カスパルの願い
「……今の話のくだりから、もう既に分かっていることと思うが──」
ザガロ退場後、父がおもむろに話し始めた時だった。
クロニエ様が突然「子爵、できればまず、僕に話をさせてください」と手を挙げて発言したのだ。
これまではただ、傍観者のように黙って成り行きを見守っているだけだったのに。
「ほう……いきなりどうした?」
父にとっても、クロニエ様の発言は予想外だったのだろう。驚いたように一瞬だけ目を見開いた後、父の瞳に興味深げな光が宿った。
「僕と子爵令嬢は、ほぼ初対面の間柄です。これから互いにより良い関係を築いていくためにも、最初は僕から気持ちを伝えさせていただくことが何より大切だと考えました。なので……どうかここは僕に譲ってくださいませんか?」
ん? より良い関係? それってどういう意味?
クロニエ様の言った言葉の意味が理解できず、私は思わず首を傾げて父を見上げる。けれど、父は何事かを考えているかのように腕を組んだまま、その視線はクロニエ様へと固定されていた。
「あの、お父様──」
「まあ、いいだろう。何事も最初が肝心というからな。貴殿の手腕を見せてもらう意味も込めて、私は口を出さぬこととしよう」
「ありがとうございます!」
どうやら状況を把握できていない私だけを置き去りに、話は決まってしまったらしい。
クロニエ様は父に深々と頭を下げた後、なぜか私のすぐ側までやってきて、流れるような動作で片膝を床についた。
「ミディア嬢、今日出会ったばかりなのにも拘わらず、このようなことを言い出す僕を軽蔑しないでほしいのですが、僕はこれからの将来、全身全霊、誠心誠意、僕の全てをあなた一人に捧げると誓います。決してよそ見などしませんし、浮気などもってのほか。僕はあなただけがいてくれればいい。ですからどうか、僕の愛をお金で買ってはいただけませんか?」
「…………え?」
あまりにもな内容に、私の頭の中は、数瞬の間真っ白になってしまった。
え? 待って? クロニエ様は……今なんて?
途中までは、オペラ男優顔負けのものすごく熱い愛の告白だったと思う。
なのに最後──最後に……お金って……言った?
「あなたの愛を……お金で買えと、そう言ったの?」
「はい、そうです」
悪びれる様子は全くなく、まるで自分は正しいことを口にしている──とでも言いたげに、クロニエ様は大きく頷く。
「実は僕、今日あなたが『愛をお金で買えたらいいのに』と言っているのを耳にして……。幸いにも僕は婚約者がいませんし、加えて我が家は領地も持たないただの男爵家でしかないため、余計なしがらみなどもありません。貴族として結婚するのに何の旨みもない僕は、普通にいけば独身街道まっしぐら。悪い方向にいけば、問題を抱えた女性を高位貴族から押しつけられて終わりになる。力のない低位貴族家に生まれた運命として、そんな人生しかないと、僕はずっと諦めながら生きてきました。しかし、あなたに僕の愛を買ってもらうことでノスタリス子爵家と縁をつなぐことができれば、僕にとってそれは最高の人生への幕開けにほかならない。だから……だからどうかお願いです! 僕の愛をあなたのお金で買ってください!」
「え、ええ……!?」




