美しい母2
そんなお金のことばかりを並べ立てられたプロポーズに、母は最初呆気に取られ、ポカンと口を開けてしまったのだとか。
けれどすぐに間抜けな顔を晒してしまったことに気づいて、サッと俯いて顔を隠したものの、それを見た父の口から『可愛い……』という、今の父からは想像もできないような言葉が漏れ出たらしく。
自分の間抜けな顔を『可愛い』と言ってくれたことと、貴族と結婚するより平民同士で結婚した方が確かに気楽だということ。
それに何より『愛をお金に変えて一生涯捧げる』なんておかしなことを言う人は後にも先にもいないだろうということで、母は父のプロポーズを受けることに決めたと教えてくれた。
「でもまさかあの人が、愛する妻の私までお金儲けの道具に使うなんて夢にも思わなかったけれどね」
茶目っ気たっぷりにそう言って笑った母は、今や我が家が運営する商会にとって、なくてはならない大事な人となっている。
何歳になっても美貌の衰えない母は、商会の“広告塔”として日々様々な新商品を身に纏い、参加できる限りのお茶会に意欲的に出掛けて行っては、何枚もの注文書を手に帰宅するのだ。
最初は自分が広告塔となることに驚いたらしいけれど、新商品を誰よりも早く試すことができるのは気分が良いし、またそれをお茶会で貴婦人達に羨ましがられるのも快感だとかで、今では一切嫌な顔せず喜んで出掛けて行くようになった。
実際のところ、新商品をお茶会で披露するのが母か別の人かで売り上げにかなりの差が出るみたいだから、母を広告塔に選んだ父の審美眼は、さすがとしか言いようがない。
現在父が躍起になってお金を稼いでいるのも、『愛をお金に変えて~云々』の話を聞いた後なら、母への愛情を示すためだと納得もできた。
私や兄にとっては厳しい父であり、お金のことばかりに固執しすぎて時々愛情を疑いたくもなるけれど、母に対してだけはいつでも父は優しい目を向けているし、家の中の使用人の数は最低限にしているのに、外出の多い母に対する護衛の人数は王族もかくや──というほど雇っているから。
そういった面だけ見ても、父の母に対する愛情は今も一向に冷めることなく、延々と注がれ続けているのだろう。
ただ娘としては、できればその半分──いや四分の一でもいいから、こちらにもその愛情を向けてもらえないかな? と思わずにはいられなかったりする。
「父に愛されていないわけじゃないんだけど、こうして考えてみるともの凄く差を感じるのよね……」
私室のベッドに倒れ込み、枕に顔を埋めながらそう呟いたのを最後に、私の意識は急速に薄れていった──。




