者であるELFに非協力的で、場合によっては石を投げてくる。
リュイスは心の中で石投げ族と呼んでいたが、彼らにはニホンジンという族名があるようだった。
「える〜……もう動けないヨォ。」
手に移動式簡易ハウス――みかんの空き箱を持ってリュイスはペタンと座る。
そこはイルミネーションの輝く公園で、キラキラと幻想的な光景が広がっていた。
細やかな雪が降る。
空き缶を手前に置いてリュイスはお駄賃が降ってくるのを待っていた。
「ママー、あれなぁに?」
「しっ、見ちゃいけません。」
現地民が目を逸らす。
鼻垂れ小僧と化したリュイスは寒空の下震えていた。
家族と思われる「ちきうじん」の手にはエルタッキーフライドチキンが握られている。
リュイスは一昨日、家電量販店で「クリスマス」という特別な日にはエルタッキーを食べるという情報を仕入れていた。
エルタッキーフライドチキンとは「ちきう人類」を魅了する、魅惑の骨付きチキンのことだ。
リュイスもいつか食べて見たいなと思いながら、その小さな瞳を閉じる。
聖夜に奇跡は起こらない。
リュイスは「クリスマス」という夜に食べるケーキに想いを馳せた。
そんなときだった。
「大丈夫?」
天使の声のように甘やかな一言が、リュイスにかかる。
リュイスが顔を上げれば現地住民の成人男性が、リュイスを心配そうに見つめていた。
咄嗟にリュイスは餌待ちの子ツバメのポーズを取る。
これはエイリスから習った、非常事態にご飯を貰うための、可愛い仕草だった。
人間は突如、変顔を始めたELFに物怖じせず。
リュイスを抱き上げると、そのまま持って帰った。
リュイスはというと、突如持ち上げられ運ばれるという恐怖の事態に、完全に固まっている。
人間如き下等生物に触れられたのも屈辱であるが、それ以上に読めない展開が怖かった。
人間――個体名、線崎はボロボロのアパートにELFを連れ込むと、石油式ストーブの電源を入れた。
カチチチと音がして、なんとも言えない油の匂いが広がる。
リュイスの真っ赤になった耳に温もりがじわじわと伝わってきた。
そして少し安心すると、またお腹がなる。
線崎は少し笑うと、白い皿の上にエルタッキーフライドチキンを乗せてケーキをより分けた。
「はい、どうぞ。」
リュイスは青い瞳を輝かせて、夢中になって頬張る。
もぐもぐと食べ終えたリュイスは、満足そうに頷いた。
「なるほど……これが“ちきう”の家畜化プロトコル。」
線崎がむせる。
「……え?」
リュイスはメモ帳を取り出して真剣な顔で書き込んだ。
「弱った個体に食料を与えて懐柔。
従順化、成功例ありっト。」
そしてにっこり笑う。
「ニンゲンって優秀。これ、餌付けってやつネ。」
線崎は何も言わず、ストーブの火力を一段弱めた。
ELF――永遠に倫理がふわふわしてる奴はこういう存在だった。
――後日。
【ELF観測ログ補足】
対象:ニンゲン個体名「線崎」
状態:飼育成功(仮)




